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第15話 忍者、騒々しくも楽しい朝を迎える
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斬九郎がラステルに来て二度目の朝がやってきた。
「いい天気でござる」
寝起きは爽快。
気分は上々。
結局、歓迎会は深夜まで続いたため、斬九郎はパルノエの空き部屋を貸してもらい、そこで二日目の夜を過ごしていた。
勝手な行動を取るのはどうかと悩んだが、すでにダンクが手を回しており、イヴリットから了承を得ていたため、心置きなく最後まで宴会を楽しむことができた。
はじめのうちは目線が高く感じて寝にくく、不便に感じていたベッドも、慣れてくれば問題ない。枕も同様だ。畳がなく、イグサの香りが恋しいと思った時もあったが、全面木製というのは、それはそれで素材の温かみが感じられる造りといえる。
住めば都とはよく言ったもので、何事も前向きに捉えようと心がけるだけで大きく変化した生活も受け入れることができた。
窓の外に広がる景色も、戦国時代の矢凪国のものとは似ても似つかないけれど、早朝にも関わらず商人たちで活気に満ちている街並みを見ていると根本的なところは変わりないと再確認する。
ひと息ついて、何気なく視線を右側へ移すと、
「ん……」
静かに寝息を立てるリーナが寝ていた。
「…………っっっ!!?」
斬九郎は声にならない声をあげる。
なぜだ。
なぜ、リーナが同じベッドで寝ているのか。
若い男女が同じ布団で一夜を共にしたとあれば、あらぬ噂が蔓延するは必然。
――いや、そんなはずはない。
何もやましいことはしていない。
斬九郎は必死に記憶の糸を手繰る。
昨夜は酒を一滴も飲んでいないため、最後の最後まで素面でいた。だから、寝る直前の様子も鮮明に記憶している。
宴会がお開きになったあと、リーナとアリューは同じ部屋で寝ると、リーナの私室へと向かい――
「! アリューだ!」
光明が見えた。
最後までリーナといたであろうアリューなら、斬九郎が連れ込んでいないと証言してくれるはず。そう思ったのも束の間。
「ぐぅ……」
今度は反対方向から寝息がした。
恐る恐る、そちらを見れば、
「あ、アリューまで……」
最後の希望だったアリューも、同じベッドで寝ていた。おまけに、ちょっと服がはだけていていろいろと間一髪な格好である。
現状をおさらいすると、斬九郎はリーナとアリューに挟まれる形で寝ていた。
思わず頭を抱えてしまう。
たしかに、布団に入って目を閉じるまでは一人だった。
なぜ、目覚めたらこんな状況に。
さまざまな憶測が脳内を旋回し、まともに考えられない状況に陥っている。さらに、追い打ちをかけるようにコンコンコンと三度のノックが響き、次いで、
「ザンクロー、朝飯の用意ができたぞ」
ダンクが呼び起こしに部屋を訪ねてきた。
「「あ」」
決定的瞬間を目撃された斬九郎。
決定的瞬間を目撃したダンク。
お互いしばらく固まっていたが、ダンクは「ふっ」と軽く笑い、斬九郎へ歩み寄っていくと、その大きな手で肩を掴み、ニッコリ笑って、
「ザンクロー……このラステルじゃ一夫多妻は認められていないぞ」
優しく語りかけるのだった。
「ち、ちが――」
「しかし、リーナの性格上、もしかしたら孫を見ることはないかもしれないと危惧していたが、これなら何も問題はないな。いや、めでたいめでたい」
「ダンク殿、そうじゃなくて――」
「おいおい、そんな他人行儀な呼び方はよしてくれよ。お義父さんって呼んでくれ」
「だから――」
「さっきからなんの話をしているの?」
ドスの利いた低い声がした。
ダンクのものでも斬九郎のものでもないその声の主は、
「なんであんたが私の横で寝ていて、しかもパパまでいるのよ」
リーナだった。
「ご、誤解だ! 拙者は何も――」
「そうね。あんたは疑っていないわ。部屋の前で別れたところまでの記憶は鮮明に残っている……となれば」
ギラリと輝く獣の眼差しは、わざとらしく下手くそな口笛を吹いている実の父親へと向けられた。
「……一応、言い訳は聞くわ」
容疑がほぼ確定している父親へ弁明を促すリーナ。観念したのか、ダンクは服を整えると澄んだ瞳で、
「白状しよう……一日も早く孫の顔が見たかったから寝ているおまえをこっそりザンクローの部屋へ――」
「フレイバル!」
言い終える前にダンクの全身を炎が包む。
燃え盛る炎の中にありながらも、ダンクは「これが反抗期の味か」となぜか満足そうに頷いていた。
――ちなみに、アリューは夜中にトイレへ行った際、寝ぼけていたため部屋を間違えてそのまま寝てしまっただけだった。
◆◆◆
「さあ、召し上がれ」
宿泊客たちと同じように、共同食堂で朝食をいただくことになった。
一度に大勢の人間が席に着けるよう設計された長机に並べられているのはパンとスープである。
そのパンは、昨日城で食べたのものと比べると薄いが、二枚重なっていて、間に数種類の色鮮やかな野菜が挟まれていた。添えられているスープが入ったコップからも食欲を刺激するいい匂いがする。
「サンドという料理です。それから、こっちはニオンという野菜を煮込んだスープよ。食べ終わった食器はそのままにしておいてね。あとでまとめて片付けるから」
「かたじけないでござる」
「あ、そうそう。着替えも用意してあるから、あとで一度袖を通してみて。昨日着ていたあの黒い服は戦闘用なんでしょ? しばらくこの街にいるならこの世界で一般的に使われている服を着た方がいいわ」
エリンの言う通り、忍装束は戦闘服なので四六時中身に付けているわけではない。とはいえ、いつ戦闘が起きてもいいように忍刀と手裏剣や苦無といった最低限の武装は携帯しておくようにしようと決めていた。この件はセドルフを通してすでにイヴリットへ申告済みだ。
しかし、そうは言っても、
「そんな。そこまで世話になるわけには」
さすがに遠慮してしまう斬九郎。
「いいのよ。どうせ余り物なんだから」
「……何から何まで済まないでござるな」
「気にしなくていいったら。まったく違う世界から突然こっちへ来て、何かと不便なことが多いでしょう? 困ったことがあったらなんでも言ってね」
優しく、柔和な微笑みは、やはり養母の支部志奈と重なる。
病気がちで、よく床に臥すことが多かったが、いつも厳しい修行で傷だらけになる斬九郎を心配していた。女中に任せればいいような仕事も、体調が良い時は率先してやっており、中でも料理が得意で斬九郎や夫である正隆に振る舞うこともあった。
「その深き心遣い、感謝致す」
そんな、優しかった母の姿を思い出しながら、斬九郎は朝食に手を伸ばす。昨日の朝食も文句なくおいしかったが、今日の朝食も抜群にうまかった。
「しかし、ここの食事は本当にうまいな」
「ママ――母の料理はラステル一と評判なのよ。当然よ」
「……昨日から気になっていたでござるが……ご両親に対しては普段通りの接し方でいいのでは?」
どうやら女子が母親を「ママ」と呼ぶのがこの世界では一般的らしいが、リーナは昨日からそれを隠している節がある。
「は? 別に、普段からそう呼んでいるけど?」
絶対に違うと断言できる。が、リーナの瞳は全力でそれを否定する無駄に力の入った光を灯していた。
そのやりとりを見ていたアリューがひと言。
「リーナは嘘をつくのが究極的に下手ですけど~、それを認めない頑固さは誰にも負けません。ザンクローさん、あきらめた方がいいですよ~」
「だから、違うってば!」
斬九郎を挟んで喧嘩をするリーナとアリュー。
「この味は……矢凪でも人気が出そうでござるな」
それを無視して味をじっくりと堪能する。
米と味噌汁とは似ても似つかないが、これほど心を捉えてやまない料理があったとはと心底斬九郎は感心する。リーナの言う通り、調理した人物の腕がいいのだろう。
料理のうまさに感動していると、
「あ、そうだ。ザンクロー、朝食が終わったら一度城へ行くわよ」
リーナがスプーンでこちらを指しながら言う。
「城へ? なぜでござるか?」
「メディーナ学園長が待っているからよ」
そういえば、日を改めて会うという約束をしていた。
まさか次の日の朝からになるとは思わなかったが。
「ほら、学園長がいるところまで案内してあげるから、朝食が終わったのなら着替えてとっとと行くわよ」
相も変わらずせっかちな性格だ。ただ、メディーナを待たせてはいけないという部分については同意する。
それより、斬九郎が気になったのは、
「リーナ」
「何よ」
「案内の件はイヴリット殿からの依頼でござるか?」
「独断よ。あ、でも、きちんと許可はもらってきたわ」
「そうでござったか」
「……それがどうしたっていうのよ。私が案内役だと不満なわけ?」
気分を害したようで、ジト目で睨まれた。斬九郎は慌てて訂正を入れる。
「いやいや、そうではござらぬ。ただ、昨日の街案内の時はイヴリット殿からの命令で嫌々やっていたようだったので……それに対し、今回の城内案内は自らの意志でやってもらっているのだな、と」
「はあ? ……あ」
途端に、顔面が赤一色に染まった。
「それは私も非常に興味がありますね~」
興味津々といった面持ちのアリューは顔がにやけている。
「し、仕方なくに決まっているでしょ! 忙しい学園長に待たせるわけにはいかないっていうか……」
「でも、誰かにこうしろと言われたわけではなく、リーナが自分で言い出したことなのでござろう? 礼を言うでござるよ」
「ぐっ……」
反論できず、「ぐぬぬ」と顔に力がこもるリーナ。
「い、言っとくけど! 正式にイヴリット様の配下になったなら、私とあんたは同僚であると同時にライバルになるんだからね! イヴリット様への忠誠心は誰にも負けないんだから!」
「らいばる?」
「好敵手ってことよ!」
「なるほど。つまりお互いを高め合っていける良き仲というわけでござるな。いやぁ、リーナのような強いおなごとそのような関係になれるとは。望外の喜びにござる」
「!?」
さらにリーナの顔の赤みが増す。
斬九郎の解釈は間違いではないので何も言い返せないというのが、赤面に拍車をかける結果となった。
「? 顔が赤いでござるが、体調が優れないでござるか?」
「ち、違うわよ! もういいから、とっとと行くわよ! アリューも一緒に行くわよ!」
「あ、ちょ、ちょっと待つでござる!? まだ着替えが終わってないでござるよ!」
「私も行くんですか?」
ズルズルとリーナに引きずられながらパルノエをあとにする三人。
「気をつけていくんだぞ~」
黒こげのダンクに見送られ、斬九郎の異世界生活三日目はなんとも締まりなく幕を開けたのだった。
「いい天気でござる」
寝起きは爽快。
気分は上々。
結局、歓迎会は深夜まで続いたため、斬九郎はパルノエの空き部屋を貸してもらい、そこで二日目の夜を過ごしていた。
勝手な行動を取るのはどうかと悩んだが、すでにダンクが手を回しており、イヴリットから了承を得ていたため、心置きなく最後まで宴会を楽しむことができた。
はじめのうちは目線が高く感じて寝にくく、不便に感じていたベッドも、慣れてくれば問題ない。枕も同様だ。畳がなく、イグサの香りが恋しいと思った時もあったが、全面木製というのは、それはそれで素材の温かみが感じられる造りといえる。
住めば都とはよく言ったもので、何事も前向きに捉えようと心がけるだけで大きく変化した生活も受け入れることができた。
窓の外に広がる景色も、戦国時代の矢凪国のものとは似ても似つかないけれど、早朝にも関わらず商人たちで活気に満ちている街並みを見ていると根本的なところは変わりないと再確認する。
ひと息ついて、何気なく視線を右側へ移すと、
「ん……」
静かに寝息を立てるリーナが寝ていた。
「…………っっっ!!?」
斬九郎は声にならない声をあげる。
なぜだ。
なぜ、リーナが同じベッドで寝ているのか。
若い男女が同じ布団で一夜を共にしたとあれば、あらぬ噂が蔓延するは必然。
――いや、そんなはずはない。
何もやましいことはしていない。
斬九郎は必死に記憶の糸を手繰る。
昨夜は酒を一滴も飲んでいないため、最後の最後まで素面でいた。だから、寝る直前の様子も鮮明に記憶している。
宴会がお開きになったあと、リーナとアリューは同じ部屋で寝ると、リーナの私室へと向かい――
「! アリューだ!」
光明が見えた。
最後までリーナといたであろうアリューなら、斬九郎が連れ込んでいないと証言してくれるはず。そう思ったのも束の間。
「ぐぅ……」
今度は反対方向から寝息がした。
恐る恐る、そちらを見れば、
「あ、アリューまで……」
最後の希望だったアリューも、同じベッドで寝ていた。おまけに、ちょっと服がはだけていていろいろと間一髪な格好である。
現状をおさらいすると、斬九郎はリーナとアリューに挟まれる形で寝ていた。
思わず頭を抱えてしまう。
たしかに、布団に入って目を閉じるまでは一人だった。
なぜ、目覚めたらこんな状況に。
さまざまな憶測が脳内を旋回し、まともに考えられない状況に陥っている。さらに、追い打ちをかけるようにコンコンコンと三度のノックが響き、次いで、
「ザンクロー、朝飯の用意ができたぞ」
ダンクが呼び起こしに部屋を訪ねてきた。
「「あ」」
決定的瞬間を目撃された斬九郎。
決定的瞬間を目撃したダンク。
お互いしばらく固まっていたが、ダンクは「ふっ」と軽く笑い、斬九郎へ歩み寄っていくと、その大きな手で肩を掴み、ニッコリ笑って、
「ザンクロー……このラステルじゃ一夫多妻は認められていないぞ」
優しく語りかけるのだった。
「ち、ちが――」
「しかし、リーナの性格上、もしかしたら孫を見ることはないかもしれないと危惧していたが、これなら何も問題はないな。いや、めでたいめでたい」
「ダンク殿、そうじゃなくて――」
「おいおい、そんな他人行儀な呼び方はよしてくれよ。お義父さんって呼んでくれ」
「だから――」
「さっきからなんの話をしているの?」
ドスの利いた低い声がした。
ダンクのものでも斬九郎のものでもないその声の主は、
「なんであんたが私の横で寝ていて、しかもパパまでいるのよ」
リーナだった。
「ご、誤解だ! 拙者は何も――」
「そうね。あんたは疑っていないわ。部屋の前で別れたところまでの記憶は鮮明に残っている……となれば」
ギラリと輝く獣の眼差しは、わざとらしく下手くそな口笛を吹いている実の父親へと向けられた。
「……一応、言い訳は聞くわ」
容疑がほぼ確定している父親へ弁明を促すリーナ。観念したのか、ダンクは服を整えると澄んだ瞳で、
「白状しよう……一日も早く孫の顔が見たかったから寝ているおまえをこっそりザンクローの部屋へ――」
「フレイバル!」
言い終える前にダンクの全身を炎が包む。
燃え盛る炎の中にありながらも、ダンクは「これが反抗期の味か」となぜか満足そうに頷いていた。
――ちなみに、アリューは夜中にトイレへ行った際、寝ぼけていたため部屋を間違えてそのまま寝てしまっただけだった。
◆◆◆
「さあ、召し上がれ」
宿泊客たちと同じように、共同食堂で朝食をいただくことになった。
一度に大勢の人間が席に着けるよう設計された長机に並べられているのはパンとスープである。
そのパンは、昨日城で食べたのものと比べると薄いが、二枚重なっていて、間に数種類の色鮮やかな野菜が挟まれていた。添えられているスープが入ったコップからも食欲を刺激するいい匂いがする。
「サンドという料理です。それから、こっちはニオンという野菜を煮込んだスープよ。食べ終わった食器はそのままにしておいてね。あとでまとめて片付けるから」
「かたじけないでござる」
「あ、そうそう。着替えも用意してあるから、あとで一度袖を通してみて。昨日着ていたあの黒い服は戦闘用なんでしょ? しばらくこの街にいるならこの世界で一般的に使われている服を着た方がいいわ」
エリンの言う通り、忍装束は戦闘服なので四六時中身に付けているわけではない。とはいえ、いつ戦闘が起きてもいいように忍刀と手裏剣や苦無といった最低限の武装は携帯しておくようにしようと決めていた。この件はセドルフを通してすでにイヴリットへ申告済みだ。
しかし、そうは言っても、
「そんな。そこまで世話になるわけには」
さすがに遠慮してしまう斬九郎。
「いいのよ。どうせ余り物なんだから」
「……何から何まで済まないでござるな」
「気にしなくていいったら。まったく違う世界から突然こっちへ来て、何かと不便なことが多いでしょう? 困ったことがあったらなんでも言ってね」
優しく、柔和な微笑みは、やはり養母の支部志奈と重なる。
病気がちで、よく床に臥すことが多かったが、いつも厳しい修行で傷だらけになる斬九郎を心配していた。女中に任せればいいような仕事も、体調が良い時は率先してやっており、中でも料理が得意で斬九郎や夫である正隆に振る舞うこともあった。
「その深き心遣い、感謝致す」
そんな、優しかった母の姿を思い出しながら、斬九郎は朝食に手を伸ばす。昨日の朝食も文句なくおいしかったが、今日の朝食も抜群にうまかった。
「しかし、ここの食事は本当にうまいな」
「ママ――母の料理はラステル一と評判なのよ。当然よ」
「……昨日から気になっていたでござるが……ご両親に対しては普段通りの接し方でいいのでは?」
どうやら女子が母親を「ママ」と呼ぶのがこの世界では一般的らしいが、リーナは昨日からそれを隠している節がある。
「は? 別に、普段からそう呼んでいるけど?」
絶対に違うと断言できる。が、リーナの瞳は全力でそれを否定する無駄に力の入った光を灯していた。
そのやりとりを見ていたアリューがひと言。
「リーナは嘘をつくのが究極的に下手ですけど~、それを認めない頑固さは誰にも負けません。ザンクローさん、あきらめた方がいいですよ~」
「だから、違うってば!」
斬九郎を挟んで喧嘩をするリーナとアリュー。
「この味は……矢凪でも人気が出そうでござるな」
それを無視して味をじっくりと堪能する。
米と味噌汁とは似ても似つかないが、これほど心を捉えてやまない料理があったとはと心底斬九郎は感心する。リーナの言う通り、調理した人物の腕がいいのだろう。
料理のうまさに感動していると、
「あ、そうだ。ザンクロー、朝食が終わったら一度城へ行くわよ」
リーナがスプーンでこちらを指しながら言う。
「城へ? なぜでござるか?」
「メディーナ学園長が待っているからよ」
そういえば、日を改めて会うという約束をしていた。
まさか次の日の朝からになるとは思わなかったが。
「ほら、学園長がいるところまで案内してあげるから、朝食が終わったのなら着替えてとっとと行くわよ」
相も変わらずせっかちな性格だ。ただ、メディーナを待たせてはいけないという部分については同意する。
それより、斬九郎が気になったのは、
「リーナ」
「何よ」
「案内の件はイヴリット殿からの依頼でござるか?」
「独断よ。あ、でも、きちんと許可はもらってきたわ」
「そうでござったか」
「……それがどうしたっていうのよ。私が案内役だと不満なわけ?」
気分を害したようで、ジト目で睨まれた。斬九郎は慌てて訂正を入れる。
「いやいや、そうではござらぬ。ただ、昨日の街案内の時はイヴリット殿からの命令で嫌々やっていたようだったので……それに対し、今回の城内案内は自らの意志でやってもらっているのだな、と」
「はあ? ……あ」
途端に、顔面が赤一色に染まった。
「それは私も非常に興味がありますね~」
興味津々といった面持ちのアリューは顔がにやけている。
「し、仕方なくに決まっているでしょ! 忙しい学園長に待たせるわけにはいかないっていうか……」
「でも、誰かにこうしろと言われたわけではなく、リーナが自分で言い出したことなのでござろう? 礼を言うでござるよ」
「ぐっ……」
反論できず、「ぐぬぬ」と顔に力がこもるリーナ。
「い、言っとくけど! 正式にイヴリット様の配下になったなら、私とあんたは同僚であると同時にライバルになるんだからね! イヴリット様への忠誠心は誰にも負けないんだから!」
「らいばる?」
「好敵手ってことよ!」
「なるほど。つまりお互いを高め合っていける良き仲というわけでござるな。いやぁ、リーナのような強いおなごとそのような関係になれるとは。望外の喜びにござる」
「!?」
さらにリーナの顔の赤みが増す。
斬九郎の解釈は間違いではないので何も言い返せないというのが、赤面に拍車をかける結果となった。
「? 顔が赤いでござるが、体調が優れないでござるか?」
「ち、違うわよ! もういいから、とっとと行くわよ! アリューも一緒に行くわよ!」
「あ、ちょ、ちょっと待つでござる!? まだ着替えが終わってないでござるよ!」
「私も行くんですか?」
ズルズルとリーナに引きずられながらパルノエをあとにする三人。
「気をつけていくんだぞ~」
黒こげのダンクに見送られ、斬九郎の異世界生活三日目はなんとも締まりなく幕を開けたのだった。
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