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第31話 忍者、新しい忍道具を披露する
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アリュー特製の焙烙玉(氷)は、ジャンプした道化師に着弾――その直後、
「なっ!?」
あまりにも唐突な事態に、ジェネリアは声をあげた。
斬九郎が放り投げた焙烙玉が破裂すると強烈な冷気が道化師を襲い、そのまま氷漬けとなって天井に張りついてしまった。
「氷を自在に操る焙烙玉……まさに拙者の想定した――いや、それ以上の威力でござる」
火や水など、自然界の力を使いこなす魔法使いたちに対抗するため、斬九郎は密かにそれを自分が使えるようになる忍道具の制作を依頼していた。
道具の発想自体は斬九郎から提案され、それをアリューが異世界ヴェールの技術を駆使して再現していく――その連携作業が見事にハマった結果、たった今斬九郎が使用したような武器が生まれたのだ。
「さあ、これで残すはあっちの人形だけでござるな」
遠距離攻撃を得意とする花売りの少女は、その懐に飛び込んでさえしまえば武器を使えず防戦一方――それを処理し終えたら、今度はいよいよ本体であるジェネリア自身に挑むこととなる。
「ゆくぞ!」
花売りの少女へ向けて牽制がてらの手裏剣を投げる。だが、
キン! キン!
「むっ!」
何か硬いモノに阻まれて、手裏剣は床に転がった。
現れたのは――再び人形だった。
黒いローブのような物を全身にまとい、大きな鎌を振り上げるその姿。
「最高傑作《死神》――まさかこの子を出すハメになるなんてね」
最高傑作。
そう言うからには、恐らくあの人形が切り札ということなのだろう。つまり、あの死神に打ち勝てば、魔法人形使いのジェネリアは完全に機能停止となる。
「……光明が見えてきたな」
明確な終点が見えてきたことで、一層気合の入る斬九郎。
魔力皆無――この世界では落ちこぼれに相当する自分だが、こうやって魔力を込めた道具を使用することにより、魔法使いとも対等に戦えることができている。
「奴を捕まえて――それをみんなにも証明しないとな」
そんなことを考えながら、忍刀を構えて死神と対峙する。
相手は意思感情の欠落した傀儡人形。
対人間のみを想定していた忍者の戦闘術では、相手の手先の動きや呼吸の仕方で次の行動を予想するが、相手が人形となるとそうはいかない。そのため、道化師や死神との戦いでは、これまでの経験が一切役に立たなかった。
だが、そこはこれまで幾度となく死線をくぐり抜けてきた斬九郎だ。
人形相手だろうと、開始直後のわずかな動作から攻撃を先読みして回避や反撃を着実に行っていった。
「大鎌が武器か……」
それもまた、斬九郎を手助けする要因になっていた。
一撃が致命傷につながら大鎌だが、性質上、どうしても大振りになってしまうため、相手の攻撃は読みやすかった。また、道化師に比べて死神はかなり大型の魔法人形であるため、動きも鈍い。
ジェネリアはまるで切り札のように言っていたが、斬九郎としては先ほどの道化師よりも素早さが劣る死神の方がずっと戦いやすかった。
――その一方で、ある違和感を覚えていた。
死神から放たれる攻撃を回避しつつ反撃をし、着実にダメージを蓄積させていく斬九郎であったが、
(なんだ……何かがおかしい)
違う。
花売りの少女と死神――二体の人形と戦いながら、隙をついてジェネリアへも攻撃を加えようとする斬九郎は、妙な感覚に陥っていた。
(なんだ? 何がおかしい? 拙者は何に対して違和感を抱いている?)
胸の奥で引っかかった状態の「何か」――それが、ジェネリア撃破につながる決定打になるはずだとも感じている。
しばらく死神と戦闘を繰り広げていた斬九郎は、弓を放ってくる花売りの少女へ手裏剣を放る。ただの牽制のつもりだったのが、始動が遅れた花売りの少女はギリギリで回避を成功させて斬九郎から距離を取った。
「…………」
斬九郎は、
(なるほど――そういうことか!)
すべてを悟った。
自分が抱いていた違和感の正体が、今の攻撃でハッキリとわかった。だからずっと気になっていたんだ――「アレ」に。
「さて……正体はわかったが、ここからどうするか」
ジェネリアのカラクリが判明したところで、斬九郎は頭の中で逆転へ向けた脚本を練っていた。
恐らく敵は、斬九郎が真実を掴んだことに気づいていない。
この機を――利用しない手はない。
「そのためにも――まずは邪魔なお主から片付けるぞ!」
斬九郎は手裏剣を手にした。
生半可な武器では傷をつけることさえ困難な死神を相手に、それでは火力不足は否めないのだが、
「こいつは……食らうと痛いではすまぬぞ!」
そう言うと、斬九郎の手にした手裏剣は――どんどん巨大化していく。それを放り投げると、死神の上半身と下半身は真っ二つに裂けてしまった。
「!?」
魔力ゼロの男に、自慢の作品が立て続けに破られたジェネリアは、驚きと屈辱の感情に苛まれていた。
「やりますね……」
しかし、それでも自分が負けるなどとは微塵も思っていない。
正直、ここまで手こずらされるのは想定外だったが、所詮敵は魔力なしの異世界人。魔法を使えないという事実がある限り、負けることはない。
斬九郎も、ジェネリアが自分の善戦に対して驚きは見せているものの、根底には「負けるわけがない」という絶対的な自信を持っていることに気づいていた。
それはつまり、切り札である死神が打ち破られた時の対策があるということだ。
(やはりまだ何か隠しているか……)
早いところ違和感の正体を見抜き、そこを起点にして攻撃の型を構築したいが、そんな悠長なことを言っていられる状況でもなくなってきた。
「ならば――これでどうでしょう」
ジェネリアが棺から繰り出した次なる手――それは、
「うっ!?」
現れたのは、ジェネリアを取り囲むように立ち並ぶ人形たち。
道化師が5体。
死神が3体。
合計8体の魔法人形が斬九郎を睨む。
「さあ――お行きなさい」
ジェネリアからの命令を受け取った魔法人形たちは一斉に斬九郎へと飛びかかって来た。
「なっ!?」
あまりにも唐突な事態に、ジェネリアは声をあげた。
斬九郎が放り投げた焙烙玉が破裂すると強烈な冷気が道化師を襲い、そのまま氷漬けとなって天井に張りついてしまった。
「氷を自在に操る焙烙玉……まさに拙者の想定した――いや、それ以上の威力でござる」
火や水など、自然界の力を使いこなす魔法使いたちに対抗するため、斬九郎は密かにそれを自分が使えるようになる忍道具の制作を依頼していた。
道具の発想自体は斬九郎から提案され、それをアリューが異世界ヴェールの技術を駆使して再現していく――その連携作業が見事にハマった結果、たった今斬九郎が使用したような武器が生まれたのだ。
「さあ、これで残すはあっちの人形だけでござるな」
遠距離攻撃を得意とする花売りの少女は、その懐に飛び込んでさえしまえば武器を使えず防戦一方――それを処理し終えたら、今度はいよいよ本体であるジェネリア自身に挑むこととなる。
「ゆくぞ!」
花売りの少女へ向けて牽制がてらの手裏剣を投げる。だが、
キン! キン!
「むっ!」
何か硬いモノに阻まれて、手裏剣は床に転がった。
現れたのは――再び人形だった。
黒いローブのような物を全身にまとい、大きな鎌を振り上げるその姿。
「最高傑作《死神》――まさかこの子を出すハメになるなんてね」
最高傑作。
そう言うからには、恐らくあの人形が切り札ということなのだろう。つまり、あの死神に打ち勝てば、魔法人形使いのジェネリアは完全に機能停止となる。
「……光明が見えてきたな」
明確な終点が見えてきたことで、一層気合の入る斬九郎。
魔力皆無――この世界では落ちこぼれに相当する自分だが、こうやって魔力を込めた道具を使用することにより、魔法使いとも対等に戦えることができている。
「奴を捕まえて――それをみんなにも証明しないとな」
そんなことを考えながら、忍刀を構えて死神と対峙する。
相手は意思感情の欠落した傀儡人形。
対人間のみを想定していた忍者の戦闘術では、相手の手先の動きや呼吸の仕方で次の行動を予想するが、相手が人形となるとそうはいかない。そのため、道化師や死神との戦いでは、これまでの経験が一切役に立たなかった。
だが、そこはこれまで幾度となく死線をくぐり抜けてきた斬九郎だ。
人形相手だろうと、開始直後のわずかな動作から攻撃を先読みして回避や反撃を着実に行っていった。
「大鎌が武器か……」
それもまた、斬九郎を手助けする要因になっていた。
一撃が致命傷につながら大鎌だが、性質上、どうしても大振りになってしまうため、相手の攻撃は読みやすかった。また、道化師に比べて死神はかなり大型の魔法人形であるため、動きも鈍い。
ジェネリアはまるで切り札のように言っていたが、斬九郎としては先ほどの道化師よりも素早さが劣る死神の方がずっと戦いやすかった。
――その一方で、ある違和感を覚えていた。
死神から放たれる攻撃を回避しつつ反撃をし、着実にダメージを蓄積させていく斬九郎であったが、
(なんだ……何かがおかしい)
違う。
花売りの少女と死神――二体の人形と戦いながら、隙をついてジェネリアへも攻撃を加えようとする斬九郎は、妙な感覚に陥っていた。
(なんだ? 何がおかしい? 拙者は何に対して違和感を抱いている?)
胸の奥で引っかかった状態の「何か」――それが、ジェネリア撃破につながる決定打になるはずだとも感じている。
しばらく死神と戦闘を繰り広げていた斬九郎は、弓を放ってくる花売りの少女へ手裏剣を放る。ただの牽制のつもりだったのが、始動が遅れた花売りの少女はギリギリで回避を成功させて斬九郎から距離を取った。
「…………」
斬九郎は、
(なるほど――そういうことか!)
すべてを悟った。
自分が抱いていた違和感の正体が、今の攻撃でハッキリとわかった。だからずっと気になっていたんだ――「アレ」に。
「さて……正体はわかったが、ここからどうするか」
ジェネリアのカラクリが判明したところで、斬九郎は頭の中で逆転へ向けた脚本を練っていた。
恐らく敵は、斬九郎が真実を掴んだことに気づいていない。
この機を――利用しない手はない。
「そのためにも――まずは邪魔なお主から片付けるぞ!」
斬九郎は手裏剣を手にした。
生半可な武器では傷をつけることさえ困難な死神を相手に、それでは火力不足は否めないのだが、
「こいつは……食らうと痛いではすまぬぞ!」
そう言うと、斬九郎の手にした手裏剣は――どんどん巨大化していく。それを放り投げると、死神の上半身と下半身は真っ二つに裂けてしまった。
「!?」
魔力ゼロの男に、自慢の作品が立て続けに破られたジェネリアは、驚きと屈辱の感情に苛まれていた。
「やりますね……」
しかし、それでも自分が負けるなどとは微塵も思っていない。
正直、ここまで手こずらされるのは想定外だったが、所詮敵は魔力なしの異世界人。魔法を使えないという事実がある限り、負けることはない。
斬九郎も、ジェネリアが自分の善戦に対して驚きは見せているものの、根底には「負けるわけがない」という絶対的な自信を持っていることに気づいていた。
それはつまり、切り札である死神が打ち破られた時の対策があるということだ。
(やはりまだ何か隠しているか……)
早いところ違和感の正体を見抜き、そこを起点にして攻撃の型を構築したいが、そんな悠長なことを言っていられる状況でもなくなってきた。
「ならば――これでどうでしょう」
ジェネリアが棺から繰り出した次なる手――それは、
「うっ!?」
現れたのは、ジェネリアを取り囲むように立ち並ぶ人形たち。
道化師が5体。
死神が3体。
合計8体の魔法人形が斬九郎を睨む。
「さあ――お行きなさい」
ジェネリアからの命令を受け取った魔法人形たちは一斉に斬九郎へと飛びかかって来た。
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