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SET:2 予知夢の具現化
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目を覚ますとソファの上に寝かされていた、体の上には薄いブランケットが掛けられている。
ブランケットをどかし、体を起こそうとすると首が強く痛む、人生で初めて食らった手刀、それはかなりの威力を持っていたようで……。
あたりを見回すと、質素な事務所のようだった、そして、またカスミさんが向かいのソファで寝ていた。
その顔は完全に死んでいる。
「あぁ、起きたか、少年」
「ま、また睡眠薬ですか」
「そうだね、すっかり忘れていた」
「忘れてたって……っていうかあの手刀やっぱり能力使ってたんですね…」
あんな速度の手刀、いくら有力者といえど女性には出せるわけがない、いや、でも会話の内容的になんかの特殊部隊にでも属してる風だった……んで、そうならそこで訓練も受けてるんじゃ……?
「もしかして、楽をしたかった…?」
「おぉ、ご名答、まさにその通りさ、人を手刀で落とすなんて女の私じゃあ早々できないしね、いくら訓練を受けていても、外したりしたら命に関わるのよね、だから能力使ったら、このザマってわけ」
「なんだか、抜けてますね」
俺はおかしくて笑う、するとズキッと首が痛む。
その痛みに顔を歪ませる俺を見て、カスミさんはニヤァ…とからかい顔で笑ってみせる。
「あなたのせいなんですからね……」
「悪かった悪かった、以後は気をつけるよ」
「今後こういうことがあるみたいな言い方やめてください!!」
「あるさ、なんたって、君は今日から私達の監視対象だからね」
「は、はぁ??」
「おっと、まだ話していなかったね、まぁ詳しくはライブラリに……」
そう、カスミさんが言うと部屋のドアがノックされた。
「噂をすれば影がさす、だね」
「失礼する」
先ほど、カスミさんが通信機で会話していたかなり高い声が耳に届く、現れた本人の姿はまさに少年、むしろ長い睫毛と整った顔立ちから女の子にだって見える。
というか、背に至っては145cmあるかないか、もしくはそれよりもっと低くも見える。
小さくて可愛い、まるでマスコットだ。
マジマジと観察してしまっていると俺の視線に気づいたのか、彼は俺の方に向き直る。
そして、俺に指差しをしながらこう言い放つ。
「何を見ている、危険因子、可愛い、などと思っているならば今すぐ貴様の保護·監視任務など蹴っても良いんだぞ、僕は、自分に火の粉が降りかかるのが一番嫌だからな」
「そんなこと言って~ライブラリが任務を蹴ったことなんて一度もない癖に~」
「う、うるさい、とにかく危険因子、貴様は僕達が一応は保護し、観察する、しかし、変な動きをしようものなら、僕達は自分の身を優先する、良いな」
「ちょ、ちょっと待ってください、なんでそんな話に?」
「何度も言っているだろう、危険因子、貴様が不可解なことが重なった危険因子だからだ、1つ目は自分が有力者だ、と認識していないと言う所、しらばっくれているか、なにか悪い組織と繋がっているに違いないと考えるのが当然だろう、2つ目に貴様は数少ない予知能力を持っているかもしれない、それにより命を狙われてもおかしくないからだ、貴様が夢で見たようにな、そして、3つ目、貴様が彼女を轢きそうになったところだ、もし貴様の話が本当ではなかったら、それは明確な悪意を持った行為だと判断できるからだ、わかったか?」
「さ、最後のは完全に私的な感情が……」
「口答えをするな!!」
「は、はい…」
怖くない……のだが、少しだけ反省したような雰囲気を出しておく、そうしたほうが今後の関係的にも良いだろう。
そして、話が一段落したことを感じた俺は、まず一つの疑問を口に出す。
「そういえば、ここは…なんなんですか」
「教えることはできない、機密事項だ」
「え、どのような組織かも教えてもらえないんですか?」
「あぁ、教えられない」
「名前は」
「名前も駄目だ」
「じゃあ僕は得体の知れないものに身を預けることに……」
「…………国家特務機関有力者犯罪対策課、通称テミス、その本部だ、本部といってもそんな大層なもんではないがな、ここに居るのはせいぜい俺達とオペレーター……ぐらいだな、他のメンバーも居るには居るが……ほとんどが他の支部に行ってるな、上層部の人間は……権力で女を貪るくだらない生活でもしてるんじゃないか?」
「え、そんな適当でいいんですか」
「あぁ、結局はほぼ警察とブレスレットで事が足りるからな、俺達が対応するときは本当にごく稀だ」
「こんな平和だから私達は上から給料泥棒だの、予算を削減しろだの苦言をこぼされてるのよね~」
そう笑顔で言った後カスミさんが小さな声で「絶対困ったとき助けてやんねぇ…」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。
そのことに流石に苦笑いを浮かべる。
「それで、俺はこれからどうすれば?」
「あぁ、もう自宅に帰ってもいいぞ、それと……貴様が寝てる間に有力者登録済ませておいた、2日しないうちに貴様の家にブレスレットが届くはずだ」
「えっ、ちょっと、勝手に何してるんですか!!」
「いくら観察対象とはいえ、有力者は有力者だ、当たり前のことは済ませて当然だろう」
「ち!!が!!う!!まずそういうのって俺とか俺の親のサインとかが必要でしょう?」
「それでは非効率だろう、それに僕の能力、ライブラリで書いた書類は完璧だ、筆跡から印鑑まで全て、お前が書いたような物になっている、誰にも見破ることはできないさ」
「そっかぁ、それなら安心……ってんなわけあるかい!!!何がなんだか……」
するとカスミさんが俺の方を叩き、こう言う。
「まぁ、これがウチの頭脳なんだ、許してやってくれ」
おいおい、本当にこんな組織にお世話になるっていうのか?効率を求めて書類偽造をする奴らに?イカれてるな。
俺は自嘲を込めながら立ち上がり、今後のことを考えながら、テミスの本部をあとにしたのであった。
___________________________________
テミス本部からの帰り道、夢の中で見た自分と同じ状態に置かれた俺は気が気ではなかった。
暗い夜道、着慣れた制服、そして、腕にはめたギブス、その全てが、今から襲われるのではないか、あと数分後襲われるのではないか、という気持ちを誘発する。
そうなると、歩くスピードが上がるのは当然のことだった。
怖い。
その感情が俺の心の中を支配して心臓の鼓動を自然と早くし、息苦しくしていく。
汗が頬を伝う、その感覚は気持ち悪いどころの話ではなく、背筋がゾクゾク、とし、肝が冷えていくのを身体全体で感じる。
俺は、自分が恐怖心にかなり弱い人間なのだ、と実感する。
そして、その恐怖心は俺の心臓を更に刺激し、俺を走り出させた。
そして、どこか見覚えのある路地に入った。
「はぁっ…はぁ…ここ…夢の……」
次は体を電流が流れたかのような痺れに襲われる。
ここから、抜けないと、抜けないと殺される…!全部あの夢と同じだ、殺されるっ!殺される!!
頭は半ばパニックに陥り、体を無理矢理動かし、俺はまた走り出す。
もう折れた腕の痛みなど後回しだ、痛くも感じない。
走り出すと後ろから微かに羽音が聞こえるのがわかる。
もはやここまで夢と同じ状況に置かれると変な笑いが出た。
「はははっ!はははは!!」
死ぬのか、いや、死ぬんだな、俺。
もはや思考は生きることを選択肢から排除しているような、そんな思考だった、どう死ぬか、それしか考えられない。
半狂乱に陥り、俺は笑いながら走る、ただただまっすぐに、疲れなんて感じないほどに走る。
そうして十数歩進んだ頃だろうか、俺は自分の右手首を伝う紅い液体に気がつく。
「……は?」
ギブスの付いていない右腕の二の腕に大きな引掻き傷のようなものが出来ていた。
傷を認識した瞬間、傷口が急激に熱されたような感覚を受ける。
「ぅぁ…あ、ああああッ!!」
右手を庇うように骨折した左手を出そうとすると、左腕に強い鈍痛が走る、その拍子に俺はバランスを崩し路地に転がる。
立ち上がって、走ろうとするが、足腰が言うことを聞かない。
焦って、確認するように後ろを向くと、そこには…やはり居た。
巨大な蝙蝠と黒いトレンチコートを身にまとった男が。
「ひぃっ……!!」
あまりの恐怖から情けない声が出た、しかし、そんなのどうでもいい、もはや何も考えられない、目の前に死が近づいている、それしかわからない。
この状況から生き延びるなんて考えれない、もはや死が確定している、そう言わんばかりに脳内を走馬灯が駆け巡る。
あらゆる楽しかった記憶、親が育ててくれた愛の記憶、涙を流した哀の記憶、その他の記憶が一気に流れ込み、吐き気を催す。
もはや自分が今どんな顔をしているかもわからない、きっとぐしゃぐしゃに汚い顔をしているのだろう、父さんと母さんに笑われるような。
ふと、両親の顔が浮かぶ、父の海外赴任を機に高校生の俺を残し、海外へ行ったクソ両親、そんな思い出したくもない両親の顔を思い出して、俺は泣きながらこう叫ぶ。
「俺も海外…行きたかった!!!!」
精一杯叫ぶにしてはくだらなさすぎる内容だが、つい口から飛び出た言葉だ、止められもしないし、誰も聞いてはいない。
……はずだった。
「…ぷっ、ハハハッ!!ちょ、ちょっと待って、クククッ、待ちに待ってた、君からの言葉が、それって、プハハハハハハ!!“ライブラリ”、録音してあるっしょ?後で音声データちょうだいよ、フハハッ」
この細い路地の何もないところから霧に包まれながら大笑いする一人の女性が姿を表す。
俺はその人に見覚えがある、ありすぎるほどにある、朝から夕方までの間、俺を災難に合わせ続けた女性、カスミ、その人だった。
「やぁ、無事、なわけないね、一部始終見てたし…あ、ダメだ思い出し笑いが…ぷぷっ」
ふざけている、なぜこの状況に置かれている俺を見てここまで笑えるのだろうか、でも、その気楽そうな楽天さにどこか心が休まっている俺が居る。
この人のどこかにそういう力があるらしい。
「さてと、君、生きたいかい?」
俺は首を縦に振り頷く。
すると、彼女は口を尖らせ、不機嫌そうにこう聞く。
「返事が聞こえないなぁ、しっかり返答を返してもらわないとぉ…」
「い、生きたい!!生きたいです!」
俺の焦ったような返答に彼女は可愛らしく笑った。
その笑顔に少し顔が赤くなったのを感じた、自分でもちょろいと思う。
「それじゃあ、私は仕事をするとしよう、君は下がっていると良いさ、全て私に任せて」
そう言うと彼女は顔の表情をガラッと変え、真面目に通信機に手をやる。
「ライブラリ、能力行使の許可は?」
『先の保護対象の一言で下りた、存分に叩きのめすと良い』
「オーケー、よーし…ぶっ飛ばす!!」
その言葉をその場に取り残すような恐ろしいスピードで黒服に接近していく。
カスミの細い体からは想像できない拳打が黒服の胴を確実に捉える。
その拳の重さに少し黒服は怯むものの、すぐに体勢を立て直し、地面を強く蹴ると空中へ跳び上がり、待機させていた蝙蝠の足に捕まり、ハンドガンを構える。
乾いた銃声が三度、空気を震わす。
確実に一発は当てれることを想定した銃撃、しかし、着弾する頃にはそこにカスミの姿はなく、地面には虚しく三つの弾痕が残されていた。
「飛べば私に勝てると思った?残念…勝てないのよ、その程度じゃね」
真後ろから聞こえてきたその声に黒服は背筋が冷えていく感覚を感じながら脇下から銃口を突き出し、後方へ発砲する、しかし、これも銃弾は空を切り暗闇へと吸い込まれていく。
焦り、冷静さを欠いている黒服は早口にブツブツとこう呟く。
「聞いてない、この仕事は子供一人を殺すだけだって、簡単なんだって、こんな化物を相手にするなんて契約にはなかった」
黒服は全神経を目に注ぎ、霞を探す。
すると真上から声がした、その声の方向に反射的に発砲した、してしまった。
撃ち放たれた銃弾は蝙蝠の翼を貫き、蝙蝠のコントロールを効かせなくする。
まずい、とそう正気に戻った頃には蝙蝠と黒服は急降下しており、地面はすぐそこだった。
能力により生み出した蝙蝠は消滅し、あぁ終わりか、と観念した、その瞬間脇腹に激痛が走り横方向に真っ直ぐ飛ばされる。
「ぐあっ!!」
「そんな簡単に死なせないわよ、ささ、情報を渡しなさい」
「な、何も聞いてない!!俺はた、ただ依頼を受けただけだ!!依頼主の顔も知らない!!」
「ふーん…でも依頼主の名前ぐらいは知ってるでしょ?名前も明かさない依頼主の依頼なんて誰も受けないもの」
「ぁ、あぁ!言えばいいんだろ!依頼主は“アラキ”という男だ!!それ以外は何も知らされちゃいない!!」
「そう、話してくれてありがと、それじゃあ…逮捕ね」
「は、はぁ?見逃してくれるんじゃ…」
「バカね、それはそれ、これはこれってやつよ、あなたは犯罪を犯してる、それは変わらない事実なのよ」
そうカスミがなれた手付きで黒服を拘束し、手首に腕輪を付けると、パトカーが一台サイレンも鳴らさずに近寄ってきた。
「お疲れ様です、回収に上がりました」
「ご苦労さまです、それじゃ、はい」
「はい、確かに」
手慣れているのか、会話は最小限だ、というか説明はライブラリが全て済ませてしまったのだろう。
そうして警察官はそそくさと黒服をパトカーに乗せて、走り去っていった。
そこで緊張の糸が切れたのか雄志はその場にパタリと倒れ込み、本日三度目の気絶を体験するのであった。
ブランケットをどかし、体を起こそうとすると首が強く痛む、人生で初めて食らった手刀、それはかなりの威力を持っていたようで……。
あたりを見回すと、質素な事務所のようだった、そして、またカスミさんが向かいのソファで寝ていた。
その顔は完全に死んでいる。
「あぁ、起きたか、少年」
「ま、また睡眠薬ですか」
「そうだね、すっかり忘れていた」
「忘れてたって……っていうかあの手刀やっぱり能力使ってたんですね…」
あんな速度の手刀、いくら有力者といえど女性には出せるわけがない、いや、でも会話の内容的になんかの特殊部隊にでも属してる風だった……んで、そうならそこで訓練も受けてるんじゃ……?
「もしかして、楽をしたかった…?」
「おぉ、ご名答、まさにその通りさ、人を手刀で落とすなんて女の私じゃあ早々できないしね、いくら訓練を受けていても、外したりしたら命に関わるのよね、だから能力使ったら、このザマってわけ」
「なんだか、抜けてますね」
俺はおかしくて笑う、するとズキッと首が痛む。
その痛みに顔を歪ませる俺を見て、カスミさんはニヤァ…とからかい顔で笑ってみせる。
「あなたのせいなんですからね……」
「悪かった悪かった、以後は気をつけるよ」
「今後こういうことがあるみたいな言い方やめてください!!」
「あるさ、なんたって、君は今日から私達の監視対象だからね」
「は、はぁ??」
「おっと、まだ話していなかったね、まぁ詳しくはライブラリに……」
そう、カスミさんが言うと部屋のドアがノックされた。
「噂をすれば影がさす、だね」
「失礼する」
先ほど、カスミさんが通信機で会話していたかなり高い声が耳に届く、現れた本人の姿はまさに少年、むしろ長い睫毛と整った顔立ちから女の子にだって見える。
というか、背に至っては145cmあるかないか、もしくはそれよりもっと低くも見える。
小さくて可愛い、まるでマスコットだ。
マジマジと観察してしまっていると俺の視線に気づいたのか、彼は俺の方に向き直る。
そして、俺に指差しをしながらこう言い放つ。
「何を見ている、危険因子、可愛い、などと思っているならば今すぐ貴様の保護·監視任務など蹴っても良いんだぞ、僕は、自分に火の粉が降りかかるのが一番嫌だからな」
「そんなこと言って~ライブラリが任務を蹴ったことなんて一度もない癖に~」
「う、うるさい、とにかく危険因子、貴様は僕達が一応は保護し、観察する、しかし、変な動きをしようものなら、僕達は自分の身を優先する、良いな」
「ちょ、ちょっと待ってください、なんでそんな話に?」
「何度も言っているだろう、危険因子、貴様が不可解なことが重なった危険因子だからだ、1つ目は自分が有力者だ、と認識していないと言う所、しらばっくれているか、なにか悪い組織と繋がっているに違いないと考えるのが当然だろう、2つ目に貴様は数少ない予知能力を持っているかもしれない、それにより命を狙われてもおかしくないからだ、貴様が夢で見たようにな、そして、3つ目、貴様が彼女を轢きそうになったところだ、もし貴様の話が本当ではなかったら、それは明確な悪意を持った行為だと判断できるからだ、わかったか?」
「さ、最後のは完全に私的な感情が……」
「口答えをするな!!」
「は、はい…」
怖くない……のだが、少しだけ反省したような雰囲気を出しておく、そうしたほうが今後の関係的にも良いだろう。
そして、話が一段落したことを感じた俺は、まず一つの疑問を口に出す。
「そういえば、ここは…なんなんですか」
「教えることはできない、機密事項だ」
「え、どのような組織かも教えてもらえないんですか?」
「あぁ、教えられない」
「名前は」
「名前も駄目だ」
「じゃあ僕は得体の知れないものに身を預けることに……」
「…………国家特務機関有力者犯罪対策課、通称テミス、その本部だ、本部といってもそんな大層なもんではないがな、ここに居るのはせいぜい俺達とオペレーター……ぐらいだな、他のメンバーも居るには居るが……ほとんどが他の支部に行ってるな、上層部の人間は……権力で女を貪るくだらない生活でもしてるんじゃないか?」
「え、そんな適当でいいんですか」
「あぁ、結局はほぼ警察とブレスレットで事が足りるからな、俺達が対応するときは本当にごく稀だ」
「こんな平和だから私達は上から給料泥棒だの、予算を削減しろだの苦言をこぼされてるのよね~」
そう笑顔で言った後カスミさんが小さな声で「絶対困ったとき助けてやんねぇ…」と言ったのを俺は聞き逃さなかった。
そのことに流石に苦笑いを浮かべる。
「それで、俺はこれからどうすれば?」
「あぁ、もう自宅に帰ってもいいぞ、それと……貴様が寝てる間に有力者登録済ませておいた、2日しないうちに貴様の家にブレスレットが届くはずだ」
「えっ、ちょっと、勝手に何してるんですか!!」
「いくら観察対象とはいえ、有力者は有力者だ、当たり前のことは済ませて当然だろう」
「ち!!が!!う!!まずそういうのって俺とか俺の親のサインとかが必要でしょう?」
「それでは非効率だろう、それに僕の能力、ライブラリで書いた書類は完璧だ、筆跡から印鑑まで全て、お前が書いたような物になっている、誰にも見破ることはできないさ」
「そっかぁ、それなら安心……ってんなわけあるかい!!!何がなんだか……」
するとカスミさんが俺の方を叩き、こう言う。
「まぁ、これがウチの頭脳なんだ、許してやってくれ」
おいおい、本当にこんな組織にお世話になるっていうのか?効率を求めて書類偽造をする奴らに?イカれてるな。
俺は自嘲を込めながら立ち上がり、今後のことを考えながら、テミスの本部をあとにしたのであった。
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テミス本部からの帰り道、夢の中で見た自分と同じ状態に置かれた俺は気が気ではなかった。
暗い夜道、着慣れた制服、そして、腕にはめたギブス、その全てが、今から襲われるのではないか、あと数分後襲われるのではないか、という気持ちを誘発する。
そうなると、歩くスピードが上がるのは当然のことだった。
怖い。
その感情が俺の心の中を支配して心臓の鼓動を自然と早くし、息苦しくしていく。
汗が頬を伝う、その感覚は気持ち悪いどころの話ではなく、背筋がゾクゾク、とし、肝が冷えていくのを身体全体で感じる。
俺は、自分が恐怖心にかなり弱い人間なのだ、と実感する。
そして、その恐怖心は俺の心臓を更に刺激し、俺を走り出させた。
そして、どこか見覚えのある路地に入った。
「はぁっ…はぁ…ここ…夢の……」
次は体を電流が流れたかのような痺れに襲われる。
ここから、抜けないと、抜けないと殺される…!全部あの夢と同じだ、殺されるっ!殺される!!
頭は半ばパニックに陥り、体を無理矢理動かし、俺はまた走り出す。
もう折れた腕の痛みなど後回しだ、痛くも感じない。
走り出すと後ろから微かに羽音が聞こえるのがわかる。
もはやここまで夢と同じ状況に置かれると変な笑いが出た。
「はははっ!はははは!!」
死ぬのか、いや、死ぬんだな、俺。
もはや思考は生きることを選択肢から排除しているような、そんな思考だった、どう死ぬか、それしか考えられない。
半狂乱に陥り、俺は笑いながら走る、ただただまっすぐに、疲れなんて感じないほどに走る。
そうして十数歩進んだ頃だろうか、俺は自分の右手首を伝う紅い液体に気がつく。
「……は?」
ギブスの付いていない右腕の二の腕に大きな引掻き傷のようなものが出来ていた。
傷を認識した瞬間、傷口が急激に熱されたような感覚を受ける。
「ぅぁ…あ、ああああッ!!」
右手を庇うように骨折した左手を出そうとすると、左腕に強い鈍痛が走る、その拍子に俺はバランスを崩し路地に転がる。
立ち上がって、走ろうとするが、足腰が言うことを聞かない。
焦って、確認するように後ろを向くと、そこには…やはり居た。
巨大な蝙蝠と黒いトレンチコートを身にまとった男が。
「ひぃっ……!!」
あまりの恐怖から情けない声が出た、しかし、そんなのどうでもいい、もはや何も考えられない、目の前に死が近づいている、それしかわからない。
この状況から生き延びるなんて考えれない、もはや死が確定している、そう言わんばかりに脳内を走馬灯が駆け巡る。
あらゆる楽しかった記憶、親が育ててくれた愛の記憶、涙を流した哀の記憶、その他の記憶が一気に流れ込み、吐き気を催す。
もはや自分が今どんな顔をしているかもわからない、きっとぐしゃぐしゃに汚い顔をしているのだろう、父さんと母さんに笑われるような。
ふと、両親の顔が浮かぶ、父の海外赴任を機に高校生の俺を残し、海外へ行ったクソ両親、そんな思い出したくもない両親の顔を思い出して、俺は泣きながらこう叫ぶ。
「俺も海外…行きたかった!!!!」
精一杯叫ぶにしてはくだらなさすぎる内容だが、つい口から飛び出た言葉だ、止められもしないし、誰も聞いてはいない。
……はずだった。
「…ぷっ、ハハハッ!!ちょ、ちょっと待って、クククッ、待ちに待ってた、君からの言葉が、それって、プハハハハハハ!!“ライブラリ”、録音してあるっしょ?後で音声データちょうだいよ、フハハッ」
この細い路地の何もないところから霧に包まれながら大笑いする一人の女性が姿を表す。
俺はその人に見覚えがある、ありすぎるほどにある、朝から夕方までの間、俺を災難に合わせ続けた女性、カスミ、その人だった。
「やぁ、無事、なわけないね、一部始終見てたし…あ、ダメだ思い出し笑いが…ぷぷっ」
ふざけている、なぜこの状況に置かれている俺を見てここまで笑えるのだろうか、でも、その気楽そうな楽天さにどこか心が休まっている俺が居る。
この人のどこかにそういう力があるらしい。
「さてと、君、生きたいかい?」
俺は首を縦に振り頷く。
すると、彼女は口を尖らせ、不機嫌そうにこう聞く。
「返事が聞こえないなぁ、しっかり返答を返してもらわないとぉ…」
「い、生きたい!!生きたいです!」
俺の焦ったような返答に彼女は可愛らしく笑った。
その笑顔に少し顔が赤くなったのを感じた、自分でもちょろいと思う。
「それじゃあ、私は仕事をするとしよう、君は下がっていると良いさ、全て私に任せて」
そう言うと彼女は顔の表情をガラッと変え、真面目に通信機に手をやる。
「ライブラリ、能力行使の許可は?」
『先の保護対象の一言で下りた、存分に叩きのめすと良い』
「オーケー、よーし…ぶっ飛ばす!!」
その言葉をその場に取り残すような恐ろしいスピードで黒服に接近していく。
カスミの細い体からは想像できない拳打が黒服の胴を確実に捉える。
その拳の重さに少し黒服は怯むものの、すぐに体勢を立て直し、地面を強く蹴ると空中へ跳び上がり、待機させていた蝙蝠の足に捕まり、ハンドガンを構える。
乾いた銃声が三度、空気を震わす。
確実に一発は当てれることを想定した銃撃、しかし、着弾する頃にはそこにカスミの姿はなく、地面には虚しく三つの弾痕が残されていた。
「飛べば私に勝てると思った?残念…勝てないのよ、その程度じゃね」
真後ろから聞こえてきたその声に黒服は背筋が冷えていく感覚を感じながら脇下から銃口を突き出し、後方へ発砲する、しかし、これも銃弾は空を切り暗闇へと吸い込まれていく。
焦り、冷静さを欠いている黒服は早口にブツブツとこう呟く。
「聞いてない、この仕事は子供一人を殺すだけだって、簡単なんだって、こんな化物を相手にするなんて契約にはなかった」
黒服は全神経を目に注ぎ、霞を探す。
すると真上から声がした、その声の方向に反射的に発砲した、してしまった。
撃ち放たれた銃弾は蝙蝠の翼を貫き、蝙蝠のコントロールを効かせなくする。
まずい、とそう正気に戻った頃には蝙蝠と黒服は急降下しており、地面はすぐそこだった。
能力により生み出した蝙蝠は消滅し、あぁ終わりか、と観念した、その瞬間脇腹に激痛が走り横方向に真っ直ぐ飛ばされる。
「ぐあっ!!」
「そんな簡単に死なせないわよ、ささ、情報を渡しなさい」
「な、何も聞いてない!!俺はた、ただ依頼を受けただけだ!!依頼主の顔も知らない!!」
「ふーん…でも依頼主の名前ぐらいは知ってるでしょ?名前も明かさない依頼主の依頼なんて誰も受けないもの」
「ぁ、あぁ!言えばいいんだろ!依頼主は“アラキ”という男だ!!それ以外は何も知らされちゃいない!!」
「そう、話してくれてありがと、それじゃあ…逮捕ね」
「は、はぁ?見逃してくれるんじゃ…」
「バカね、それはそれ、これはこれってやつよ、あなたは犯罪を犯してる、それは変わらない事実なのよ」
そうカスミがなれた手付きで黒服を拘束し、手首に腕輪を付けると、パトカーが一台サイレンも鳴らさずに近寄ってきた。
「お疲れ様です、回収に上がりました」
「ご苦労さまです、それじゃ、はい」
「はい、確かに」
手慣れているのか、会話は最小限だ、というか説明はライブラリが全て済ませてしまったのだろう。
そうして警察官はそそくさと黒服をパトカーに乗せて、走り去っていった。
そこで緊張の糸が切れたのか雄志はその場にパタリと倒れ込み、本日三度目の気絶を体験するのであった。
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楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
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