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少年期
#35 昔話をしよう
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「……なんだよ……これ……」
「ひ、ヒドイ……こんなの、こんなのっ!!」
あたり一面に広がり刻一刻と散りゆく命を目の当たりにし、俺は吐き気を催し、胃の中身をすべて吐き出す。
ターシャはその場にしゃがみ込み、咽び泣いている。
そんな絶望している俺達二人の前に陽気な声で話しかけてくる男が居た。
クルシュだ。
そう、この男がこの惨劇を、この惨事を引き起こした張本人。
「お前ぇえええええ!!!!」
俺は吐瀉物を吐き出したことにより痛む喉のことなど気にしないほど、激昂し、駆け出す。
「9番!!!!」
俺がクルシュを斬りつけようとした瞬間、クルシュが何かを投げつけてきた。
その投げつけられたものを俺は何も考えず、斬りつけ、前へと駆ける、そう、“何も考えず”。
「あ~やっちゃいましたね~あ~あ~、やっちゃったやっちゃった」
「何を……笑って……い……」
そこで、今、斬りつけた瞬間感じた感触を思い出す、今の感触は、魔物を斬りつけたときと同じ感触……しかし、それよりもっと柔らかい感触……そう、“人のような”感触。
静かに、俺は立ち止まり、斬りつけたモノが落ちたであろう場所へと向き直る。
そこには、顔の半分が、削ぎ取られ、脳が露出した、レイラだったはずのモノの生首が落ちていた。
昨日まで笑顔だった彼女の顔、数時間前まで見ていた彼女の顔、そうあの真面目でひたむきなあの顔。
それが今俺の後ろに転がっている、しかも、もう面影などない程に血でぐちゃぐちゃに塗れ、目の下には沢山の涙を流したのだろう濃く、涙痕が瞳から頬まで一途の線を描いている状態で、だ。
俺は膝から崩れ落ち泣き叫ぶ、自分の無力さを強く憎むように。
なぜ、このようになってしまった、なぜ、こんなことが起こり得てしまったのか、頭の中で疑問が溢れ、脳がオーバーフローし、俺は叫ぶことすらやめ、静かに空を見つめていた。
空は曇天だ、今にも雨が降ってきそうな程にまで、いっそのこと雨が降り、この涙を誤魔化してはくれないだろうか、雨音で耳に残る断末魔を消してくれないだろうか、そんなことを思う、しかし、雨は降らないし、涙は絶えず流れ、断末魔は耳の中で反響を続ける。
そんな俺にクルシュはこう言う。
「さて、落ち着いたところで、昔話をしましょうか」
「そんなのさせない!!させてたまるもんか!!」
「おや、ターシャ先輩、急に剣を振るうなんて危ないじゃあないですか、いくらターシャ先輩だろうと邪魔はさせません、あなたは殺してはいけない存在だから、そこで大人しくしていてください」
瞬間、魔法陣から触手が生え、ターシャを羽交い締めにする。
「は、離せ、離せぇ!!!!」
「あなたがどれだけ抵抗しようとも無駄です、それは人を縛る呪いのようなものですから、もちろん、解呪など不可能ですよ」
「く……そぉ!!」
ターシャは自らの無力さに絶望感を感じながらも触手の力に抗おうとする。
「あ~もう、うるさいですね、静かにしてください」
その言葉と共にターシャのうなじに触手による手刀が繰り出され、ターシャは力を失った人形のようにだらん、と気を失う。
「さてさて……昔話をしましょう……ねぇ?“中山祐也”クン?」
そう、クルシュは舌なめずりをしながら俺の耳元で囁いた。
その瞬間、視界は暗くなった。
______________________________________________
暗闇の中にはスクリーンが用意されており、そこに映像が映し出されていた。
そして、クルシュの声で語りが始まる。
その昔話は俺の良く知っている場所から始まった、そして、その記憶は幹太君が死んだ日の記憶と綺麗に一言一句違えず合致した。
あぁ、またこの話か……。
俺は静かに先の展開を思い出しながら聞いていた、そして、俺の代わりに幹太君が轢かれてから、俺の知っている話とは違う話が始まった。
暗闇に浮かぶ幹太君の身体、その身体はとても力が入っておらず、目からも光が失われている、そう、まさに“死んだ”状態である。
しかし、その暗闇で死んだ身体は大事に保管されていた。
そんな映像が続く、続く、続く。
永遠と感じれる時間続く、しかし、すぐにそう思われた映像に変化が現れる、何か、大量の白い玉のようなものが幹太君に向かい、一斉に動いている、そうだな……保健体育の授業で見た、卵子に向かっていく精子のような光景だ。
そして、一つの白い玉がいち早く幹太君に吸収され、死体だったはずの幹太君の目に光が灯り、力が入る。
そしてそこで気づく、これが、“クルシュ”という存在なのだ、と。
そこで考えを巡らせていくに連れて、この世の理に気づく、この世界は向こうの世界と繋がっている場所があり、そこから召喚された人はこの世界、ラーティナに何か変化を及ぼす役目を与えられる。
四爪の狼の元店主、前田四爪だってそうだ、彼はこの世界に短期間とはいえ、召喚され、この世界の[食]に変化をもたらした。
そして、幹太君はなにかの変化を与えられるためにこの世界に召喚された、しかし、精神と肉体、ともに死しており、使命を与えられることなく暗闇に保存されていた、そして、その使命を与えられるはずだった身体に誰かが目をつけ、クルシュのような邪悪な精神を植え付け、魔王の手先とした。
全ての点が線となり、少しの開放感を感じる。
しかし、悲しい結果だ、かつての親友が勝手にこの世界に召喚された挙げ句、勝手に弄ばれたのだ、とても気持ちがいいものではない、しかし、そこには憎しみは湧かなかった、なぜなら、これがこの世界、ラーティナという世界なのだから、これが変えようのないこの世の理なのだから。
そして、俺もその理に精神のみ導かれた一人の人間なのだから。
「語りは必要ありませんでしたね……そうです、あなたが考えている通りですよ、レイ先輩……さぁかつての友人の姿をした僕をあなたは倒せるのでしょうか……見ものですね」
ここで暗闇の世界の幕は閉じ、再度現実に戻される。
もう、俺の心はボロボロで、もう、生きる気力すら失って居た、その俺に静かに語りかける声があった、いや、それは記憶のなかの断片、そうあの日のヤクソク。
思い出した、そうだ、思い出したよ、幹太君、そうだ、俺達は、親友……だもんな、ヤクソク、果たすよ
俺は立ち上がり剣を握り、頭の中でハウリングする幹太君の声と共にこう言う。
「「親友が間違ったことをしたときはそれを正す、それが親友ってもんだ」」
それに続けて俺はこう言う。
「だから、中身が違っても俺はお前の間違いを正す!それが……それが俺がこの世界に召喚されて与えられた、ただ一つの使命だ!!!!」
「ひ、ヒドイ……こんなの、こんなのっ!!」
あたり一面に広がり刻一刻と散りゆく命を目の当たりにし、俺は吐き気を催し、胃の中身をすべて吐き出す。
ターシャはその場にしゃがみ込み、咽び泣いている。
そんな絶望している俺達二人の前に陽気な声で話しかけてくる男が居た。
クルシュだ。
そう、この男がこの惨劇を、この惨事を引き起こした張本人。
「お前ぇえええええ!!!!」
俺は吐瀉物を吐き出したことにより痛む喉のことなど気にしないほど、激昂し、駆け出す。
「9番!!!!」
俺がクルシュを斬りつけようとした瞬間、クルシュが何かを投げつけてきた。
その投げつけられたものを俺は何も考えず、斬りつけ、前へと駆ける、そう、“何も考えず”。
「あ~やっちゃいましたね~あ~あ~、やっちゃったやっちゃった」
「何を……笑って……い……」
そこで、今、斬りつけた瞬間感じた感触を思い出す、今の感触は、魔物を斬りつけたときと同じ感触……しかし、それよりもっと柔らかい感触……そう、“人のような”感触。
静かに、俺は立ち止まり、斬りつけたモノが落ちたであろう場所へと向き直る。
そこには、顔の半分が、削ぎ取られ、脳が露出した、レイラだったはずのモノの生首が落ちていた。
昨日まで笑顔だった彼女の顔、数時間前まで見ていた彼女の顔、そうあの真面目でひたむきなあの顔。
それが今俺の後ろに転がっている、しかも、もう面影などない程に血でぐちゃぐちゃに塗れ、目の下には沢山の涙を流したのだろう濃く、涙痕が瞳から頬まで一途の線を描いている状態で、だ。
俺は膝から崩れ落ち泣き叫ぶ、自分の無力さを強く憎むように。
なぜ、このようになってしまった、なぜ、こんなことが起こり得てしまったのか、頭の中で疑問が溢れ、脳がオーバーフローし、俺は叫ぶことすらやめ、静かに空を見つめていた。
空は曇天だ、今にも雨が降ってきそうな程にまで、いっそのこと雨が降り、この涙を誤魔化してはくれないだろうか、雨音で耳に残る断末魔を消してくれないだろうか、そんなことを思う、しかし、雨は降らないし、涙は絶えず流れ、断末魔は耳の中で反響を続ける。
そんな俺にクルシュはこう言う。
「さて、落ち着いたところで、昔話をしましょうか」
「そんなのさせない!!させてたまるもんか!!」
「おや、ターシャ先輩、急に剣を振るうなんて危ないじゃあないですか、いくらターシャ先輩だろうと邪魔はさせません、あなたは殺してはいけない存在だから、そこで大人しくしていてください」
瞬間、魔法陣から触手が生え、ターシャを羽交い締めにする。
「は、離せ、離せぇ!!!!」
「あなたがどれだけ抵抗しようとも無駄です、それは人を縛る呪いのようなものですから、もちろん、解呪など不可能ですよ」
「く……そぉ!!」
ターシャは自らの無力さに絶望感を感じながらも触手の力に抗おうとする。
「あ~もう、うるさいですね、静かにしてください」
その言葉と共にターシャのうなじに触手による手刀が繰り出され、ターシャは力を失った人形のようにだらん、と気を失う。
「さてさて……昔話をしましょう……ねぇ?“中山祐也”クン?」
そう、クルシュは舌なめずりをしながら俺の耳元で囁いた。
その瞬間、視界は暗くなった。
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暗闇の中にはスクリーンが用意されており、そこに映像が映し出されていた。
そして、クルシュの声で語りが始まる。
その昔話は俺の良く知っている場所から始まった、そして、その記憶は幹太君が死んだ日の記憶と綺麗に一言一句違えず合致した。
あぁ、またこの話か……。
俺は静かに先の展開を思い出しながら聞いていた、そして、俺の代わりに幹太君が轢かれてから、俺の知っている話とは違う話が始まった。
暗闇に浮かぶ幹太君の身体、その身体はとても力が入っておらず、目からも光が失われている、そう、まさに“死んだ”状態である。
しかし、その暗闇で死んだ身体は大事に保管されていた。
そんな映像が続く、続く、続く。
永遠と感じれる時間続く、しかし、すぐにそう思われた映像に変化が現れる、何か、大量の白い玉のようなものが幹太君に向かい、一斉に動いている、そうだな……保健体育の授業で見た、卵子に向かっていく精子のような光景だ。
そして、一つの白い玉がいち早く幹太君に吸収され、死体だったはずの幹太君の目に光が灯り、力が入る。
そしてそこで気づく、これが、“クルシュ”という存在なのだ、と。
そこで考えを巡らせていくに連れて、この世の理に気づく、この世界は向こうの世界と繋がっている場所があり、そこから召喚された人はこの世界、ラーティナに何か変化を及ぼす役目を与えられる。
四爪の狼の元店主、前田四爪だってそうだ、彼はこの世界に短期間とはいえ、召喚され、この世界の[食]に変化をもたらした。
そして、幹太君はなにかの変化を与えられるためにこの世界に召喚された、しかし、精神と肉体、ともに死しており、使命を与えられることなく暗闇に保存されていた、そして、その使命を与えられるはずだった身体に誰かが目をつけ、クルシュのような邪悪な精神を植え付け、魔王の手先とした。
全ての点が線となり、少しの開放感を感じる。
しかし、悲しい結果だ、かつての親友が勝手にこの世界に召喚された挙げ句、勝手に弄ばれたのだ、とても気持ちがいいものではない、しかし、そこには憎しみは湧かなかった、なぜなら、これがこの世界、ラーティナという世界なのだから、これが変えようのないこの世の理なのだから。
そして、俺もその理に精神のみ導かれた一人の人間なのだから。
「語りは必要ありませんでしたね……そうです、あなたが考えている通りですよ、レイ先輩……さぁかつての友人の姿をした僕をあなたは倒せるのでしょうか……見ものですね」
ここで暗闇の世界の幕は閉じ、再度現実に戻される。
もう、俺の心はボロボロで、もう、生きる気力すら失って居た、その俺に静かに語りかける声があった、いや、それは記憶のなかの断片、そうあの日のヤクソク。
思い出した、そうだ、思い出したよ、幹太君、そうだ、俺達は、親友……だもんな、ヤクソク、果たすよ
俺は立ち上がり剣を握り、頭の中でハウリングする幹太君の声と共にこう言う。
「「親友が間違ったことをしたときはそれを正す、それが親友ってもんだ」」
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