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幼年期

#7 入学式の出会い

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入学式当日、俺はカダールの宿で目を覚ました。
慣れない固さのベッドだったせいか、背中が痛い。
窓を開けて外の風景を確認する。
まだ日も出切っていなかった。

「予想より早く起きてしまった…」

二度寝するという選択肢が頭のなかに浮かんだが、すぐにその選択を捨て、外に習慣のランニングをしに行くことにした。

早朝の外はとても心地いい気温だった。
絶好のランニング日和だと言えるだろう。

「うっし!とりあえずここら一帯一周してみるか!!」

そして、俺はランニングを開始する。
走り始めて数十分程たった頃、街を歩く一人の少女を見かけた。

美少女だった。
その少女は、そっくりそのままアニメのキャラを描いたかのような容姿で、茶髪のロングヘアーを後ろで括り、背丈は俺と同じぐらいで、人の視線を自然と集めるカリスマ性のようなものを感じた。

こんな時間に女の子が一人で歩いてるなんて珍しいなと思い、俺は声を掛けることにした。

「ねぇ君、もしかしてオルトマニア魔法学校に入学するの?」
「え?あ、まぁ…」

少女が少し怪訝そうに返事を返してきた。

「そうなんだ!実は俺も今日から入学するんだ!会えたら良いね!」
「え、あなたもですか?!あ、あのその…こんなことを聞くのはとても恥ずかしいのですが…学校の場所を教えていただけませんか?」

なるほど、学校場所がわからないからここら辺を歩いて探してたって訳か、まぁ学校の方向にも行く予定だったし、ついでと思えばいいかな。

「良いよ、俺も行く予定だったし、それと同い年なんだし敬語は無しにしようよ、それと俺レイ=グラントよろしくな」
「は、はい…じゃなくて、うん!ありがとう!私ターシャ=シルフィンド、ターシャって呼んで」
「うん、ターシャよろしくね、それじゃあ行こうか」
「うん!」

ヤバイ、笑顔が眩しくて直視できない、可愛い。

そうして俺はターシャを連れてオルトマニア魔法学校ヘと向かった。
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「予想よりも更に二回りぐらい大きいな」

学校は、マジでデカかった、山の上から見てもわからなかった、スケール感で圧倒されそうだ。
ターシャも呆然と学校を見つめている。
そしてターシャが俺のほうに顔を向け、こう返す。

「そうだね、今日からここで勉強するのか~楽しみだね、レイくん!!」

ターシャが嬉しそうにニッコリと俺に向かって笑い掛けてくる。
その笑顔に俺は「そうだな」と返す。

その笑顔は反則でっせ、お嬢ちゃん…おじさんニヤニヤしちゃう。

そして、気付くと日は昇りきって居て、もうそろそろ宿に戻らなければいけない時間になっていた。

「それじゃ、ターシャ、この後また会えたら!!」
「うん!学校の場所教えてくれてありがとう!!またね!!」

ターシャに向かって俺は、軽く手を振り、全力ダッシュで宿に戻った。
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宿の部屋で素早く制服に着替え、宿を出て、学校へ向かう。

「結構動きやすいな、この制服」

制服はシャツにズボン、その上にポンチョといった、生前よくラノベで見たようなデザインだ。
ポンチョの素材には魔力が練り込まれており、高い魔法耐性が付与されてらしい。

そうして、数十分歩くと、先程見た静かな光景とは一変した賑やかな光景のオルトマニア魔法学校が見えた。

今なら、あの人の言葉がわかる気がする。
フハハ、人がゴミのようだ。
きっと東京の渋谷なんかもこんな光景だったんだろうな、と苦笑いが零れる。

「さぁ、俺もそのゴミの中の一人になりにいきますかねぇ~」

そうして俺は人混みの中に入ったのだった。
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人混みの中は地獄だった。
なにより引きこもり時代に、人混みに紛れるということは一度もなかったので、吐き気が出そうだった。
そんな俺に救いの手を差しのべたのは彼女だった。

「あ!レイくん!見つけた!手を握って!!」

そう、ターシャだ。

「ターシャか?わかった!!」

手を握った瞬間、あの細い手の力とは思えない力で引っ張られた。

「お、おぉう」
「大丈夫だった?」

引っ張られた先にはターシャが当たり前だが居た。
うん、制服も良いな!
ん?なんで胸元にヘアピンなんて着けてるんだ?しかも金色て。

胸元のヘアピンを凝視していた、俺に気付いたのか、ターシャがそのヘアピンについて説明を始めた。

「これはね、主席の証なの、私入学試験で一番だったらしくて…色々なお得なことがあるらしいよ~」
「!?スゴいな、主席って」
「うん、私もビックリしたよ…それと…はい!」

ターシャが銀色のヘアピンのようなものを渡してきた。

「え?俺?」
「そうだよ、"次席"君!!」
「マジかよ」
「マジだよ?これからも頑張ろう!!レイくん!!」
「お、お~!」

なんだか理解が追い付いていないが俺は次席になったらしい。
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俺とターシャは同じA組だった。
なんて偶然、おじさん運命感じちゃう。
まぁ俺にそんな運命ないわけで、今はターシャと並んで学級に向かっているところだ。

教室に近づくに連れて汗が垂れ、動悸が激しくなる。
隣にターシャが居るからではない。
怖いのだ。
俺が教室に入ると静まり返る教室、ヒソヒソと聞こえる俺への悪口。
その他諸々の記憶が俺を苦しめる。
息が荒くなる。
割とヤバイな…これがトラウマってやつか。
怖い、怖い、怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわ…

「ってレイくん~聞いてる?」

その一声で俺の中の恐怖心は一気にはれる。
そして、正気に戻った俺は慌てて返答する。

「あ、あぁごめん、考えごとしてた、なんの話だっけ?」
「あ~やっぱり聞いてなかった~」

ターシャが頬をぷくっと膨らませる。
かわいい、この一言に限る顔だった。

「ごめんて」
「まぁ、許そう、おっほん、この証があれば学食が無料になったり、色々なことに対しての優先権が貰えるんだよ、OK?」
「OKOK」

ヘ~このピンにそんな能力が…もしかして主席と次席の優先権の力が同じとかは…

「あ、もちろん私のほうが地位上ね」」
「ですよね~」
「あ、もう教室だ、行こ!」
「あぁ」

教室に入ると、そこにはほとんどの生徒が教室内に居り、皆隣の相手同士で駄弁ったり、遊んだりしていた。
その光景を見ると、選ばれた生徒でも、まだ子供なのだな、と思う。

「えっと…俺の席は…窓際か」

ラッキーと思いながら席に着くと、隣の生徒が陽気そうに話し掛けてきた。

「おい、そのピンって次席の証だよな?」
「あ、うん、そうだよ」

突然話しかけられたから、つい愛想悪く答えてしまった…ッ、悪い印象を与えていないと良いけど…

「へぇ~ホントにあったンだ!っと、自己紹介がまだだったな、俺っちはクルーゼ、クルーゼ=マルナードよろしくな」
「あぁよろしく、俺はレイ=グラント、隣が話しやすい奴で助かったよ」

どうやら、悪い印象は与えていないようだ。
その事がわかり、ホッと胸を撫で下ろす。

「やっぱ?!俺っち誰とも仲良くなれンだよな~そんなことよりさ!!次席ってことはお前スゲーンだろ?」
「どうだろう、魔力が多いだけだし」
「へぇ~ちなみにどんぐらい?」
「今は250万かな、確か」
「おいおい、ウソはいけねぇぜ、いくら次席だからってよ」
「んじゃみてみる?」

俺は鞄からペーパーナイフと羊皮紙を一枚取りだし、ナイフで薄く指にキズをいれ、血を一滴羊皮紙に垂らす。

「ステータス開示《ステータスオープン》」

瞬間、羊皮紙の上に文字が浮かび上がる。

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名前:レイ=グラント(6) 性別:男

天職:旅鍛冶師《エンチャンター》

能力値
体力:450(+60)
知力:600(+150)
精神力:95(-250)
魔力:2500000(+2320000)   

魔法適性
火、△水、○氷、◎風、◎光、△闇、△
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クルーゼは、目を何度も擦り確認する。
なんだよ、俺ってそんな信用ないの?
そこで、願望増幅能力のことを話してみる。

「クルーゼ、お前、願望増幅能力って知ってるか?」
「んだそれ」
「願望増幅能力は、一日の内に一番望んだことを統計してそれに関係する能力値一つを底上げする能力なんだ、そしてその能力が俺の体には備わってる」
「う~ん、つまりレイはそのスゲー能力があったから、次席になれたのか」
「まぁそうだね、多少の努力はしたけど」
「良いなぁ~俺もそんな能力ほしかったな~俺ほぼこの学校に入れたのギリだったし」
「俺でよければ、色々と付き合うよ」
「マジ!?いやぁ助かるわ~主席と次席の人間って変な人しか居ないって聞いてたから、ちょっと安心したわ~」
「そうなの?」
「あぁ、皆才能の塊だから失敗ってものを知らなくて、天狗になってるんだってさ」
「あぁなるほどね」

確かに前世にもそういうの居たなぁ…頭いいからって自分の力過信してたやつ、うざかったなぁ…

そうして、教室でクルーゼと話していると、あっという間に入学式の開始10分前になっていた。
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「この世界でも校長の話は長いんだな」

長い長い別にありがたくもない、校長の話を聞いていると、つい昔のことを思い出し、口からそうこぼれていた。

「この世界?どういうこと?」

俺の発言に食いついてきたのはターシャだ。
誰も聞いていないと思っていた俺は慌てて返答する。

「い、いやターシャは知らなくて良いよ」
「そう?でもまぁ長いよね~まぁたぶんあとちょっとだから我慢しよ?」
「そうだな」

そして、そのあと10分も話があったのは秘密である。

「学校長先生ありがとうございました、さて次は新任の先生も紹介したいと思います」

女教師がそういうと、一人の青年がステージに登壇した。

その青年に俺は見覚えがあった、幼い日の記憶がフラッシュバックしていく。

そして、女教師がその青年の名前を呼ぶ。

「ニム=グラント先生です」

そう青年は俺の兄、ニム=グラントその人だった。
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