佐城沙知はまだ恋を知らない

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佐城沙知はまだ恋を知らない

六話 『もっと当ててあげよっか?』

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 沙知と恋人となってから数日が経った。

 恋人となるまで接点がなかった僕たちだったが、学校でも会ったら話をするようになっていた。

 それに今まではあまり彼女のことをチラチラとしか見ていなかったが、最近は彼女の一挙手一投足が気になるようになっていた。

 基本的に彼女は授業態度が良くない。授業を聞いていてつまらないのかノートに何かを書いたりしている。しかし教師に指名されたりしたらしっかりと答えている。

 ただ宿題を忘れてたり、余所事をやって先生に怒られることが多いためクラスの中では比較的目立って見える。

 それに技術系の科目だと彼女は不器用なのかとにかく見ていてハラハラすることがある。この前も工作の授業のときに指を切ってしまい、痛さで半泣きになっていたのは記憶に新しい。

 あと沙知は体育の授業は絶対に見学をしている。理由を彼女に聞くと、運動するほどの体力はないかららしい。

 そんな感じで授業の様子だけでもかなり悪目立ちしている彼女だが、容姿の良さもあって更に目立っている。それは良い意味でも悪い意味でも。

 女子からは容姿の良さと自由奔放な性格があまり評判が良くなく、男子からは容姿は良いせいか男子の彼女を見る目は邪なものが多い。

 ただ当の本人はその状況を一切気にしてないどころか、むしろ興味がない様子だった。

 そんな感じでここ数日間の彼女の様子を頭の中でまとめていると、不意に彼女が僕の顔を覗き込んできた。

「うぉ!! どうした!?」

 さっきまで考え事に耽っていたので、いきなり現れた彼女に僕は驚いてしまう。すると沙知は訝しげに眉をひそめていた。

「それはあたしのセリフだよ、さっきからずっとボーッとしていたけど考え事?」

「え? ああ……ちょっと沙知のことを考えていて」

「あたし? 何で?」

 沙知は僕の返答に不思議そうな顔をしていた。自分の事でボーッとされてるなど言われて戸惑うのは当然だろう。

「まあ、好きな相手のことを考えるのは当然だろ、彼氏なんだし」

 僕がそういうとあまりピンときていないのか沙知は首を傾げていた。恋人同士とは言うもののやっぱり彼女は僕に対して好意を抱いてる様子はない。

「それにしても頼那くんってホントにあたしのこと好きだよね~もしかしてあたしの裸とか想像する?」

 沙知はニヤリと嫌な笑みを浮かべながら僕に近づいてくると顔を覗き込んできた。

「そ、それは……するけど」

 沙知の裸を想像してることは確かなので、僕は彼女の問いに対して素直に答えた。その答えを聞いて満足したのか、彼女は今度は意地の悪い笑みを浮かべていた。

「あははっ、素直だな~」

「沙知は素直に言ってほしいタイプだろ」

「まあ、そうだけど、よく分かってるね」

 そう言って彼女はクスッと笑みを浮かべる。その表情が可愛くて思わずドキッとしてしまい、僕は顔が熱くなるのを感じていた。

「それよりも今日の授業も終わったし、早く部室まで連れていってよ」

「はいはい、分かったよ」

 僕は沙知の言葉にそう応えると荷物をまとめて教室を出る。そしてすぐに沙知と合流して、部室に向かった。

 科学部の部室である第二科学室は校舎の隅に位置しており、僕らが普段使っている教室からかなり離れている。だから移動しているとそこそこ時間がかかる。

 ただそのぶん部室に行くためには人通りが少ないため二人きりの時間が過ごせるという利点はあるが……。

「ゼェゼェ……部室……遠いよ……」

 体力のない沙知にとってはただただ苦しい道のりでしかないようだ。さっきから辛そうに息を切らして愚痴をこぼしている。

 たかがこの距離で情けないなどとは言わないが、あまりにも辛そうなので沙知のことを気遣って話しかける。

「肩貸そうか?」

 僕が沙知にそう尋ねると、彼女は首を横振ると僕の方を見た。

「おんぶして」

「はぁ!?」

 彼女の唐突な提案に僕は思わず声を上げてしまう。突然のことで混乱していると、彼女は意地悪そうに言った。

「もしかしておんぶも出来ないの?」

 沙知は馬鹿にしたような顔で僕を見ていたが、彼女からしたらニヤニヤしてるだけにしか見えていないので素直に答えることにした。

「それぐらいできる……けど……おんぶってことは……その……」

 僕は歯切れが悪くなったが、何を言いたいのか分かった沙知はニヤニヤしたまま僕を見た。

「なに? もしかして胸とか当たるからドキドキしちゃうとか?」

「あ……ああ……」

 沙知の言葉に僕は思わず狼狽えてしまう。すると彼女はまた意地の悪い笑みを浮かべる。

「え~、別にあたしは気にしないからいいじゃん」

 確かに沙知が気にしないのなら僕だけがドキドキしていればいい話なんだけど、僕が意識しすぎてしまって逆に恥ずかしくなる。

「沙知が気にしてなくても僕が気にするんだよ……」

「ふ~ん……まあいっか」

 少し間を置いて彼女はそう応えると、突然僕の背中に抱きついてきた。

「ちょっ!? さ、沙知!?」

 突然の彼女の行動に動揺してしまい声を上げてしまう。そんな僕の反応が面白いのかクスクスと彼女は笑っていた。

「あははっ、何テンパってるの?」

 そんな僕を見て沙知は面白そうに笑う。そして僕の耳元に顔を近づけると甘い声で囁いた。

「あたしの胸の感触、背中から存分に味わいなよ」

 彼女の吐息とその言葉にゾクッとする感覚を覚えると同時に、僕の背中から伝わる柔らかい感触にも更に意識が向いてしまう。

「どうどう? 何か感じる?」

「べ、別に……」

「でも耳真っ赤だよ……それにちょっと前屈みになってるし」

 僕は沙知に指摘されて咄嗟に前屈みになっていた体を直す。別に前屈みになるほど反応はしていない。ちょっと当てられただけで興奮したりなんかしない。

「もっと当ててあげよっか?」

 沙知はそう言うと更に僕にぎゅーっと胸を押し当ててくる。柔らかい感触がよりダイレクトに伝わってくるため、僕はさらに反応してしまう。

「ちょっと……沙知……」

「どうしたの? 何か問題ある?」

 正直問題しかない気がするが、僕が何かを言っても彼女のことだから聞き入れてはくれなそうだから何も言わなかった。むしろ問題を訴えると、沙知は僕の反応を楽しもうとしてくるから言わない方が得策だろう。

「いや、ない……それで本当におんぶしていいのか?」

「うん、いいよ」

 彼女は即答したが、正直に言うと離してもらいたかった。好きな人を背中に感じるのだから反応はするし、理性で抑えつけている欲望を抑えるので精一杯だ。

「それじゃあ頼那くんよろしくね」

「あ……ああ……」

 僕が返事をすると彼女は僕の首に腕を回してくる。更に沙知が僕の背中からずり落ちないように彼女の足を腕で固定すると、僕の腕に沙知の柔らかい太ももが触れる。

 その感触に僕は理性が飛びそうにってしまうが、彼女に悟られないように平静を装う。

 それから僕は沙知をおぶったまま歩きだすと、彼女の方から話しかけてきた。

「ね~もっと速く歩いて~」

「さすがに無理……」

 僕はあまり筋肉のあるほうじゃないため、彼女をおぶった状態では速く歩くことができなかった。

 それに欲望を理性で押さえつけているので、精神的にも体力的にもかなりキツイ。

「もしかして、あたしの感触をできるだけ長く楽しめるようにわざとゆっくり歩いてる?」

 沙知は僕の顔を覗き込みながらそう言ってきた。

「もしかしてあたしの胸とか太ももに興奮しちゃってたりしたの? 頼那くんのエッチ~」

 明らかに面白がっている様子の沙知に僕は何も言い返すことができなかった。確かにその二つに興奮してしまっているのも事実だったからだ。

 それはそれとして人一人を抱えながら歩くのがこんなに辛いとは思わなかった。こんなことなら体力をつけるために毎日筋トレしとくべきだった。

「さては図星だった? 全く……頼那くんのむっつりスケベ~」

「ああもううるさいな……降ろして……置いていくぞ……」

 沙知のからかい口調に対して僕はイライラした口調で言う。すると沙知は慌てた感じで謝ってきた。

「わわっ!! 嘘だって! 降ろしたりしないでよ」

 沙知はギュッと強く僕に抱きついて僕から降ろされないようにしがみついてきた。そのせいで僕の理性が飛びそうになるのを必死な思いで抑えつける。

 それからしばらく歩いてやっとの思いで科学室に到着した。

「ハァ……ハァ……ほら沙知着いたからもう立てるだろ……」

 僕は息を切らしながら沙知に離れるように促す。もう腕の感覚がなくなりそうになるほど疲れたので早く休みたい。

「ありがとう、凄く助かったよ」

 沙知は腕から離れると、僕の方を向いてニコーッと笑ってそう言った。その屈託のない笑顔が可愛くて一瞬見とれてしまったがすぐに我に返った僕は慌てて沙知から視線を外した。

「ほらっ……早く科学室に入ってくれ」

 僕はそう言って沙知が科学室に入るように促すと彼女はまたクスッと笑った。

「照れてる?」

「……うるさい……」

 僕がそう言うと沙知はさらに可笑しそうに笑う。そして満足したのかやっと科学室に入ってくれたのだった。
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