佐城沙知はまだ恋を知らない

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佐城沙知はまだ恋を知らない

八話 『特別だからね!!』

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クッキーの効果が切れてようやく普通の目に戻ると、僕はどっとした疲れが出て机に項垂れると、沙知は僕を見ながらニヤニヤしていた。

「ふふっ、楽しかったね」

沙知は満足げな笑みを浮かべながらそう言うと僕に顔を向けた。

「全然楽しくないよ……これは二度とするなよ?」

「それはどうかな?」

沙知は意味深な言葉を言うと、鞄からペットボトルを取り出して、僕に一本渡してきた。

「あげるね」

「あ、ありがとう……けど、何も入ってないよな……」

「さあ?どうでしょう?」

沙知はニタァと笑みを浮かべてそう言った。

「お、おい!そんなこと言われたら怖くて飲めないって」

「冗談だってば、ちゃんと普通の水だから安心して」

そう言いながら沙知はペットボトルの蓋を開けて中身を飲む。僕は彼女を見ながらゆっくりとペットボトルを開けるとそのまま口へ水を流し込んだ。

「ふぅ……」

僕が飲む様子を彼女はジッーと見続けていたため気まずくなりすぐに蓋をして、机の上にペットボトルを置く。

「なんだ?ずっと僕のこと見て」

僕がそう言うと沙知は可笑しそうに笑う。

「いや~、頼那くんがあたしの下着や裸を見てあわてふためく姿は面白かったなって」

「元はというと沙知のせいだろ?」

「そうだけど、たかが布切れや裸を見ただけでそんな反応するんだって少し思っちゃった」

「布切れって言うなよ……」

相変わらず羞恥心が欠落している沙知にツッコミを入れると、ふと僕は思い立ったことを口にした。

「なあ沙知……少し聞いてもいいか?」

「なに?」

沙知はキョトンとした顔で尋ねてくるので、僕は言葉を口にする。

「そもそも何であんなクッキーを作ったんだ?」

「あ~……あれ?あれは別にたいした理由はないよ」

「そうなのか?」

あまりにも簡単な答えに僕はポカンとしていると、彼女が頷く。

「うん、ただ単純にお姉ちゃんの役に立てばなって思って作っただけだから」

「沙々さんの?」

沙々さんとあの透視ができるクッキーの繋がりが全然分からない僕はそう聞き返した。

「そうそう、お姉ちゃんって変わってて機械弄りとか趣味なんだよね」

「そういえば、沙知が乗っているセグウェイは沙々さんが作ったって言ってたな」

「そうそう、あたしが設計してお姉ちゃんが組み立てる。二人とも得意分野が違うし、お姉ちゃんは機械に詳しいからなかなか理に適ってるよね」

沙知は嬉しそうに頷きながら言ってくるが僕は思わず頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

「それのどこが理由になるんだ?」

「機械ってさ壊れたら直すとき一回中を解体しないと、どこが原因か分からないこと多いからね」

「ああ……なるほどな」

沙知が何のためにあのクッキーを作ったのか理解した。

つまり沙知は壊れた機械の原因を探るときに、わざわざ解体せずに原因がすぐ分かるようにしようと考えて作ったってことだ。

「つまり沙知は透視できるクッキーを作って、沙々さんが機械を直すときに役に立つようにしたかったってわけか?」

僕はそう解釈したことを言ってみると、沙知は頷いた。

「そう!!その通りだよ!!」

沙知が嬉しそうに声を高くして僕に顔を近づけてきたので思わず僕は体を反らせる。

「近いって……」

僕はそう呟くが、彼女は御構い無しに顔を近づけてくる。

「まあそんな感じでお姉ちゃんの役に立ちたかったから作ったんだよ!!」

「そ……そうか……」

沙知は少し鼻息を荒くしながらもキラキラとした笑顔をこちらに向けてくる。

「沙知って……沙々さんのこと大好きなんだな」

「うん!!あたしにとってお姉ちゃんだけが特別だからね!!」

沙知は満面の笑みで即答すると、僕は彼女のその言葉にどこか羨ましさを感じた。

まだ僕は沙知にとっての特別にはなれていない。恋人同士とは言っても沙知は僕のことをただの彼氏役としか思っていていない。それが歯がゆい、沙知にも僕という存在をもっと意識させてやりたいと思ってしまう自分がいた。

「頼那くん?」

ボーッと考え込んでいる僕に沙知が顔を覗き込んでくると、僕は我に返る。

「あ……何でもない」

まあ、今の僕はそんな状況でも彼女と一緒にいられるならこの関係のままで良いかもと妥協する自分もいる。

彼女の特別にはなれなくても、一応は僕は彼女の彼氏だ。こうして今は二人でいれるならそれでいい。

もしかしたらこのまま一緒にいれば沙知が僕のことをちゃんと見てくれるかもしれない。

色々と行動に問題がある彼女だけど、彼女が見せる純粋でキラキラとした笑顔がよく見れるのなら、それだけでもいい。

休日遊んだり、学校帰りや放課後にこんな風に彼女と楽しく話せれば、それだけで今はとても楽しいと感じる。

そんなことを考えながら僕は時計を見ると、あと十分ほどで下校時間になることに気づく。

「そろそろ帰るか?」

僕がそう言うと彼女は頷く。

「そうだね、もうそんな時間だね」

沙知は椅子から立ち上がると用意した道具の後片付けをし、自分の鞄を肩にかけて帰る準備をする。それを見て僕も帰らなければと思い、机においていた鞄を持ち上げて科学室を出た。

「そうだ頼那くん」

玄関まで歩いて行くと沙知が僕の制服の袖を掴みながら言ってきた。

「なんだ?」

僕は振り向くと沙知はニコッと笑ってきた。

「それじゃあ、またあたしをおんぶして下駄箱まで送ってくれる?」

沙知がそう聞いてくると、僕は思わず顔を引きつらせる。

「帰りもか……」

「うんっ」

満面の笑みを浮かべている沙知の顔を見ると、断るという気持ちが薄れていく。

「はあ……分かったよ」

僕が了承すると沙知は満足そうに笑みを浮かべる。こういうところは無邪気で可愛いんだけど……と思いながら僕は沙知をおんぶして下駄箱まで歩く羽目になった。

翌日、今日は金曜日だから休みのどちらかに沙知とデートする約束をしようと考えていた。

だが、その計画はあっという間に一気に消え去るのだった。

なぜならその日沙知は学校を休んで約束することも出来なかった。

結局、沙知との週末はデートをすることもせず、月曜日を向かえた。

いつものように朝は教室で佐々木と他愛ない話をしていると、沙知がゼイゼイと息を切らしながらいつものように登校してきた。

沙知は自分の席に着くとすぐに鞄を机の横にかけて机に突っ伏せる。

そんな様子を見ていた僕は沙知に声を掛けようと彼女の席まで歩いていく。

「おはよう沙知、体調はどう?」

僕がそう聞くと沙知は突っ伏せながら顔だけ僕に向けてきた。

そして不思議そうな顔を浮かべる。

「君……誰?」

「えっ?」

突然、沙知から発せられた言葉に僕は一瞬固まってしまう。すると彼女を見ていた佐々木も心配そうに僕の方に来た。

「おい、また冗談言ってるのか?彼氏の顔と名前を忘れるってどんなボケだよ」

僕が何も言えず固まっていると、それを見た佐々木は怪訝な表情をする。そして、僕はチラッと沙知の顔を見て彼女の目を見ると、その目は明らかに嘘をついているようではなかった。

「ごめん、あたし君のこと知らない」

沙知は素っ気なくそう言うと、僕から目線を外して再び顔を伏せる。

その反応を見た僕はどんな反応を取れば良いのか分からず、ただただその場で立ちすくむしか出来なかった。
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