青き瞳のクリエイト

タトバリンクス

文字の大きさ
13 / 17
天才ピアニスト編

文学少女と天才ピアニスト その十一

しおりを挟む
 11

「さて、そろそろ夕食が出来ているだろうから、リビングへ行こうか」

「あれ? もうそんな時間?」

「ああ、だから早く行こうか」

 ぼくがそう言うと、沙音はベッドから立ち上がって部屋を出る。ぼくも沙音に続いて部屋を出ると、リビングへと向かう。そしてリビングに入るとテーブルの上には既に料理が並べられていた。

「あら? ちょうど良かった、今呼びに行こうと思っていたところなのよ」

 お母さんがエプロンを脱ぎながらこちらに寄ってくると、席に座るように促してくる。ぼくたちはそれに従い並んで席についた。

「それにしても今日はやけに豪華だね」

 テーブルの上に並べられている料理を見てぼくは思わず呟く。普段はそこまで豪勢な食事ではない。一般的な家庭料理だ。でも今日は明らかにいつもとは違う雰囲気だった。

「今日は沙音ちゃんのために腕によりをかけて作ったからね」

「ありがとうございます、本当に何から何までお世話になってしまって……」

「気にしないで、沙葉のお友だちならいつでも歓迎だから」

 お母さんは沙音に優しい笑みを浮かべながら答える。沙音はその答えを聞いて、ちょっと照れくさそうにしていた。

「さあ、冷めないうちにいただきましょう」

 お母さんのその言葉でぼくたちは手を合わせてから食事を始める。沙音は最初は緊張していたようだが、徐々に慣れてきたのか笑顔を見せるようになった。

 そのくらいのタイミングで、お父さんが仕事から帰ってきた。

「ただいま」

「あ、おかえりなさいお父さん、今日、沙葉のお友だちが泊まりに来てるのよ……」

「ほう、それは珍しいね」

 お父さんは驚いた表情を浮かべながら、沙音のほうを見る。すると、お父さんは沙音の顔を見て、一瞬固まった。

「君は……」

「初めまして、月城沙音と申します、この度は急な訪問、失礼致します」

 沙音が礼儀正しく頭を下げると、お父さんは我に返って慌てて返事をする。

「ああ……これはご丁寧に……私は沙音の父親です、いつも娘がお世話になっております」

「いえ、こちらこそ……」

 沙音はお父さんに対しても丁寧に挨拶すると頭を下げる。そんな様子をお母さんは嬉しそうに見ていた。

「ふふ……やっぱり沙音は礼儀正しいわね」

「まあ、彼女、名家のお嬢さまだからね」

「そうなの? 知らなかったわ……」

 お母さんは意外そうな表情を浮かべて沙音を見る。まあ、確かに見た目は金髪ギャルだから、あまりお嬢さまという印象は受けないかもしれない。

 それにしてもお父さんの今の反応……何か妙だった。
 ぼくと沙音の顔はそっくりだから、沙音の顔を見て驚いたのかと思ったが……。

 でも、お父さんが沙音の顔を見た時、何か別のものを見ているような……そんな気がした。

「サヨサヨ?」

 そんなことを考えていると、沙音が心配そうにぼくを見ていた。どうやら少し考え込んでしまっていたらしい。ぼくは慌てて笑顔を作ると、彼女に答えることにした。

「いや、なんでもないよ」

「そう? ならいいけど……」

 沙音はそう言うと食事を再開する。ぼくもそれに倣うように食事を再開した。

 お父さんは一旦部屋で着替えてからリビングに戻ってくると、お母さんの隣で座り一緒に食事を始める。

 そして四人で夕食を楽しみながら、他愛ない会話で盛り上がる。

「しかし、沙葉が女の子の友だちを連れてくるとは……感慨深いな……」

 お父さんはしみじみと呟きながら、沙音のほうを見る。

「お父さん……恥ずかしいからやめてよ……」

「でも事実じゃないか、今まで友だちを連れてきたことなんてなかっただろ?」

「そうだけどさ……」

 ぼくはバツが悪そうに視線を外す。確かに今まで友だちを家に連れてくることがなかったので、お父さんの言葉には反論できない。

「中学入るまでは竜也くんくらいしか友だちいなかったじゃない……」

「うう……お母さんまで……」

 ぼくは恥ずかしさのあまり、顔が熱くなるのを感じる。
 確かにぼくは中学時代は内気で人見知りな性格だったので、友だちと呼べる存在はいなかった。

 それは事実だけど、沙音の前でそんな話をされるのは恥ずかしい。てか、むず痒くて死にそう……。

「竜也くん?」

 沙音は不思議そうに首を傾げながらぼくのほうを見る。

「天道さんの名前だよ……」

 ぼくがそう言うと、沙音は少し考え込んだ後、ポンっと手を叩いた。

「ああ!! 天道の!! そういえばそんな名前だった!!」

 沙音は思い出したように言うと、納得した表情を浮かべる。

「沙音ちゃんも竜也くんのこと知っているの?」

「はい、彼とは同じクラスですので」

「そうなの? じゃあ沙音ちゃんも沙葉の一個上なのね」

「はい、そうです」

 沙音は嬉しそうに答えると、今度はぼくのほうを見る。

「ねえねえサヨサヨ、やっぱり天道を家に連れ込んでるじゃん!!」

「連れ込んでるって……人聞きが悪いことを言わないでくれ」

「事実じゃん!! さっきはぐらかしたのってそういうことだったんでしょ!?」

「別にそういうつもりで言ったわけじゃないよ」

 沙音はムッとした表情を浮かべながらぼくのことを睨んでいる。ぼくはそんな彼女の視線を苦笑いで受け流しながら、お母さんのほうを見る。

 お母さんはどこか微笑ましそうな目でぼくたちのことを見ていた。

「どうしたの? お母さん」

「こうして二人並んでると、姉妹みたいよね……そう思わない? お父さん」

「……そうだね」

 お父さんは何か思案するような表情でそう答えると、少し間を置いてから再び口を開いた。

「そういえば、月城さんは髪は染めているのかい?」

 お父さんが唐突にそんなことを尋ねる。

「はい、地毛は黒なんですけど、高校に入ってからはずっと染めています」

「えっ!? 沙音って元々金髪じゃなかったの!?」

「そうだけど? あれ? 話してなかったっけ?」

「初耳だよ……」

 沙音の返事にぼくは呆然としてしまう。彼女の髪はとても綺麗に整っていて、とても染めているようには見えない。

「いまって、こんなに綺麗に染めれるのね……」

「最近は綺麗で簡単に染められるカラー剤があるんですよ」

「そうなの……知らなかったわ……」

 お母さんは感心したように呟くと、沙音の髪をじっと見つめている。沙音はちょっと照れくさそうにしながら、食事を続けた。

 そんな様子をお父さんは見つめながら、何か考え込んでいる様子だった。

「これもあの人の巡り合わせか……」

 お父さんが小さな声で呟いた言葉は、ぼくの耳には届かなかった。

「ごちそうさま」

 ぼくはそう言って手を合わせると、席を立つ。すると沙音もほぼ同時に食べ終わったようで、同じように手を合わせた。

「ごちそうさまでした、とても美味しかったです」

「お粗末様でした、二人とも綺麗に食べてくれて嬉しいわ」

 お母さんは嬉しそうに微笑むと、食器を片付け始める。ぼくも手伝おうと食器を下げる。

「あっ、サヨサヨ、あーしも手伝うよ」

「いいよ沙音ちゃん、お客様なんだからゆっくりしてて?」

「いえ……お世話になっている身なので……」

 沙音は申し訳なさそうするので、ぼくは彼女の手を引いて椅子に座らせる。

「いいから、今日は甘えておいてくれ」

「むぅ……サヨサヨがそう言うなら……」

 沙音は不満そうな表情を浮かべるも、素直に従ってくれた。それからぼくとお母さんは食器を片付け終わると、あとはお父さんが引き受けて、ぼくたちは二階の自分の部屋へと戻った。

「ふぅ……美味しかった……」

 沙音は部屋に入るとすぐにベッドに上に座る。ぼくも彼女の隣に座ると、沙音はぼくに体重を預けてくる。

「沙音、大丈夫? 疲れたのかい?」

「ちょっとね……でも平気、サヨサヨと一緒にいると元気出るから」

 そう言って沙音は笑う。その笑顔を見るとぼくまで嬉しくなる。

「サヨサヨのご両親は良い人たちだね、ご飯も美味しかったし」

「そう言ってもらえると嬉しいよ、お父さんもお母さんも、君に会えて喜んでいたから」

「そう? なら良かった」

 沙音は安心したような表情を浮かべる。彼女も緊張していたのかもしれない。ぼくはそんな彼女の頭を撫でた。

「なに? サヨサヨ?」

「いや、なんとなく撫でたくなってね……」

 ぼくがそう言うと、沙音は悪戯な笑みを浮かべて、ぼくの方を見てきた。

「サヨサヨって結構あーしのこと好きだよねぇ」

「そうだね、君といると楽しいし落ち着くよ」

「ストレートに言われると照れるなぁ……」

 沙音はそう言いながらもその声はどこか嬉しそうだ。現にぼくの手から逃げることもなく、撫でられたままになっている。

「あーしもサヨサヨのこと好きだよ、こうやって一緒にいるのも好きだし」

 ふと、沙音はぎゅっとぼくを抱きしめてくる。彼女の柔らかい感触と甘い匂いがぼくの思考を鈍らせる。

「沙音?」

「なんか、落ち着く……」

 沙音はそう呟きながら、更に強く抱きしめてくる。ぼくはそんな彼女の背中に腕を回して抱きしめ返すと、優しく頭を撫でた。

 沙音は特に嫌がる様子もなく、気持ちよさそうに目を瞑っている。その姿はまるで猫みたいで可愛かった。

「サヨサヨ、その……いや、なんでもない……」

 沙音は一瞬何かを言い掛けたが、すぐに口を閉じてしまった。何か言いかけたような気はしたが気のせいだろうか? ぼくは気になったけれど追及はしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...