勇者パーティに裏切られた劣等騎士、精霊の姫に拾われ《最強》騎士に覚醒する

とんこつ毬藻

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閑章二.灼熱の赤き閃光

七十二.傲慢勇者の野望

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 レイ達が水の国アクアブルームにて奴隷を救出すべく、作戦を練っていたちょうどその頃、火の国イグニスフレイアのとある場所にて、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 森を抜け、大地をはしる朱い体躯。牙をギラつかせた魔物の群れは、血の臭いを求め、飢えを満たすために駆け抜ける。

 銀等級シルバーランクの魔物、血塗られた狼ブラッティウルフ――はぐれ狼ストレイウルフの上位種、人間の血肉を喰らい、体毛を朱く染め上げた狼。常に群れを成し、その素早い動きと鋭い牙で敵を翻弄する狼は、銀等級とはいえ、かなり危険な魔物モンスターだ。

「ルン、やれ!」

「風属性スキル――精霊の疾矢エレメンタルスコール!」

 銀色のビキニアーマーを身につけたエルフが、上空へ向け無数の矢を放つ。グラシャスのパーティの一員である弓使いアーチャー――ルン。彼女が放った矢による攻撃は、風属性の上級スキル。風の力を帯びた翠色の矢が、まるで驟雨スコールのように、遠くよりこちらへ向かって来る狼の体躯を穿っていく。

「よし、行くぜ。火精霊イフリートよ、力を貸せ。消し炭になりな! 火焔流撃フレアストリーム!」

 矢を躱した狼へ向け、グラシャスが続けて炎を放つ。大地を染め上げる閃光が、狼諸共空間を呑み込んでいく。

「グラシャス、流石ね~。わたくしの出番がなかったわぁ~♡」

「ふ、このくらい余裕だぜ」

 聖職者のローブに身を包んだマーサが、グラシャスへ駆け寄り、腕を絡ませる。相手は銀等級。グラシャスは一撃で狼を殲滅したと確信していた。やがて、火の海が消えた時、眼前に迫る狼の牙に気づいた。

「何だと!?」

 マーサを突き飛ばし、狼の牙を剣で受け止める。炎を受けても尚、生き残った五体の狼が襲い掛かって来たのだ。

「危険……殲滅!」

 ルンが襲い掛かる狼へ矢を放ち、衝撃で吹き飛ばすも、傷を負っても尚、襲い掛かる血塗られた狼の牙。マーサは防御結界により攻撃から身を守るも、狼の力に気圧され、倒されてしまう。

「俺を……嘗めるなよ! ――火焔連斬フレアブレイド!」

 自身へ迫る狼を蹴り飛ばし、マーサを押し倒した狼を真っ二つに斬り捨てる。炎に焼かれた狼は、火だるまとなり、消滅する。しかし、その隙を狙った別の狼が、勇者の右脚へと喰らいつく! 脚が焼けるような感覚。格下相手に思わぬ傷を負ったグラシャスは鋭い眼光を狼へと向け……キレる・・・

「俺に傷をつけたな獣!?」

 既に狼の体躯はグラシャスの炎を纏う剣により、串刺しされていた。仲間が殺られた事で、残り三体の狼がグラシャスへ鋭い牙を向けて飛び掛かるも、串刺しにしていた狼の体躯をぶつけ、弾き飛ばす。

「精霊武技――獄炎の焔柱タワーオブインフェルノ!」

 四体の狼を包み込む、巨大な火柱。燃え盛る炎の中、血塗られた狼は激しく咆哮し、やがて消し炭となって消滅した。

「グラシャス、すぐに回復させるわ……きゃっ!」

 心配して駆け寄るマーサを跳ね飛ばすグラシャス。苛つきが止まらない彼が、ルンとマーサを怒鳴りつける。

「お前がノロマだからこうなる! どうして俺が傷を受けないといけない! マーサ。その胸は飾りか? 色香でも何でもいいから、お前等は魔物を惹きつけろ!」

「ごめんなさい」
「……」

 倒れた状態で謝るマーサと、無表情で一礼するルン。

 レイが離脱した後、パーティの盾役タンクが居なくなった事により、グラシャス達の戦闘スタイルも大きく変化していたのだ。ルンの遠距離攻撃とグラシャスの広範囲攻撃で仕留めきれない場合、本来であればレイが魔物を惹きつけ、皆を守っていたのである。

「くそっ……どうしてこうなった……」

 一瞬、レイの姿が頭をよぎり、グラシャスは煮え滾る怒りを抱いたまま、戦場を後にするのである。



 ◆◇◆



「いやぁ、グラシャス君。〝灼熱の赤き閃光〟の名声は留まることを知らないね。銀等級シルバーランク魔物、血塗られた狼ブラッティウルフの討伐、大儀であった」

 グラシャスを褒め称えるは、火の国イグニスフレイア有力貴族の一人、一領地を治めるマディア侯爵。領地を脅かしていた魔物をグラシャス率いるパーティが討伐した事で、こうして会談を設けていたのである。

「礼には及ばない。それよりあの話は進んでいるのか?」

 テーブルにおかれた紅茶を手に取り、二人の話をマーサとルンは黙って聞いている。自身の髭に手を触れたマディア侯爵は、満足そうに笑みを浮かべる。

「勿論だとも。今の士爵から準男爵、男爵の爵位を与えて貰えるよう、儂から王へ推薦しておくよ。そのときは……」

「嗚呼。水の国アクアブルームの海産物を入手するための貿易ルートだったな。俺の知っている商会の男がうまくやっている。安心するといい」

 周囲の空気を吸い込むが如く高笑いを披露する侯爵。グラシャスは、こういう根回しをする事が大嫌いだったのだが、火の国イグニスフレイアは貴族社会。覇権を握るにしても一筋縄ではいかなかったのだ。

(俺は〝灼熱の赤き閃光〟、グラシャス・フレイア・ロード。この程度で終わる人間じゃあないぜ。そのためには、そろそろ次の段階へと進まないといけないな……)

 己の野望を胸に秘め、グラシャスは闘志を燃やすのである――
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