Black Daiamond

Ray

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2, ようこそ、マレーフ街へ!

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    私がそう言った途端、エメラルドサンとルビーサンは喧嘩をやめた。
    さっきまでの喧嘩は振りだったのだろうかと、そう疑いたくなるほどにサッと止めた。エメラルドサンの髪も元の綺麗なストレートに戻り、ルビーサンも煽るのを止めた。
    それにしても、

(派手にケンカしたな…)

     机も椅子もぐちゃぐちゃ。もはや教室は残骸を取り止めてすらいない。廃墟である。

「そうと決まれば早く行くぞ。…こんな人間の餓鬼が多くいる場所などに長居はしたくない。胸糞悪ぃ。それに学校に行くための必要なものを色々買い出さないといけないしな」

    エメラルドサンが言ったため、さっさと必要なものをまとめることにした。
    荷物は図書袋に詰め込んでいく。ランドセルにしようとも考えたが無駄に重いし邪魔だし餓鬼臭いからやめた。

「こんなものか…」

     必要なものはまとめた。
    ルビーサンとエメラルドサンは既にカゼーに乗っている。が、互いに叫んでいる。よくよく聞いてみれば、何やら言い争っているようだ。

「何で貴方は人にもう少し優しく声をかけたり話したり出来ないの!前だってそう。あのときは…「…そんなのは俺の勝手だ。いちいち口出しするなハバァ」

    ルビーが話すのを遮るようにエメラルドはそう静かに返す。すると、またルビーが叫ぶ。

「はぁーあ!何がババァよ!貴方、私と対して年変わらないじゃない!」

    また、エメラルドが言い返そうとする。私は思わず苦笑をしながら仲裁をするように2人の間に座る。きっとこれが一番早い解決方法だ。

「まぁまぁそこまでにしておけ。そんなに喧嘩をしていたら、いつまでたっても出発できない」

     努めて静かに話しかける。
     2人とも確かにそうと思ったのか喧嘩をやめた。と、しても何回見ても飽きないなぁ。この状況でなければもう少しばかり見ていたいところだ。
    カゼーは私が乗ったのを確認して、飛ぼうとしたが、ルビーサンの

「ちょっと待って!」

    そう、声をかけたことによって飛ぶのを止めた。

「何だよ。トイレでも行きたくなったのか?」
「違うわよ!」

    ルビーサンは少し怒り気味に言った。
    また、喧嘩か?本当よく喧嘩するな。 喧嘩をするほど仲が良いと言うけどこの事だろうか?
    しかし、喧嘩ではなくルビーサンは何処からか桃色の杖を取りだしクルクルとまわし、何か呟いた。すると、教室はたちまちもとに戻った。壊れた机も椅子もガラスも元通りだ。まるで、テレビを逆再生にしたようだ。

「まぁ、こんなところね」

    そう満足そうに呟いてカゼーに再度乗る。

「じゃあ、改めて行きましょう」

    私に向かって言った。カゼーはルビーが乗ったのを確認すると、

「クエェェェーーーーーーーーーーーッ!!」

    鋭く長く鳴き、教室の窓から翼を大きく広げ空を飛んだ。
    少し、下に落ちるような感覚があったがバッと上に向上していった。だんだん上に飛んで行く。学校もだんだん小さくなっていく。…あっ、そういえば、あのクラスの人たちはどうなるんだろうか?そう思った私のことを見て、ルビーサンがにっこりと笑った。

「あの子たちはすぐ意識が戻るはずよ。一時的なショック状態だと思うから」
「そうか」

    返事をしながら町の景色を見た。風はこんなに強いのにカゼーは暖かくて、森のいい香りがした。
    暫くすると厚い雲が途切れ、晴れているところに出た。なぜか、ルビーとエメラルドは眩しそうに目を伏せている。そんなに眩しくないのに、だ…。

「どうして、ルビーサンとエメラルドサンは日光を嫌うんだ?」

    言うはずでは無かったのに思わず声に出してしまった。そう思う証拠はあまり無かった。しかし、直感的にそう思ったのだ。要するに本能と言うものなのだろうか。
    ルビーサンは少し驚いたような顔をしたがすぐ、元の表情に戻った。

「そう…」

    絶えず変わる瞳が揺れ、ゆっくりと動く。それは隣に座っているエメラルドサンに向かった。ルビーサンは酷く悲しそうで、困っているようでそれでいて憂いを帯びた顔で、

「やっぱり、怜ちゃんは勘がいいのね」   

    ぼそりと言った。

「…?」

    何を言っているんだ。そもそもやっぱりも何も私と君達は初対面だ。まるで私の事を知っているかのように言うが、そうではないだろう。

 「怜ちゃん、『吸血鬼』と『Sorcellerie』って
知ってる?」
「……」

    何でそんなことを聞いてきたがよく分からなかった。だが、曖昧に頷いた。目を閉じて、脳に仕舞われている情報ちしきを引っ張り出す。

「吸血鬼について書かれている本は読んだことはある…が、出鱈目と、言うより嘘っぽいところが目立つな。日光に当たったら灰になって死ぬとか。そんなの日光に当たるたびにいちいち死なないといけないしな…。Sor…?はよく分からない。恐らく発音的にフランス語だと思うんだが、私は生憎とフランス語に詳しくないんでね。聞いたことも意味もよく分からないな…」

    意外と本を読むのは好きで、その辺のことは分かるけれどもはっきり言って分からない事ばかりだ。そも、魔女云々の方でそんなものが存在している事を知ったばかりなのもある。

 「そう…。確かにそんなんで死んだなら、吸血鬼はすぐ死んじゃうね」

    笑ってルビーサンは言った。その瞳は明らかにエメラルドサンに向かっていて、その視線に気が付いてかエメラルドサンはルビーサンに言うなとでも言うように睨んでいる。
    ルビーサンは暫くクスクスと笑っていたが、その視線に気がついたのか真面目な顔になった。そして、深呼吸を1つ。

 「人間の世界では残念ながら本当のことについて書かれていないわ。まぁ、書かれていたら、いたらで問題なんだけどね」

    そう前置きをして、私をじっと見た。

「吸血鬼は、別名夜の住民。ニンニクや聖なる印、要するに十字架には弱いとされているけれどもこれは所謂迷信ね。基本的には殆ど効かないわ。唯一効くのといえば確かに日光。効くといっても長時間当たると体に少し異常が出るくらい。少し酷い火傷みたいなものらしいわ。
    闇の神から力を授かった吸血鬼一族は眷族となり、太陽にをずっと昇らせないようにすることが出来るらしいけど、実際はよく分からないわ。不思議と出来るようになるらしいけど。後は…コウモリ、カラス、黒犬、黒い狼、霧、イナゴに変身したり操ったりできる便利な事が出来るわよ。
    …まぁ、そんな吸血鬼にも一応弱点もあってね。さすがに場所にもよるけど心臓を刺されたら死んじゃうわ。吸血鬼の1番の特徴は、赤い瞳」
「……」
「 Sorcellerieは、怜ちゃんの言った通りフランス語よ。意味は“魔女もどき”。吸血鬼と同じように夜の住民よ。かつては普通の人間だったけれども、魔女または魔法使いの強い魔力に魅入られ、人間であることを辞めた存在。けれども、魔女には及ばない魔女もどきよ。1度に魔女以上の強い魔法を出すことは出来るけれどもそれと引き換えに体はとても脆い。常に色を変える瞳を持っていて、夜空のような色の髪を持っている。耳はエルフのような尖った耳…」

    そこでルビーサンは言葉を切った。そして、ゆっくりと空を見上げ、瞳を閉じた。

「賢い怜ちゃんならこの先言おうとしている事に気付いている、わよね」                

    肯定。

「つまり…ルビーさんはその魔女もどきとやらででエメラルドさんは吸血鬼だと言うこと…か」

    二人とも何も言わなかった。でも、瞳だけは真っ直ぐと此方を見ていて、…私はそれを肯定と取った。

「本当は話すつもりではなかったんだが…」
「怜ちゃんが思った以上に勘が良かったか
ら…。気味悪がっている?」

    少しの間。
    私はニッと笑う。

「気味悪がる?魔女もどきとやらも吸血鬼もカッコイイじゃないか。そもそも、そっちの世界では普通にいるんだろ?此方にはいない空想の生物ってやつが。それをどうのこうの言ってどうするんだ?ちょっと人間と違うなんて別にいいじゃないか。そも、そんなつまらない価値観で無碍にされる意味の方が私には理解しがたい」 

     更に言葉を続ける。

「ルーとエドって呼んでいいか?何か固苦しいし。それに、もっと仲良くなりたいと思う。二人がよければいいが」
「…怜ちゃん、変わっているわね」

    ルビーサンはまたくすくすと笑った。うん、その表情の方が彼女に合っていると思う。

(…そうか?)

    僅かに眉をついとあげた。

「いいわよ。確かに何か他人行儀だったわよね。短い間かもしれないけど、よろくしね」
「好きに呼べ」

    にこやかに返したルビーサンと引き換え、エメラルドサンはふいと顔を背けたが何だか嬉しそうだ。あ、ルビーサンに小突かれた。
    そう話して話していた途端、カゼーが急に急降下した。例えでいえばジェットコースターの落ちる感覚と言えば分かるだろうか。
    ハッキリ言って私はジェットコースターは、嫌いだ。いや、嫌いというか重力がヤバい。何か、体がその座席と合っていないのか凄く浮く感覚があるからだ。まぁ、何が言いたいかと言えば重力がヤバい。だが、だからと言って安全バーのないこのジェットコースターみたいな感覚はどうだろうか。ハッキリ言ってかなりヤバい。今にも振り落とされそうだ。

(これ、死ぬんじゃないか?)

    柄にもなく辞世の句を考えている頭とは別にカゼーは地面がだんだん近づいていき、ぶつかる寸前で音もたてずに大きな道へ出た。どうやら、無事死ぬことなく到着できたようだ。
    そこは、行ったことのない大きな街。レンガ風の店や家が建ち並ぶレトロな場所で、飛行距離的に日本である事は変わらないとは思うが、此所は一体何処だろうか。日本ではないような場所に見えるが。

「さっさと、行くぞ」

    エドはカゼーから降りながら言う。いや、待てよ。私は説明もせずに進むエドの裾を咄嗟に掴んだ。

「ちょっと待ってくれ。ここは一体何処なんだ?せめて説明をしてくれないだろうか」 

    エドとルーは何処からか取り出したのか日傘をさして、少し歩きながら顔を見合わせる。その表情は話そうかどうか迷っている顔だ。

「何処って言っても…ね……なんというか……」

    歯切れが悪そうにどうにか話そうとしているルビーサンことルーに、

「…はぐれモノが集まるところだ」

    エメラルドサンことエドがバッサリと言う。

「…説明になっていないが」
 「時期に分かる。下手に説明をするより見た方が早いだろう」

    何処ともなく呟くように言うエドはもう先に歩いていっている。その背中をルーも追いかけた。よく意味は分からなかったがエドとルーがどんどん先に歩いて行ったため、何も言わない方がいいと判断をし、二人に付いて行く。
    暫く歩いて、目の前に看板も何もない他の店と殆ど変わらない店に入って行った。カランコロン、と古いベルの音が聞こえ、入った店内は見た目と同じくレトロな感じだった。

「よう!エメラルドの旦那にルビーさん久しぶりだな。100年ぶりか?一杯飲むか?それとも、何か賭けてゲームでもするか?」

    カウンター側に男勝りな女店主がいた。話し方的に2人の知り合いなのだろう。体型がとてもよく、凄く喧嘩も強そうだ。
    よく見ると、奥の方にチェスやダーツ…賭場カジノに置いてありそうな物が多くある。だが、見た目的に賭場カジノではない。恐らく酒瓶が多く置かれている事を踏まえるならば、此処はバーだろう。それにしては賭け事を重視した物が多いが。

「いや、いい。今日は此方に用がある」

    エドが奥の方を指で指しながら言う。話しぶり的に其所に私達の目的の何かがあるようだ。

「それに、お前の店に居ると毎回誰かが破門され可哀想だからな。…それをつまみに酒を飲んでいる奴らと話してると無駄に疲れる」

    無口そうだったのに意外と喋り、にやりと笑いながら言った。

「よく言うようになったな」

    女店主がガハハハハハハッ、と豪快に笑いながらそう言った。

「さっさと、行くぞ」

    ぶっきらぼうに奥に歩き始めたエドと女店主に頭を下げてついていくルーを追うように早足で客の合間を縫うようにして向かう。ざわざわと騒がれている客の中で近くにいたロコモコらしきものを食べていた男がぼそりと呟く。

「…たっく、値段はくそ高ぇ癖に飯は湿気た味ががするぜ」
(…何処にでもいるんだな、こういう客は)

    そんな男のいる通り過ぎた瞬間、その男は窓を破ってぶっ飛んでいた。そう、言葉通りぶっ飛んでいった。男の体が弧をかくように飛んでいった。
    なるほど。これだけ荒くれたような雰囲気だったのに纏められていたのはこの男に手を出した者のお陰らしい。

「おい、今オレの飯に文句言ったな」

    男はブルブル震えながら首を横に振るう。首は千切れそうなほど振られていた。

「嘘言うんじゃないよ!オレの耳の良さ舐めんな!」

    恐らくライオンでさえ尻尾を巻いて逃げ出しそうなぐらいの迫力だ。いや、もしかしたらこの女店主ならばそれも出来るかもしれないな。出来たら実に面白いが。
    そんな音を聞きつけてか周りに店にいた人達がぞろぞろと集まり、酒を片手にプロレスを見るみたいになにかしら言っている。「行け行けー!」や「負けんな!」などの声を出している。

「どっちに賭ける?」
「マダムだな」
「俺もマダム」
「おいおい、誰かあの男にも賭けてやれよ。かわいそーだろ」
「なら、お前が賭ろよ」
「冗談!俺は金を大事にする主義だ」
「だな!」

    そう賭けをやっている人もいるがもはや賭けにすらなっていない。まぁ、この状況を見れば当たり前だとは思うが。

「…始まったな。この店名物"マダムの破門"。……命知らずだな、あの男。マダムの家でケチつけるなんて」

    エドがクククッと笑いながら言った。止めようとせずに悪どい笑みを浮かべているところを見ると、中々な性格だな。

「本当毎回来るたびに誰か破門されるわね」 

    ルーも止めずに半場呆れている。

「さぁ、行きましょう。まだあれは続きそうだし」 

    ルーが私の体を軽く押しながら言った。「教育上にも良くないわ…」と、言いながら。確かにお世辞でもいいとは思えないだろう。

「エメラルドの旦那、ルビーさん!また気が向いたら来いよ!!サービスしてやるから、さッ!」

    男の胸ぐらを掴みながらマダムが清々しいほどの笑顔でいった。…表情と行動が全くと言っていいほど合ってない。何かルーと似たようなものを感じる。もしかしたら、親戚の可能性もあり得るかもしれない。

「あぁ、気が向いたらまた来る。サービスするって言ったの忘れるなよ」

    エドは振り向かず、片手で手をヒラヒラと振った。常連なのだろうか。
    店の一番奥に行くと何かしら刻まれている扉に着いた。その扉にエドがおもむろに手を置いた。するとカチリと、何か鍵があくような音が聞こて、魔法陣のようなものが触れた場所から刻まれていく。

(…良く考えられている)

    すっかり姿の変わった扉をルーが開けると、そこは全くの別世界だった。
    とてつもなく大きい街で白いレンガを積んでできた店がところ狭しとあり、それぞれ店の名前がかかれている看板をだし、人が行き交う幻想的な街──

「ここが、魔法界一の街」

    謡うようにルーはそう私の背を軽く押して、笑った。

「「ようこそ!マレーフ街へ!」」

    ルーとエドが声を合わせて言った。

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