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第13章 決闘へ
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このままでは、コロシア帝国へ成果(戦果)を上げずに帰ることは出来ないし…。
小船にいる5人の日本人の中に、未来からの人間でなく、私達がいた(西暦1905年)頃の人間。ローインクロース(ふんどし)を穿いた輩(やから)がいたな。
その人間をそそのかし、サシ勝負に持っていくか。それに、我が方へ援護が来れば、勝てるかも知れない。極秘の援護が来ればだが…。ロジェストヴェンスキーの頭の中に光が差してきた。
「君ら日本人は、同じ年代での勝負は出来ないと覚り、未来の力を頼ったか。ぷっ、わっはっは~。歴史では、我がコロシア帝国が大勝したんだろう。負けた乞食サル(日本人)め。ひ~っ。わっはっは~。諸君、笑え。笑え。何か言ってやれ。」ロジェストヴェンスキーは、コロシア帝国の兵員達へ笑いをたきつけた。
「日本人は汚物だから肌が黄色いんだな。わっはっは~。」「ちび、ちび、おや?小さすぎて視界にも入らない。ひーひーわっはっは~。」「なにも小さいんだってな。コロシア人の赤ちゃん程らしいよ。パンツを下して見せてみな。わっはっは~。」
言葉が分かる赤羽は、怒りに震えていた。他の4人も兵員達の小馬鹿にしたおどけたジェスチャーに怒りまくっていた。
ロジェストヴェンスキーは、兵員達の悪ふざけを制して、「わが国では、騎士道精神があり、同じ条件での二人での決闘がある。日本でも武士道精神があると聞いているが、我が旗艦クニャージと、遠くに見える同じ年代の貴国の戦艦(三笠)とで、一騎打ちをさせてはもらえないか。どうですか。」と、急に低姿勢になり言った。
「もし、受けるとして、その時の条件は、何ですか。」赤羽は勘ぐった表情で聞いた。
「クニャージが勝ったら、我が艦隊をウラジオストクへ入港させること。負けたら我が艦隊は母国のカリーニングラードへ戻る。簡単な条件だと思うが。」
「貴国が持っていない未来兵器がある我が国(日本)が受ける条件には思えないが、一度母船に戻り回答するが、宜しいか。」
「結構です。」ロジェストヴェンスキーは思う通りに話が進み舌なめずりしていた。
あんたら(日本帝国軍)の作戦は全て知っているんだよ。…と。
小船の5人は、巡視船だいせんへ戻り、上野船長へ事と次第を報告した。
それを聞いて、「みんな、お疲れ様でした。より良い交渉でバルチック艦隊と直ぐに全面戦闘にならず本当に良かった。」
上野は敬礼している5人の左肩を次々と軽く揉んだ。
「上野船長、コロシア帝国軍からの条件ですが、如何しますか。」と、赤羽が聞いてきた。
上野は、「其れを受ければ、両軍(コロシア帝国軍、日本帝国軍)ともかなりの死傷者が出るな…。総理にご判断してもらうしかないが…。その前に三笠にいらっしゃる東郷司令官の御意思の確認が必要になってくる。」と言い、秋山を見た。
秋山は、「早速、私が三笠へ行き東郷の意志確認をして来ますので…。それでは失礼します。」と言い、直ぐに小船へ乗り三笠へと向かい、1時間程してだいせんへ戻ってきた。
東郷の回答は、『決闘を御受けします。』だった。
その言葉を上野が芦破総理へ電話で伝えたところ、「日本は元来から紳士の国です。三笠がいいと言うならば、コロシア帝国軍からの(決闘の)申し出を受けしましょう。」だった。
芦破総理の内心は、『日本帝国軍に与し、コロシア帝国軍が負けるとなるとコロシア連邦が怒って来る。コロシア連邦とは揉めたくないし~なぁ。決闘で昔(西暦1905年)の戦艦が双方が沈んで(死んで)くれれば最高なんだが。僕としては昔の日本人が生きていても、選挙の票には関係ないし、いらな~いもん。』だった。
その後、決戦の取り決めは、三笠と旗艦クニャージのお互いの距離が10km圏内に入った時に決闘が始まり、沈没又は白旗を掲げた時に負けが確定することになった。
「君、三笠との距離が9kmになった時に知らせてくれたまえ。」
ロジェストヴェンスキーは下士官へ指示を出した。
例の情報が正しければ、日本帝国軍(三笠)は、距離が8kmになった時に敵前大回頭(丁字戦法)をするはずだ。
歴史では、我が艦隊は、真横を見せた日本帝国艦隊へ、これ幸いと砲撃を始めたが、着弾率が低く、その後に日本帝国軍の総攻撃に遭い降伏したと、謎の味方というコロシア連邦国の人間が教えてくれた。
私は同じ過ちはしない。
距離が8kmになった時に砲撃を始めるのでなく、全速力で相手に近づき、距離が6kmを切った時に確実な砲撃を加えれば勝てる。と、ロジェストヴェンスキーは自信満々に思っていた。
「東郷司令官。相手との距離が8kmを切りました。」
「秋山君、作戦通りに行こうか。」
「分かりました。諸君、作戦は『天気晴朗なれど波高し』ではなく、『作戦名は、E-plan(いい計画)、秘伝一の太刀』と全総員へ伝令せよ。」
「はっ。」「はっ。」
下士官は持ち場へと走った。
三笠は敵前大回頭をするでもなく、全速力でクニャージへ近づいて行った。
「ロジェストヴェンスキー司令官。敵との距離が6kmを切りました。敵も全速力と思われます。」
兵員達は、恐怖で顔をこわばらせていた。
「なにぃ。砲撃を開始しろ。撃て。撃て~い。」
ロジェストヴェンスキーは理性を失われようといていた。
何故だ。何故なんだ。敵前大回頭をしないで直進してきている。コロシア連邦から来たと言う奴に謀されたのか。
この戦闘開始の2時間前、秋山が東郷の意志を確認に行った時に作戦の変更がされていた。
「秋山君、コロシア帝国軍の申し出に異論はないが。難しい表情だが何かあるかね。」
「東郷司令官。さっき、ロジェストヴェンスキーと会った時、未来の兵器を見たときに、確かに驚愕してましたが、他のコロシア兵員達とは、驚き方が違ってました。ある程度の予測していた驚きのような。」
「ん~ん。君の洞察を信じよう。何か策はあるかね。」
「ここに来る小船の中で考えてました。今迄の計画と真逆の考えです。それは、中央突破。最初の太刀に全集中力
で切り込む。作戦名はえげつない程の凄い(E)ー計画(plan)。即ち、『E-plan、秘伝一の太刀』です。」と秋山が、答えていた。
「敵船との距離6kmです。予想通りにクニャージが撃って来ました。」と、秋山が東郷へ報告した。
「よ~し。煙幕を張れーい。」東郷が下士官へ指示を出した。
三笠から煙突の黒煙の他に甲板に設けられた沢山のブリキの大箱から黒煙がたなびき出した。
黒煙は計画通りにクニャージがいる風下へとモクモクと流れて行った。
「全速前進、キエーイ。」東郷の鬼気迫る示現流の掛け声が皆(乗組員達)を大きく揺さぶり、掛け声が連鎖して言った。
「キエーイ。」「キエーイ。」「キエーイ。」…と。
「ロジェストヴェンスキー司令官。黒煙で相手(三笠)が見えません。ゲホッ、ゲホッ、煤(すす)に覆われました。」
「良いか。黒煙の中心に向かって、(主砲を)撃てっい。それに撃ったら回避だ。取舵一杯。(三笠は)突っ込んでくる気だぞ。」
ロジェストヴェンスキーは赤鬼の形相になり叫んだ。
バッコーン。ガキガキガキ。バッターン。砲弾により三笠の前方にある太い支柱が折れ、前方煙突へ当たり火柱が立った。
東郷は、「三笠は生きてるぞ。全船員(860名)、衝突に備え~い。キエーイ。」と叫び、艦橋の手摺に掴まり両脚を踏ん張った。
三笠がクニャージにぶつかる前、一瞬、黒煙が失せてクニャージの側面が良~く見えた。
「三笠、頼むぞー。」秋山が祈り叫んでいた。
ガガーン!
15000トンを超える大塊がクニャージへ激突した。
余りの衝撃に双方の船員達が宙に舞い、床に叩きつけられた。
秋山は、にー(兄さん:伊予弁)の好古(陸軍騎兵旅団長)に誘われ、乗馬中に落ち、痛い経験をしたことを思い出していた。
あの時の10倍はだーぶ(だいぶ)痛くて、どもこもならん(どうにもこうにもならない)。
秋山は、立ち上がり側頭部より血を流しながら、
「東郷司令官。お怪我は?」と言い、歩み寄って近くに座り倒れている東郷の様子を見た。
東郷は年とは思えぬ程、体幹がしっかりしていたのか、転んだが秋山の腕を借り、直ぐに起ちあがった。
「秋山君、君こそ大丈夫かね?」
「頭からの血ですか。布でも巻いときゃ大丈夫です。それより、船員達の身体の状況確認と、敵艦(クニャージ)の損傷を見てきます。」
「よろしく頼みます。」
ロジェストヴェンスキーは、身体中の激痛に仰向けのまま動けないでいた。
眼だけを動かし室内を見てみると、さっきまで、隣にいた将校や下士官達は、衝突で飛ばされて、全く動かない。
そこへ血がにじみ出ている軍服を着た救護兵がやってきて、
「ロジェストヴェンスキー司令官。大丈夫ですか。」と言い、ロジェストヴェンスキーの止血をし始めた。
「君、この衝突により我が軍の被害状況を教えてほしい。」仰向けになりながら聞いた。
「船体は、ぶつかった右側面から浸水が始まってます。止水できるかどうかは自分では分かりません。人的被害ですが、数百名の兵員が死傷している模様です。」と救護兵は痛ましい顔をして答えた。
「そうか。ありがとう。」そう言った後、ロジェストヴェンスキーは目を閉じて考えた。
あの衝撃からして浸水を止めるのは大作業となる。それに、一度に数百名の死傷者出して、その救護をしながらの戦闘継続は難しいと考えざるを得ない。
余計な偽情報(丁字戦法)にとらわれず、早くに、砲撃開始をしとけば…。
私が先ずなすべきことは、これ以上の死傷者を出さないこと。
アジアの孤島の弱小猿(日本人)どもに負けたことを認めたくないが、致し方ない。
「君、船上へ白旗を掲げてもらえないか。頼む。」
「えっ、猿(日本人)に降伏するのですか。」救護兵は恨めしそう言った。
「今、手当てしなければ、死んでしまう怪我人が沢山いる。東の果て(日本)で、更に死人を増やしたくないのだよ。」
救護兵を諭すようにロジェストヴェンスキーは言った。
「東郷司令官、三笠の損傷ですが、船首が追突により船体側へ折れ曲がっていますが、浸水なし。それ以外は前方の支柱の大破。前方煙突の小破です。航行及び戦闘に問題なし。乗員の被害ですが、皆、衝突に備え予め踏ん張っていたお陰で、死者なし、重傷者12名、軽傷者89名です。敵艦は、右側面から傾き始めています。浸水によるものと思われます。」
「秋山君、報告ありがとう。君の作戦は見事に当たったね。」東郷は満悦そうに頷いた。
秋山は、「はぁつ。ありがとうございます。」と言った後、頭を巡らましていた。
クニャージはまだ、(戦闘を)やる気かどうかだが。戦闘をするにしても両艦の距離が20m程しかないため、両艦共に主砲、副砲を使うのは、自艦にも被害を被る恐れがあるから使えない。気を付けなければならないのは、海賊みたいに機銃を持った兵隊を乗り込みさせ艦を占拠されることだ。
「東郷司令官、機銃を持った歩兵を50名程、甲板に配置したいのですが。」
「秋山君、同じことを考えていたようだね。宜しい許可します。」
秋山は下士官へ命令を出し、甲板には歩兵50名が整列しクニャージへ向け銃を構えた。
その時、クニャージのマストに白旗が風で舞っていた。
双眼鏡で敵艦を見ていた秋山がそれに気付き、「東郷司令官、クニャージに白旗が掲げられました。我が艦の勝利です。」と叫んだ。
東郷は首を縦に振った。
階下の甲板では、歩兵隊達が、喜び歓声を上げた。
「勝った~。」「日本帝国、バンザ~イ。」「バンザ~イ。」と。
小船にいる5人の日本人の中に、未来からの人間でなく、私達がいた(西暦1905年)頃の人間。ローインクロース(ふんどし)を穿いた輩(やから)がいたな。
その人間をそそのかし、サシ勝負に持っていくか。それに、我が方へ援護が来れば、勝てるかも知れない。極秘の援護が来ればだが…。ロジェストヴェンスキーの頭の中に光が差してきた。
「君ら日本人は、同じ年代での勝負は出来ないと覚り、未来の力を頼ったか。ぷっ、わっはっは~。歴史では、我がコロシア帝国が大勝したんだろう。負けた乞食サル(日本人)め。ひ~っ。わっはっは~。諸君、笑え。笑え。何か言ってやれ。」ロジェストヴェンスキーは、コロシア帝国の兵員達へ笑いをたきつけた。
「日本人は汚物だから肌が黄色いんだな。わっはっは~。」「ちび、ちび、おや?小さすぎて視界にも入らない。ひーひーわっはっは~。」「なにも小さいんだってな。コロシア人の赤ちゃん程らしいよ。パンツを下して見せてみな。わっはっは~。」
言葉が分かる赤羽は、怒りに震えていた。他の4人も兵員達の小馬鹿にしたおどけたジェスチャーに怒りまくっていた。
ロジェストヴェンスキーは、兵員達の悪ふざけを制して、「わが国では、騎士道精神があり、同じ条件での二人での決闘がある。日本でも武士道精神があると聞いているが、我が旗艦クニャージと、遠くに見える同じ年代の貴国の戦艦(三笠)とで、一騎打ちをさせてはもらえないか。どうですか。」と、急に低姿勢になり言った。
「もし、受けるとして、その時の条件は、何ですか。」赤羽は勘ぐった表情で聞いた。
「クニャージが勝ったら、我が艦隊をウラジオストクへ入港させること。負けたら我が艦隊は母国のカリーニングラードへ戻る。簡単な条件だと思うが。」
「貴国が持っていない未来兵器がある我が国(日本)が受ける条件には思えないが、一度母船に戻り回答するが、宜しいか。」
「結構です。」ロジェストヴェンスキーは思う通りに話が進み舌なめずりしていた。
あんたら(日本帝国軍)の作戦は全て知っているんだよ。…と。
小船の5人は、巡視船だいせんへ戻り、上野船長へ事と次第を報告した。
それを聞いて、「みんな、お疲れ様でした。より良い交渉でバルチック艦隊と直ぐに全面戦闘にならず本当に良かった。」
上野は敬礼している5人の左肩を次々と軽く揉んだ。
「上野船長、コロシア帝国軍からの条件ですが、如何しますか。」と、赤羽が聞いてきた。
上野は、「其れを受ければ、両軍(コロシア帝国軍、日本帝国軍)ともかなりの死傷者が出るな…。総理にご判断してもらうしかないが…。その前に三笠にいらっしゃる東郷司令官の御意思の確認が必要になってくる。」と言い、秋山を見た。
秋山は、「早速、私が三笠へ行き東郷の意志確認をして来ますので…。それでは失礼します。」と言い、直ぐに小船へ乗り三笠へと向かい、1時間程してだいせんへ戻ってきた。
東郷の回答は、『決闘を御受けします。』だった。
その言葉を上野が芦破総理へ電話で伝えたところ、「日本は元来から紳士の国です。三笠がいいと言うならば、コロシア帝国軍からの(決闘の)申し出を受けしましょう。」だった。
芦破総理の内心は、『日本帝国軍に与し、コロシア帝国軍が負けるとなるとコロシア連邦が怒って来る。コロシア連邦とは揉めたくないし~なぁ。決闘で昔(西暦1905年)の戦艦が双方が沈んで(死んで)くれれば最高なんだが。僕としては昔の日本人が生きていても、選挙の票には関係ないし、いらな~いもん。』だった。
その後、決戦の取り決めは、三笠と旗艦クニャージのお互いの距離が10km圏内に入った時に決闘が始まり、沈没又は白旗を掲げた時に負けが確定することになった。
「君、三笠との距離が9kmになった時に知らせてくれたまえ。」
ロジェストヴェンスキーは下士官へ指示を出した。
例の情報が正しければ、日本帝国軍(三笠)は、距離が8kmになった時に敵前大回頭(丁字戦法)をするはずだ。
歴史では、我が艦隊は、真横を見せた日本帝国艦隊へ、これ幸いと砲撃を始めたが、着弾率が低く、その後に日本帝国軍の総攻撃に遭い降伏したと、謎の味方というコロシア連邦国の人間が教えてくれた。
私は同じ過ちはしない。
距離が8kmになった時に砲撃を始めるのでなく、全速力で相手に近づき、距離が6kmを切った時に確実な砲撃を加えれば勝てる。と、ロジェストヴェンスキーは自信満々に思っていた。
「東郷司令官。相手との距離が8kmを切りました。」
「秋山君、作戦通りに行こうか。」
「分かりました。諸君、作戦は『天気晴朗なれど波高し』ではなく、『作戦名は、E-plan(いい計画)、秘伝一の太刀』と全総員へ伝令せよ。」
「はっ。」「はっ。」
下士官は持ち場へと走った。
三笠は敵前大回頭をするでもなく、全速力でクニャージへ近づいて行った。
「ロジェストヴェンスキー司令官。敵との距離が6kmを切りました。敵も全速力と思われます。」
兵員達は、恐怖で顔をこわばらせていた。
「なにぃ。砲撃を開始しろ。撃て。撃て~い。」
ロジェストヴェンスキーは理性を失われようといていた。
何故だ。何故なんだ。敵前大回頭をしないで直進してきている。コロシア連邦から来たと言う奴に謀されたのか。
この戦闘開始の2時間前、秋山が東郷の意志を確認に行った時に作戦の変更がされていた。
「秋山君、コロシア帝国軍の申し出に異論はないが。難しい表情だが何かあるかね。」
「東郷司令官。さっき、ロジェストヴェンスキーと会った時、未来の兵器を見たときに、確かに驚愕してましたが、他のコロシア兵員達とは、驚き方が違ってました。ある程度の予測していた驚きのような。」
「ん~ん。君の洞察を信じよう。何か策はあるかね。」
「ここに来る小船の中で考えてました。今迄の計画と真逆の考えです。それは、中央突破。最初の太刀に全集中力
で切り込む。作戦名はえげつない程の凄い(E)ー計画(plan)。即ち、『E-plan、秘伝一の太刀』です。」と秋山が、答えていた。
「敵船との距離6kmです。予想通りにクニャージが撃って来ました。」と、秋山が東郷へ報告した。
「よ~し。煙幕を張れーい。」東郷が下士官へ指示を出した。
三笠から煙突の黒煙の他に甲板に設けられた沢山のブリキの大箱から黒煙がたなびき出した。
黒煙は計画通りにクニャージがいる風下へとモクモクと流れて行った。
「全速前進、キエーイ。」東郷の鬼気迫る示現流の掛け声が皆(乗組員達)を大きく揺さぶり、掛け声が連鎖して言った。
「キエーイ。」「キエーイ。」「キエーイ。」…と。
「ロジェストヴェンスキー司令官。黒煙で相手(三笠)が見えません。ゲホッ、ゲホッ、煤(すす)に覆われました。」
「良いか。黒煙の中心に向かって、(主砲を)撃てっい。それに撃ったら回避だ。取舵一杯。(三笠は)突っ込んでくる気だぞ。」
ロジェストヴェンスキーは赤鬼の形相になり叫んだ。
バッコーン。ガキガキガキ。バッターン。砲弾により三笠の前方にある太い支柱が折れ、前方煙突へ当たり火柱が立った。
東郷は、「三笠は生きてるぞ。全船員(860名)、衝突に備え~い。キエーイ。」と叫び、艦橋の手摺に掴まり両脚を踏ん張った。
三笠がクニャージにぶつかる前、一瞬、黒煙が失せてクニャージの側面が良~く見えた。
「三笠、頼むぞー。」秋山が祈り叫んでいた。
ガガーン!
15000トンを超える大塊がクニャージへ激突した。
余りの衝撃に双方の船員達が宙に舞い、床に叩きつけられた。
秋山は、にー(兄さん:伊予弁)の好古(陸軍騎兵旅団長)に誘われ、乗馬中に落ち、痛い経験をしたことを思い出していた。
あの時の10倍はだーぶ(だいぶ)痛くて、どもこもならん(どうにもこうにもならない)。
秋山は、立ち上がり側頭部より血を流しながら、
「東郷司令官。お怪我は?」と言い、歩み寄って近くに座り倒れている東郷の様子を見た。
東郷は年とは思えぬ程、体幹がしっかりしていたのか、転んだが秋山の腕を借り、直ぐに起ちあがった。
「秋山君、君こそ大丈夫かね?」
「頭からの血ですか。布でも巻いときゃ大丈夫です。それより、船員達の身体の状況確認と、敵艦(クニャージ)の損傷を見てきます。」
「よろしく頼みます。」
ロジェストヴェンスキーは、身体中の激痛に仰向けのまま動けないでいた。
眼だけを動かし室内を見てみると、さっきまで、隣にいた将校や下士官達は、衝突で飛ばされて、全く動かない。
そこへ血がにじみ出ている軍服を着た救護兵がやってきて、
「ロジェストヴェンスキー司令官。大丈夫ですか。」と言い、ロジェストヴェンスキーの止血をし始めた。
「君、この衝突により我が軍の被害状況を教えてほしい。」仰向けになりながら聞いた。
「船体は、ぶつかった右側面から浸水が始まってます。止水できるかどうかは自分では分かりません。人的被害ですが、数百名の兵員が死傷している模様です。」と救護兵は痛ましい顔をして答えた。
「そうか。ありがとう。」そう言った後、ロジェストヴェンスキーは目を閉じて考えた。
あの衝撃からして浸水を止めるのは大作業となる。それに、一度に数百名の死傷者出して、その救護をしながらの戦闘継続は難しいと考えざるを得ない。
余計な偽情報(丁字戦法)にとらわれず、早くに、砲撃開始をしとけば…。
私が先ずなすべきことは、これ以上の死傷者を出さないこと。
アジアの孤島の弱小猿(日本人)どもに負けたことを認めたくないが、致し方ない。
「君、船上へ白旗を掲げてもらえないか。頼む。」
「えっ、猿(日本人)に降伏するのですか。」救護兵は恨めしそう言った。
「今、手当てしなければ、死んでしまう怪我人が沢山いる。東の果て(日本)で、更に死人を増やしたくないのだよ。」
救護兵を諭すようにロジェストヴェンスキーは言った。
「東郷司令官、三笠の損傷ですが、船首が追突により船体側へ折れ曲がっていますが、浸水なし。それ以外は前方の支柱の大破。前方煙突の小破です。航行及び戦闘に問題なし。乗員の被害ですが、皆、衝突に備え予め踏ん張っていたお陰で、死者なし、重傷者12名、軽傷者89名です。敵艦は、右側面から傾き始めています。浸水によるものと思われます。」
「秋山君、報告ありがとう。君の作戦は見事に当たったね。」東郷は満悦そうに頷いた。
秋山は、「はぁつ。ありがとうございます。」と言った後、頭を巡らましていた。
クニャージはまだ、(戦闘を)やる気かどうかだが。戦闘をするにしても両艦の距離が20m程しかないため、両艦共に主砲、副砲を使うのは、自艦にも被害を被る恐れがあるから使えない。気を付けなければならないのは、海賊みたいに機銃を持った兵隊を乗り込みさせ艦を占拠されることだ。
「東郷司令官、機銃を持った歩兵を50名程、甲板に配置したいのですが。」
「秋山君、同じことを考えていたようだね。宜しい許可します。」
秋山は下士官へ命令を出し、甲板には歩兵50名が整列しクニャージへ向け銃を構えた。
その時、クニャージのマストに白旗が風で舞っていた。
双眼鏡で敵艦を見ていた秋山がそれに気付き、「東郷司令官、クニャージに白旗が掲げられました。我が艦の勝利です。」と叫んだ。
東郷は首を縦に振った。
階下の甲板では、歩兵隊達が、喜び歓声を上げた。
「勝った~。」「日本帝国、バンザ~イ。」「バンザ~イ。」と。
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