【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

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第6章 現在に繋がる過去

64話・繁栄の裏の犠牲

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 穂堂 薫ほどう かおるが病に倒れ、入院した。

 翁崎 征おうさき まさしは彼女の病室をよく訪れたが、純粋な見舞い目的ではないと息子のまなぶだけが知っている。重圧と責任からくる精神的な弱さを病床の彼女に支えてもらっているのだ。誰かに見咎められないよう個室の病室を手配したのも征だ。差額のベッド代を負担することくらい安いものだっただろう。

 それを不審に思う者がいた。
 薫の夫、穂堂 要路ほどう ようじだ。

 頻繁に訪れる妻の元上司に対し、彼は嫉妬の感情を隠しもせず、病院でかち合えば無理やり追い返したりもした。元々キャリアウーマンの妻に対し引け目を感じる卑屈な男だった。妻と元上司との仲も当然疑っていた。

 そんな彼も、薫の死後に倒れた。
 心労と喪失感でまともに食事も取っていなかったのが原因。息子のとおるも家で食事が取れておらず、小学校の給食だけで凌ぐ有り様。発覚した際はかなり痩せ細っていたという。

 薫が居なくなった今、誰に支えてもらえばいいのだろうと悩んでいた学と征の思いが裏で一致した。

「父さん、あの子をうちで預かろう。ここからなら転校せずに学校にも通えるみたいだから」
「……そうだな。それがいい」

 征から言い出せば怪しまれただろうが、跡取りである学がまず提案したことで、周りはこれが人道的な保護であると認識する。

 薫によく似たひとり息子、穂堂 徹。
 自宅に迎えにやってきた翁崎親子を前に、彼はひとつ条件を出した。

「ぼくとおとうさんが本当の親子だって証明したいんです。そういうの、できますか」

 この時、徹は九才。落ち着いた雰囲気の利発そうな少年だが、まだ小学生の彼がまさかそのようなことを言い出すとは思わず、翁崎親子は戸惑った。

 そして、彼の言葉の意味を理解した。

 穂堂 要路は我が子が他の男の子どもではないかと疑っていた。妻の死後、これまで抑え込んでいた猜疑心が噴き出したのだろう。
 病気で徹の世話が出来なかったのではない。わざと放置して食事を与えていなかったのではないか。幼い徹は病んだ父親から暴力こそ振われてはいなかったが、育児放棄をされていた。




 その状況を生み出したのは──…




 DNA検査の結果、穂堂 徹と穂堂 要路は実の親子であると証明された。それは嫉妬と後悔に狂った父親から掛けられた疑惑を晴らすための唯一の証拠であり、徹の気持ちを整理することに必要な手段。
 ただ、病床の父親は精神を病み、既に子どもから関心を失っていた。実子の証明がされたからといって親子関係が改善することはなかった。

「……これで良かったのかい」
「はい、ありがとうございます。無理を言ってすみませんでした」

 何の証明もないまま翁崎家に入れば疑いを掛けられ、亡き母親の名誉に関わる。それだけでなく、社長夫人である翁崎 征の妻にも精神的な負担となりかねない。翁崎 征と穂堂 薫は単なる仕事上のパートナーだった、その縁で引き取るのだと周りにも示せる。

 僅か九才の少年がどこまで考えて検査を頼んだのかは分からないが、全てを丸くおさめる最善の策であったと学は思う。
 ひとつの家庭を犠牲にして、株式会社ケルストは安定した経営を続けてきた。残された徹が大人になるまで面倒をみることは翁崎家の責務。

 社長の征と後継ぎの学はその認識で徹を我が家に迎え入れた。
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