【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

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【番外編】最終話以降のお話

12話(後)・とある休日の朝 *

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 口付けながらベッドの上に押し倒す。
 自分から誘っただけあって、穂堂は何の抵抗もしなかった。体重をかけないように覆いかぶさる阿志雄が片手で器用に寝間着の前ボタンを外していく。その間も唇は常に穂堂の顔や首筋にキスを降らせていた。

「一人で調べたんですか」

 耳元で囁かれる熱を孕んだ声に小さく頷く。
 そうしているうちにボタンは全て外され、寝間着の前がはだけられ、首すじから鎖骨をなぞるように手のひらが滑り込んだ。

「オレに抱かれるために?」
「……っ、ええ、その通りです」
「は~……、ホント穂堂さん好き」

 問われるままに素直に答える穂堂を見下ろしながら、阿志雄は幸せそうに口元に笑みを浮かべた。これまで色事こんなことに興味関心がなかった恋人が、自分と触れ合いたい一心で行動を起こしたのだ。嬉しくないはずがない。

 熱い指先で胸元を撫でられ、その手が下へと降りていく。何度も口付けられ、身体を弄られているうちに反応を示した部分を服の上から握り込まれ、期待と興奮が混ざった吐息を漏らした。
 触り合いなら何度かしたことがある。しかし、それ以上の行為はまだ未経験で、調べたとはいえ具体的に何をするのか分からない穂堂はとりあえず阿志雄に身を委ねた。

 ズボンと下着を一緒に脱がされ、ベッドの上で穂堂だけが裸になった。室内の空気に晒されて身体を震わせているので、上掛け布団を掛ける。その中に阿志雄が潜り込んだ。

「あ、阿志雄くん?」
「じっとしててください」
「え?……あっ、ちょっと」

 見えない場所でもぞもぞと動いていた阿志雄が穂堂のものを口に含んだ。思わぬ行動に驚いて上体を起こそうとしたが、すぐに自分で自分の顔を覆い隠して身を捩る。

 じゅる、と音を立てて吸われて何をされているのか悟った穂堂は、羞恥と未知の快楽の狭間で困惑していた。
 互いのものを触り合った時とは違う、より生々しい感覚に思考が乱され、何も考えられなくなる。『行為に必要なもの』を調べている時に動画なども資料として視聴したから知識として知ってはいた。だが、知っているのと自分で経験するのでは全く違う。布団で隠され、次に何をされるか分からないから、余計に下腹部の感覚だけに意識が集中してしまう。

「う、ん……ッ」

 反射で閉じようとする脚を片手で押さえ、もう片方の手でゆるゆると扱きながら先端を舐め上げる。手の中でびくびくと震えるそれに愛おしそうに口付けてから、阿志雄は毛布の中に持ち込んだローションのボトルを開けた。一旦穂堂の脚から手を離し、手のひらに出したローションを人肌まで温めてから下に手を伸ばす。

「っ、……」

 後孔の周囲を撫でてから指の腹をぐっと押し付ける。何度かそれを繰り返してから、まずは中指の先を差し込んだ。

「穂堂さん、準備ってどれくらいしました?中を綺麗にしただけじゃないですよね?」
「す、少しだけ……指を挿れてみました」
「ハハ、やっぱり。柔らかいと思った」

 抜き差ししながら問うと、穂堂は荒い呼吸の合間に律儀に答えた。

 これまで行動には移さなかったものの、阿志雄も男同士の営みに何が必要で何をせねばならないか、とっくに調べている。
 穂堂が用意したコンドームは未開封だったが、ローションはやや減っていた。穂堂が後ろを慣らすために使ったからだ。自分で慣らす穂堂の姿を想像しただけで気持ちが昂り、自然と指の動きも荒くなる。

「あ、ああ……、ンッ……!」
「痛くないですか?」
「だっ大丈夫……でも、」

 何か言いたげな穂堂の様子に、阿志雄が動きを止める?

「これでは君の顔が見えません」

 未だ隠れたままの恋人に訴えると、毛布がするりと脇に落ちた。先ほどまでは肌寒さを感じていたが、身体が火照って熱いくらいになっている。実際、ずっと上掛け布団の中にいた阿志雄はうっすら汗をかいていた。

 仰向けに転がる穂堂の隣まで這い上がり、目を合わせてから口付ける。その間も阿志雄の手は後孔を慣らすために動いていた。
 枕やシーツを掴むしかなかった穂堂の腕が阿志雄の背に回され、しっかりと固定する。互いの唇を貪り、吐息を飲み込む。口付けの音と荒い呼吸、ローションの粘ついた水音が薄暗い寝室内に響いた。

「穂堂さん、いい?」
「ええ、たぶん」

 ついに阿志雄が痺れを切らした。
 先ほどから触れてもないのに限界まで張り詰めたそれが痛いくらい存在を主張してくる。しっかり慣らさなくてはと思う反面、溜め込んだ熱を早く放出したいという衝動が大きくて止められない。

 迅る気持ちを抑えて手早く服を脱ぎ、コンドームの箱を覆うビニールの包装を破る。気ばかりが急いて何度か指が滑った。なんとか開封して、自分のものに被せていく。
 ゴムの上からローションを垂らし、まんべんなく塗り付けてから、阿志雄は再び穂堂の上に覆い被さった。

「痛かったら殴ってでも止めてください」
「それはちょっと難しいかもしれません」

 腰の下に丸めた上掛け布団を敷き、脚を開かせる。薄暗さに慣れた視界に霰もない恋人の姿が映った。無意識のうちにゴクリと喉が鳴り、抑えきれない興奮をほんの少しだけ飲み込む。

 ローションで濡れた先端を押しつけただけで意識が飛びそうになるほどの快楽が阿志雄を襲う。何度か擦り付け、なじませてから、ぐっと腰を押し進めた。

「ひっ……」

 未知の感覚に穂堂は呼吸を忘れた。
 目を固く閉じ、息を止め、唇を噛んで耐える。

 普段ならば、そんな様子を見ればすぐに中断して平謝りするであろう阿志雄だが、既に理性が飛んでいる。まだ動きがゆるやかなのは、中の抵抗が強くて全てが収まりきっていないから。はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返しながら、どうしたらもっと奥に挿入できるかだけを追い求めている。
 目の端にローションのボトルを見つけ、後片付けのことなど考えもせず結合部にぶちまけた。

 冷たいままのローションが大量にかけられた穂堂が小さく悲鳴を上げたが、阿志雄の耳には届かない。やや滑りが良くなったことで、腰が更に奥へと進められた。

「あっ、ぐ……!」

 じっくり解されたそこは何とか阿志雄を受け入れている。無理やり押し広げられ、鈍い痛みを感じるが、それ以上に満足感があった。

「ああ、穂堂さん、穂堂さん……っ!」

 肝心な時にいつも我慢ばかりしてきた阿志雄が、今は本能のままに自分を求めている。屈託のない明るい笑顔は消え、欲望と快楽に突き動かされた雄の顔を見せている。

「……ふふ」

 こんな姿を見られるのは自分だけだ、と穂堂は満足そうに笑った。

 結局、阿志雄が正気を取り戻すまで行為は続いた。






 思い出しただけで恥ずかしくなり、穂堂は阿志雄から視線をそらした。初めてだったというのに自分から誘い、しかも随分と乱れてしまったと反省する。

 明け方までは汚れていないほうのベッドでふたりで寝ていたが、今日は休みだ。先に起きた阿志雄は洗濯を先に済ませてしまおうと思い立ったらしい。
 シーツと布団カバーを剥がして汚れた部分を手洗いし、マンションの数軒隣にあるコインランドリーの営業開始時間を待って運び込んだのだ。その間、わざわざ空き部屋に以前使っていた布団を敷いて穂堂を寝かせている。

 目を覚ます前に昨夜の痕跡を片付けて、うまくいけば綺麗に整えたベッドに再び寝かしつけるつもりだったのかもしれない。

「すみません、ひとりでやらせて」
「いや、これくらい全然」
「…………」
「…………」

 気恥ずかしくて会話が途切れがちになる。なんとなく並んでリビングのソファーに腰掛けるが、いつもとは違ってふたりの間には隙間があった。

「あの、」
「はい」

 沈黙が長引く前に阿志雄が口を開いた。

「身体、大丈夫ですか」

  彼にしては珍しくそっぽを向いたまま問い掛けてくる。質問が何を指しているか数秒遅れて理解した穂堂も、顔を背けたまま小さく「問題ありません」と答えた。

「ついでに朝メシ買ってこようかと思ってたんですけど、近所のパン屋がまだ開いてなくて」

 壁に掛けてある時計を見れば、普段の休日ならまだ眠っている時間だった。行きつけのベーカリーの開店時間は三十分ほど先である。

「ふふっ。じゃあ後で一緒に買いに行きますか。帰る頃にはシーツも乾いているでしょうから」

 そう言って立ち上がった穂堂が僅かにバランスを崩してよろめいた。咄嗟に阿志雄が手を伸ばして身体を支える。
 思い通りにならない足腰に穂堂は驚きを隠せなかった。先ほどまでは平気だったが、気が緩んだ途端に力が入らなくなっている。

「やっぱり安静にしててください」
「でも、」

 せっかくの休日だ。趣味の掃除もしたいし、一緒に出掛けたりもしたい。そう思って食い下がるが、譲らないのは阿志雄も同じだ。

「今日はぜんぶオレがやります。朝メシ、何がいいですか。穂堂さんはベーグルサンドが好きでしたっけ」

 身体を労わるようにソファーに座らせて目の前の床に膝をつき、手を握ったまま笑顔で問う。
 近所のベーカリーには何度か一緒に買いに行っている。好みをを覚えていてくれたことが嬉しくて、穂堂は目を細めた。

「君が選んでくれるなら何でも構いません」
「んじゃ、美味そうなの見繕ってきますね」

 立ち上がり、手を離して、背を向けてリビングから出て行こうとする阿志雄を見送っていた穂堂は、ふと先ほど感じた焦りを思い出した。

「──阿志雄くん」
「はい?」

 思わず呼び止める。
 ただ近所に買い物に行くだけだというのに、彼が部屋から出て行ったらこの幸せな夢が終わって現実に引き戻される気がして怖くなった。

 もう穂堂は阿志雄なしでは生きていかれない。
 独りが当たり前だった頃には戻れないのだ。

「やっぱり私も行きます」
「え、でも」

 気遣わしげな視線が足や腰に向けられるが、穂堂はそれを跳ね除けてソファーから立ち上がった。多少怠いが、気合いを入れれば何とか動ける。

「外の空気が吸いたいんです。支度をするので少し待っていてくれますか」
「わかりました」

 クローゼットに寄って着替えを持ち、洗面所で顔を洗う。
 寝間着のボタンを外して脱ぐと、肌着の隙間から覗く肌に赤い痕を見つけた。鎖骨や胸元、二の腕の内側。洗面台の鏡に映る明らかな情事の痕跡に「あっ」と小さな悲鳴を上げ、両手で自分の顔を覆い隠す。

「穂堂さーん、大丈夫ですか」
「何でもありません。すぐ行きます」

 扉越しに声を掛けられ、慌てて返事をする。
 熱くなった頬を冷ますようにもう一度顔を洗ってから服を着替えて洗面所を出た。

「お待たせしました。さ、行きましょうか」
「ハイッ!」

 再び阿志雄の前に立った穂堂は、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた。
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