【完結】営業部の阿志雄くんは総務部の穂堂さんに構われたい

みやこ嬢

文字の大きさ
127 / 142
【番外編】最終話以降のお話

25話・お誘い【FA有】

しおりを挟む


 風呂上がり、洗面所の鏡に映る自分の姿を見て穂堂ほどうは小さく唸った。腰回りに肉がついたような気がしたからだ。自宅には体重計がないため見た目で判断するしかない。腹が出た、というほどではないが、明らかに以前とは違う。

「ふ、太った……?」

 思い当たる原因は幾つもあった。
 阿志雄あしおと暮らし始めてから食生活が劇的に改善した。これまでは昼の社員食堂以外は適当に済ませ、時には食事を抜くことすらあった。自炊を始めてからは朝晩しっかり食べている。晩酌もするようになった。阿志雄と二人、風呂上がりに軽く一杯飲むのが習慣になっている。

 何より運動量が減った。
 総務の雑務全般をしていた頃は毎日社内を縦横無尽に駆け回っており、自分のデスクに落ち着いて座る時間などほとんどなかった。課長に昇進した現在はデスクワークが主になり、雑務は部下に任せきり。

 いつだったか、世間話の折に誰かが言っていた言葉を思い出す。


『三十超えると痩せにくくなるのよね~』


 穂堂は現在二十九歳。
 もうすぐ三十になる。

「穂堂さ~ん、入っていいですか?」
「あ、はい。どうぞ」

 洗面所の扉がノックされ、穂堂は慌てて寝間着の前を合わせて肌を隠した。すぐに阿志雄が着替えを抱えて入ってくる。

 風呂に入るために服を脱ぎ始めたというのに、穂堂は洗面所から出て行こうとしなかった。上半身裸になったところで、流石の阿志雄も恥ずかしくなってしまい、ベルトに掛けた手を止める。

「ど、どうかしました?」
「いえ。別に、何も」

 穂堂の視線は阿志雄の腹部に釘付けとなっており、返事をしながらも逸らされることはなかった。

「阿志雄くん、スタイルいいですよね。何か特別なことをしているんですか?」
「へ?そうですかね」

 阿志雄の身体には無駄な肉など付いていないように見えた。筋肉質というほどではないが、適度に引き締まっている。

「なんもしてないっすよ。穂堂さん知ってるでしょ」
「そうなんですが……」

 同棲を始めてからは仕事以外はいつも一緒。食事もほぼ同じ。むしろ阿志雄のほうがたくさん食べているくらいだ。
 営業職で社外に打ち合わせに行く機会は多いが、移動には社用車やバスを利用している。そこまで運動量に変わりはない。

 なのに、何故自分だけ太ってしまったのか。
 やはり年齢による代謝の差だろうか、と穂堂はやや凹んだ。

 会話の内容と表情から何となく察し、歩み寄って穂堂の腰に手を回す。

「もしかして、体型を気にしてます?」
「……はい」

 単刀直入に尋ねれば、穂堂は誤魔化すことなく肯定した。頬を赤らめて俯く姿を見て虐めたくなる衝動に駆られ、阿志雄は必死で抑え込む。

「全然気にすることないと思うんすけど」

 フォローの言葉を掛けながら確認するように背中や腹を服の上から撫でていくと、穂堂がビクッと身体を硬くした。

「そもそも、元が痩せ過ぎてたんすよ。ようやく人並みになってきたってとこじゃないですか」
「そっ、そうでしょうか……」
「うーん、まだ細いくらいかな?」

 出会ったばかりの頃の穂堂は今より痩せていた。着衣姿からは分からないが、抱き締めた時に意外と細くて驚いたものだ。

 阿志雄が洗面所に入ってくる直前まで体型チェックで鏡に映していたから、寝間着の前ボタンはまだ閉じられていない。少しでも身じろぎすれば肌が見えてしまう。
 いつもはキッチリ上まで閉めた状態でなければ人前に出ないが、同居人である阿志雄に対しては少し気が緩み始めている。
 隙を見せてくれたことが嬉しくて、阿志雄は更に言葉を続けた。

「明日は休みですよね。しますか?運動」
「えっ……」

 思わぬ提案に、穂堂は顔を上げた。
 至近距離で視線が交わる。

 週末は雰囲気になることが多い。翌日を気にせずに触れ合えるからか、二人の中で暗黙の了解となりつつある。

 恋人同士のふたりが夜にする運動。
 婉曲な言い回しだが意味は伝わるはずだ。
 阿志雄は勿論そのつもりで『お誘い』をしたのだが──

「いいですね運動。明日行きましょう」
「明日!?行くってどこに」
鍬沢くわざわくんにも連絡しておきますね」
「へ?なんで鍬沢に……」

 表情を明るくした穂堂はすぐに洗面所から飛び出してリビングへと行ってしまう。

 どうやら阿志雄の提案はかなり違う方向に解釈されたらしい。明日鍬沢を交えて何かをする予定ならば、今夜はもう期待出来ない。

 阿志雄はがくりと肩を落とし、ひとり寂しく湯船に浸かった。




┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼ ┼

パジャマ姿の穂堂さんと阿志雄くんはミドリ様からいただいたファンアートです
ふたりの表情の対比が良き( ´ ▽ ` )♡
ミドリ様、ありがとうございました~!


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

処理中です...