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本編
第8話:夜明けの寝室
しおりを挟む明け方、カーテンの隙間から光が差し込み始めた時間に龍之介は目を覚ました。
普段ならまだ起きる時間ではない。遠くから聞こえる声に反応して覚醒したのだ。
うー、うー、と唸るような小さな声。
するりと布団から抜け出し、寝室へと向かう。薄暗い室内にはダブルベッドがあり、その隣にくっつけるようにしてベビーベッドが設置されている。覗き込むと、赤ん坊が布団から抜け出し、ベッドの柵を掴んで立とうとしていた。
「陽色」
龍之介が声を掛けると、陽色はビクッと身体を揺らし、柵を掴んでいた手を離してしまった。ぽすんと布団の上に尻餅をつく。そして、不安そうな目で龍之介を見上げた。
「……いきなり知らん人から話しかけられたらビビるよな」
昨夜は龍之介が駆け付ける前から眠っていたのだ。起きている状態で顔を合わせるのはこれが初めて。人見知りされて当然だ。
「おい、陽色起きたぞ。起きろ」
「うーん……」
ベッド脇に腰掛け、まだ眠る謙太の肩を揺する。しかし、全く起きる気配がない。
「ケンタ」
「んん……あと三十分……」
「おいフザけんな」
最終手段で掛け布団を引っぺがして頬を叩くと、謙太はようやく目を開けた。枕元のスマホで時間を確認するなり、眉を寄せて溜め息をつく。
「なんだよ……まだ五時じゃん」
「陽色が起きてんの。俺まだ懐かれてないから、おまえが相手しろ」
「まじか」
「一応ミルク用意してくる。その間抱っことかしてろよ。寝そうだったら寝かしても構わんから」
「わ、わかった」
龍之介がキッチンで湯を沸かす間、謙太は陽色を抱き上げてあやしてやった。
普段あまり面倒を見ていなかったとはいえ、陽色にとっては父親だ。まったく警戒することなく抱っこされている。それでも、時折キョロキョロと辺りを見回すような動きがみられた。おそらく母親の姿を探しているのだろう。
「ママ、早く帰ってくるといいなぁ」
謙太の呟きはキッチンまで届いた。ミルクの温度を調整しながら、龍之介も完全に同意した。
早く起きること自体には抵抗ないが、自分の都合と関係なく起こされるというのは意外とキツい。正直まだ眠い。
適温になった哺乳瓶を持って寝室に戻ると、謙太がベッドに腰掛けた状態で陽色を抱っこしているところだった。ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら陽色を愛おしそうに見つめる姿に、龍之介は声を掛けるのを忘れてしまった。
「ん~、やっぱ寝ないな~。……リュウ?」
「……あ。ミルク出来たぞ」
「サンキュ」
哺乳瓶を受け取り、温度を確かめてから陽色の口元に吸い口を寄せる。すると、喉が渇いていたのか腹が減っていたのか、陽色はごくごくと飲み始めた。その様子に、二人はホッと息をついた。
謙太の隣に腰掛け、龍之介はミルクを飲む陽色の顔を覗きこんだ。安心した様子で謙太の腕の中におさまる幼子を見ていると自然と頬が緩む。
「おまえも父親なんだなあ」
「今までなんだと思ってたんだよ」
「…………クズ?」
「想像以上にディスられてる!」
哺乳瓶に半分ほど作ったミルクはすぐに飲み干された。縦に抱っこしてげっぷをさせてからオムツを交換し、再び寝かし付ける。
しかし、昨晩早くから寝ていたせいか陽色は二度寝する気配を見せず、そのままリビングに移って遊び始めた。
「……これは地味にツラいな」
「うん」
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