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本編
第13話:上がる体温
しおりを挟む朝というには早過ぎる午前三時過ぎに陽色の泣き声で起こされた。これまでとは様子が違う。龍之介は急いで布団から出て隣の寝室に向かった。
すぐ側のダブルベッドで眠る謙太は全く起きる気配がない。一度眠ると朝まで起きないとは言っていたが、どうやら本当のようだ。
「陽色、どうした」
声を掛けながら抱き上げても、陽色はぐずぐずと泣き続けるばかり。やや体温が高いように感じたが、まだそこまでではない。とりあえず湯冷ましを飲ませたりオムツを交換したりして不快な要因を減らしていく。
「よーしよし、大丈夫だからな」
抱っこして背中をぽんぽん叩いてやると、陽色は少し落ち着いた。しかし、ベビーベッドに戻そうとすると泣く。仕方なく抱っこしながらゆらゆらと身体を揺らしてあやし続ける。
軽い夜泣きかもしれない、と龍之介は思った。
幾ら平均より小柄だといっても六キロ以上ある赤ん坊をずっと抱っこし続けるのはツラい。一時間経っても寝ないようなら謙太を起こして交替しようと考える。
リビングに敷かれた布団の上に座り、背中を軽く叩く。すると、だんだんと静かになり、しばらくすると陽色は目を閉じて寝入った。ベビーベッドに置いたらまた起きそうで、龍之介はそのまま自分の布団に陽色を寝かせ、その隣に横になった。
子ども特有の甘い匂いと高めの体温が心地よくて、龍之介はすぐ眠りに落ちた。
「──あれ、陽色がいない」
朝八時前。
ようやく目を覚ました謙太はもぬけの殻のベビーベッドを見て首を傾げる。のそのそとリビングに行くと、そこには客用布団で並んで眠る龍之介と陽色の姿があった。夜中に世話をしてくれたのだと悟り、寝かせておくことにした。
しかし、龍之介は物音で目を覚ました。
「なんか陽色の体が熱い気がする」
「え、マジか」
やや赤い顔で眠る陽色の脇に体温計を挟んで熱を測る。三十八度手前。基本の体温が高い子どもなら微熱の範囲だが、これから更に熱が上がる可能性もある。
「寝冷えさせちゃったかな」
「昨日の育児サークルで風邪もらったのかも」
思えば、夜中に起きたのも体調が悪かったからかもしれない。あの時にもっと気を付けて見ていれば、と思い龍之介は気落ちした。子どもの世話に慣れているといっても、元気な時にたまに預かるだけ。親ではないから、体調を崩した子どもを世話したことはない。
「寧花の実家に行こうと思ってたんだけど」
「これじゃ無理だろ」
「だよなあ……」
寧花の実家は遠く、電車と新幹線を乗り継がねばならない。例え陽色が元気な時でも連れていくのを躊躇う距離だ。
「病院が開くのを待って連れて行こう」
「そうだな、そうしよう」
母子手帳ケースには保険証やかかりつけの病院の診察券が入っている。場所や診療開始時間を確認するため、診察券を見ると──
「あ、今日休診か」
今日は木曜日。一番近くにある小児科は休診日となっていた。だが、少し離れた場所にある別の小児科は木曜でも午前中だけやっている。
しかし。
「すまん! 仕事は同僚に任せたんだけど、今日使うUSBを会社の鍵付きロッカーに入れっぱなしにしてた! ちょっと行ってくる!」
「はぁ? 嘘だろオイ」
同僚から連絡が来て、謙太は慌てて支度をして会社へと行ってしまった。
帰ってくるのを待とうかと思ったが、陽色の体温は時間を追うごとに上がっている。これ以上悪くなる前に、と龍之介は自分で病院に連れて行くことにした。
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