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第7話:家族
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*同居開始~最終話ラストに至るまでの物語*
「あの日、陽色を連れにマンションに行った時のことなんだけどね」
コーヒーのカップを両手で持ちながら、寧花がぽつぽつと話し始めた。
「話し合いの時に纏さんがいたじゃない? あの時、ずっと怖い顔で睨まれてたの。私が謙太さんを傷付けるような真似をしたから、きっと怒ってたのね」
「リュウが?」
当時、謙太は呆然としていて周りがどうだったか一切把握していなかった。ダイニングテーブルで、龍之介は謙太の隣に座っていた。謙太からその表情は見えない。
放心状態の謙太に代わり、寧花に色々問い質したのも龍之介だった。
「テーブルのあっちとこっちで、すごく隔たりを感じたわ。その時に『なんで私はあっち側じゃないんだろう』って思った」
「……」
「私より纏さんの方がよっぽど謙太さんの家族だなって、そう思ったの」
世話を掛けている自覚はあった。
親友だからと甘えていた部分もあった。
そんな頼りっぱなしの情けない自分を守ってくれていたのだと、今の話で謙太は改めて実感した。
「私は家族になれなかった」
寧花は自嘲気味に呟いてから、冷めたコーヒーを飲み干した。
「ただいま」
「おかえり……って、うわ。すげえ荷物」
「いっぱい買ってきた」
帰宅した謙太は両手に大きな買い物袋を持っていた。中には酒瓶や缶チューハイ、つまみがパンパンに詰まっている。前回より量が多い。
夕食と風呂を済ませた後は晩酌タイムとなった。
冷やしたグラスにウイスキーを注ぎ、炭酸水で割る。そのグラスを一気に煽ってから、謙太が酒臭い息を吐き出した。
「本日めでたく離婚が成立しましたッ!」
「……めでたくはないだろ」
一杯目から飛ばし気味の謙太に引きながら、龍之介はつまみを差し出した。空いたグラスをひったくり、次は薄めに作って手渡す。
「ようやく一段落だもんな。お疲れ」
「ん。あとは来週会社で手続きするだけ」
離婚したら速やかに保険や扶養控除の変更などをしなければならない。これに伴い、家族手当の支給が無くなる。残業のない部署に異動となったこともあり、謙太の手取りは以前よりやや減った。しかし、龍之介と住むことで家賃やら何やらの出費が無くなっている。逆に余裕が出来たくらいだ。
「そうだ。寧花から陽色の写真送ってもらったけど見る?」
「見る」
謙太がスマホを操作してメール受信画面を開く。そこには十数枚の陽色の写真があった。二人で顔を寄せ合い、一枚一枚ゆっくりと見ていく。
あの日、寧花が連れ帰って以来だ。
写真を撮る母親に向ける満面の笑顔や昼寝をしている姿、離乳食を食べて口元を汚している様子を見て、龍之介は自然と顔を綻ばせた。
こうして写真を送ってもらえるのも、謙太と寧花が円満に離婚出来たからだ。血の繋がりこそないが、謙太にとって陽色は大切な存在である。自分の子を持つことが出来ない龍之介にとっては、一時親になる経験をさせてくれた特別な存在だ。これから先も成長を見守っていきたいと考えている。
「元気そうでよかった」
「うん」
涙が出そうになるのを誤魔化すように、龍之介もグラスを一気に煽った。そのまま日付が変わっても飲み続け、気付けば二人とも酔い潰れていた。
「あの日、陽色を連れにマンションに行った時のことなんだけどね」
コーヒーのカップを両手で持ちながら、寧花がぽつぽつと話し始めた。
「話し合いの時に纏さんがいたじゃない? あの時、ずっと怖い顔で睨まれてたの。私が謙太さんを傷付けるような真似をしたから、きっと怒ってたのね」
「リュウが?」
当時、謙太は呆然としていて周りがどうだったか一切把握していなかった。ダイニングテーブルで、龍之介は謙太の隣に座っていた。謙太からその表情は見えない。
放心状態の謙太に代わり、寧花に色々問い質したのも龍之介だった。
「テーブルのあっちとこっちで、すごく隔たりを感じたわ。その時に『なんで私はあっち側じゃないんだろう』って思った」
「……」
「私より纏さんの方がよっぽど謙太さんの家族だなって、そう思ったの」
世話を掛けている自覚はあった。
親友だからと甘えていた部分もあった。
そんな頼りっぱなしの情けない自分を守ってくれていたのだと、今の話で謙太は改めて実感した。
「私は家族になれなかった」
寧花は自嘲気味に呟いてから、冷めたコーヒーを飲み干した。
「ただいま」
「おかえり……って、うわ。すげえ荷物」
「いっぱい買ってきた」
帰宅した謙太は両手に大きな買い物袋を持っていた。中には酒瓶や缶チューハイ、つまみがパンパンに詰まっている。前回より量が多い。
夕食と風呂を済ませた後は晩酌タイムとなった。
冷やしたグラスにウイスキーを注ぎ、炭酸水で割る。そのグラスを一気に煽ってから、謙太が酒臭い息を吐き出した。
「本日めでたく離婚が成立しましたッ!」
「……めでたくはないだろ」
一杯目から飛ばし気味の謙太に引きながら、龍之介はつまみを差し出した。空いたグラスをひったくり、次は薄めに作って手渡す。
「ようやく一段落だもんな。お疲れ」
「ん。あとは来週会社で手続きするだけ」
離婚したら速やかに保険や扶養控除の変更などをしなければならない。これに伴い、家族手当の支給が無くなる。残業のない部署に異動となったこともあり、謙太の手取りは以前よりやや減った。しかし、龍之介と住むことで家賃やら何やらの出費が無くなっている。逆に余裕が出来たくらいだ。
「そうだ。寧花から陽色の写真送ってもらったけど見る?」
「見る」
謙太がスマホを操作してメール受信画面を開く。そこには十数枚の陽色の写真があった。二人で顔を寄せ合い、一枚一枚ゆっくりと見ていく。
あの日、寧花が連れ帰って以来だ。
写真を撮る母親に向ける満面の笑顔や昼寝をしている姿、離乳食を食べて口元を汚している様子を見て、龍之介は自然と顔を綻ばせた。
こうして写真を送ってもらえるのも、謙太と寧花が円満に離婚出来たからだ。血の繋がりこそないが、謙太にとって陽色は大切な存在である。自分の子を持つことが出来ない龍之介にとっては、一時親になる経験をさせてくれた特別な存在だ。これから先も成長を見守っていきたいと考えている。
「元気そうでよかった」
「うん」
涙が出そうになるのを誤魔化すように、龍之介もグラスを一気に煽った。そのまま日付が変わっても飲み続け、気付けば二人とも酔い潰れていた。
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