【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢

文字の大きさ
16 / 58

16話・マント男との再会

しおりを挟む


「騎士団の拠点は隣の都市にあるんだよ」
「そっ、そうなんですか」

 翌日やって来たラウリィは騎士団の紋章入りの立派な馬車を伴っていた。
 遠出をするとは予想もしていなかったルーナとティカは若干引いた。しかし、周りの人々から背中を押され、あれよと言う間に馬車に乗せられてしまう。

 街を警備する騎士団の拠点なのだから当然この街の中にあるものだと思い込んでいたが、どうやら違ったらしい。

「騎士団の拠点は王都を中心とした東西南北にある大きな都市に置かれていてね、そこから周辺の街や村に派遣されるんだよ」

 馬車で移動しながら、ラウリィが騎士団について解説を始めた。

 貴族の魔力で居住区域を守るアルケイミアとは違い、シュベルトでは騎士団が武力で魔獣から民を守っている。毎日休まず管轄地域を巡回していると聞き、ルーナは感心した。ティカは元々知っていたので特に驚きはせず、黙って説明を聞いている。

「本来は十数人で隊を組んで任務に当たるんだけど、君が助けたあの男は一人で動く癖があってね。ちょっと困ってるんだ」
「まあ」
「気が早いというか短気というか。まあ、彼が迅速に動いたおかげで救われた人も少なくないから一概に悪いわけじゃないけど」

 彼の言葉の端々から友人を心配する気持ちが垣間見えた。マントの男はきっと良い騎士に違いない、とルーナは思う。

 一時間ほど街道を走った先に大きな都市があった。外周は背の高い石壁で囲まれ、出入りできるのは大きな開閉式の門のみ。騎士団の馬車は検問で止められることなくそのまま都市の中へと入っていった。

 窓の外に流れてゆく活気のある街並みを興味津々で眺めるルーナの姿を、ラウリィは微笑ましそうに見守っている。

「この都市に来たのは初めて?」
「はい、見たことのないものばかりで」
「よければ後で案内しようか」
「あ、いえっ。ご用事が終わりましたらすぐ戻りますので!」

 快く送り出されたとはいえ、ティカは定食屋の仕事を休み、ルーナも針仕事を置いてきている。ゆっくり遊ぶわけにはいかない。送り迎えに騎士団の馬車を使うのなら尚更だ。

 しばらく大通りを進んだところで馬車が止まった。目的地である騎士団の拠点に到着したのだ。周辺は広く空けられており、馬や馬車が通りやすくなっている。

、足元に気を付けて」
「ありがとう、大丈夫よ」

 ティカは人前ではルーナのことを『ルウ』と呼ぶ。本名で呼べば追っ手に見つかる可能性がある。もっとも、気を付けていたにも関わらずあと少しのところで捕まるところだったのだが。

「わあ……!」

 馬車から降りたルーナは目の前の建物を見上げて感嘆の息を漏らす。騎士団の拠点は石造りの大きな建物だった。

「さ、どうぞお嬢さんがた」

 先に降りたラウリィが扉を開けて二人を招き入れた。内部の造りは飾り気がなく簡素だが、隅々まで手入れが行き届いていて清潔感がある。板張りの廊下を進むと、時折すれ違う騎士たちから明るく声を掛けられた。緊張するルーナの代わりにティカが笑顔で応える。
 先導しながら、ラウリィはそんな二人の様子を密かに観察していた。

 二階の奥にある部屋の扉をノックすると、中から「入れ」と声が聞こえてきた。その声があまりにも不機嫌そうだったので、ルーナとティカは思わず顔を見合わせた。扉を開け、ラウリィは室内に入っていく。

「おまえの恩人を連れてきたぞ」
「……ああ」

 恐る恐る、ルーナたちも室内へと入る。
 この部屋はどうやら執務室のようだ。窓際に大きな机、左右の壁には天井高の書棚がある。手前にはソファーとテーブルがあり、数人で歓談できる場所となっている。

 ラウリィに勧められるままにソファーに座ると、向かいにリヒトと呼ばれた青年が腰を下ろした。鋭い目がルーナを射抜く。焦茶の髪は後ろに撫で付けられ、のりの利いたシャツをきっちり着込んでいる。

 先日路地裏で会った薄汚れたマントの男と目の前の青年が同一人物とは思えず、ルーナは戸惑った。



しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完】瓶底メガネの聖女様

らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。 傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。 実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。 そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

処理中です...