【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢

文字の大きさ
115 / 118

115話・彼の選択肢

しおりを挟む


 マーセナー家から辞した僕たちは中心街にあるバルネア様の家に戻り、今回の件を報告した。

「そうか、うまく話がついたか!」
「思わぬ問題もあったが、もう大丈夫だろう」

 思わぬ問題とは、ヘルツさんがゼルドさんとアンナルーサ様に媚薬を盛ろうとした件と、跡取りの赤ちゃんに危害を加える意思を持っていた件だ。あと、僕を買収しようとした件も。
 オクトでのことを反省して心を入れ替えてくれていれば、今回は誕生祝いを兼ねた単なる帰省で終わるはずだった。でも、更なる強行手段に出ようとしたため、ついにヘルツさんは拘束された。どういう処分を下すのかはフォルクス様次第だけど、従者として側に置くことだけは二度と無いだろう。

「そういえば、どうしてこんな大事なものを僕に預けたんですか。何も知らなかったのでびっくりしました」

 ループタイを指さして問うと、バルネア様がカラカラと笑った。

「グラウス家の紋章を身につけていれば、マーセナー伯爵夫人は必ず君を守ってくれると思ってな。彼女は貴族の紋章や家族構成を全て把握しているし、俺の姉とも仲が良いから」
「そうでしたか」

 確かに、アンナルーサ様は僕を『大事なお客様』として扱ってくれた。ヘルツさんから心無い言葉を言われた時も本気で怒ってくれた。そうなるようにバルネア様が根回しをしていたのだ。

 借りていた服を脱ぎ、いつもの服に着替えると、ようやく緊張が解れた。ずるずるとソファーにへたり込み、溜め息をつく。

「まあ、大丈夫?疲れたの?」
「すみません、気疲れしちゃって」
「気持ちは分かるわ~。わたしも主人の実家に行くとすっごく肩が凝るもの。仲は良いんだけど、どうしてもね」

 バルネア様の実家は侯爵家だ。緊張どころの話ではない。

「あの、お洋服すごく着心地良かったです。ありがとうございました」
「それなら良かった!今日着た服はそのまま差し上げるわ」
「いえっ!こんな立派な服いただけません」
「気にしないで。わたしが趣味で作ったものだから、受け取ってもらえたら嬉しいのだけど」
「じゃあ、ありがたく頂戴します」

 僕のサイズに合わせて調整したのだから売り物に回せない。下手に遠慮するのも逆に失礼かと思い、受け取ることにした。

 そのまま奥さんと裁縫についての話で盛り上がった。僕は簡単な繕いものしかしないけど、ゼルドさんの鎧の下に着る服を改造した話や汗取り布の話をしたら、奥さんは興味深そうに聞いてくれた。

「ライルくん、うちの店で針子しない?手先が器用そうだし、発想力もあるし、即戦力になりそう」
「無理ですよ、そんな」

 しばらく談笑していたら、不意にバルネア様が真剣な表情でゼルドさんに向き直った。

「それで、おまえはこれからどうする」
「また旅に出るつもりだ」

 問われたゼルドさんは迷いなく答えた。
 しかし、バルネア様は引き下がらない。

「騎士に戻る気は?」
「とっくに辞めた身だ。考えてはいない」
「冒険者としての活躍は噂に聞いている。騎士時代より更に強くなったのだろう?問題だった聴力も回復しているようだし、おまえが望むならすぐにでも団長に話を通すが」

 二人の話を聞くうちに胸が苦しくなった。
 僕が一番恐れていたのは、ゼルドさんが冒険者をやめて騎士に戻ること。そうなればずっと一緒にはいられない。今の鎧ではなく騎士の鎧を装備するようになれば『対となる剣』の意味がなくなり、支援役ぼくごと不要になる。

「しつこいぞ、バルネア」
「そう言うなよ。ホネのある者がいなくて困ってるんだ。ゼルディスには若い騎士の規範となってもらいたい」

 僕は十年前騎士団によって救われた。
 ゼルドさんが復帰すれば、きっと立派な騎士になる。多くの人の助けとなるはずだ。もしその道を選ぶのなら、笑顔で応援しなくては。

「あら、どうしたの」
「ごめんなさい。お手洗い借ります」

 なんとかゼルドさんを口説き落とそうとするバルネア様の言葉を聞きたくなくて、理由をつけて客間から飛び出した。廊下の突き当たりでうずくまり、涙を堪える。

 今日、彼は何度『ゼルディス』と呼ばれただろう。そっちが本当の名前で、『ゼルド』は冒険者としての通称なのだと分かっている。でも、オクトで出会った時からゼルドさんはゼルドさんだ。貴族の『ゼルディス』じゃない。

「……ゼルドさん……」

 自分にも聞き取れないほどの小さな声で彼の名前を呼ぶ。もし冒険者をやめたら、この名前も無くなってしまうのかと思うと悲しくなった。

 僕が望めば、ゼルドさんは自分の意志を曲げてしまう。それだけはダメだ。

「ライルくん」
「うわ」

 急に後ろから声を掛けられ、びくりと肩を揺らす。振り向けば、ゼルドさんが心配そうな表情でうずくまる僕を見下ろしていた。

「なかなか戻らないからどうしたのかと。気分が悪いのか」

 どうやら僕は随分と顔色が悪いようだ。精神的にも疲れているし、絶好調とは言い難い。本音を言えば、早く宿屋に帰りたい。でも、久しぶりに再会した友人との語らいを中断させたいわけじゃない。

「ゼルドさん、僕……」

 どうしたらいいか分からず視線を伏せる僕のそばに膝をつき、ゼルドさんが頬に触れた。大きな手のひらに労わるように撫でられて、少しだけ心の重石が軽くなる。

「今日は無理をさせてしまった。早く休まねば」
「でも、バルネア様とのお話は」
「構わん。君のほうが大事だ」

 そう言って、ゼルドさんは僕に手を貸して立たせてくれた。

 客間に戻って帰る旨を伝えると、バルネア様も奥さんも必死になって引き止めてきた。

「夕食くらい食べていってよ~!」
「なんなら泊まってもいいんだぞ」
「いや、その気持ちだけで十分だ」

 二人の協力と気遣いに心から感謝して、僕たちは宿屋へと戻った。

しおりを挟む
感想 220

あなたにおすすめの小説

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。 万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。 女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。 軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。 「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。 そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。 男同士の婚姻では子は為せない。 将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。 かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。 彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。 口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。 それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。 「ティア、君は一体…。」 「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」 それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。 ※誤字、誤入力報告ありがとうございます!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...