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7話・半魔族とは人間と魔族の混血である
しおりを挟む半魔族とは人間と魔族の混血である。ごく稀に大断絶を乗り越えた魔族が人間の女を拐かし、無理やり犯して孕ませるのだ。生まれた子は魔族との混血。尖った耳や獣のような瞳孔、浅黒い肌などの外見的な特徴を持つ。純粋な魔族には劣るが魔力を持ち、鍛えれば魔法を使えるようになる。
誕生の経緯を考えれば忌み嫌われて当然の存在だが、グレフ神の教えでは『保護すべし』とある。道徳的な観点からの人権保護ではない。迫害された半魔族が徒党を組むことを恐れたからである。半魔族は発見次第、各地の教会を通じて聖都に移送して保護施設に収容、奉仕活動に従事させられる。居住区域では男と女は隔離されるが、これは魔族の血を引く者を増やさぬための措置である。半魔族に生まれてしまった以上、聖都の保護施設以外に安心して暮らせる場所はない。
聖都や大都市ではまず有り得ないが、大断絶近くでは年に数件ほど半魔族の子が発見される。親が届け出ることは稀で、大抵は路地裏や集落の外に捨てられているところを見つける場合が多い。半魔族の子は普通の人間より体力があり、簡単には死なない。乳飲み子のうちに捨てられてもほとんどが生きて保護されているという。
ちなみに俺も半魔族だ。記憶がないからどうやって生きていたのかわからない。ギルが確認してくれたのだが、聖都の保護施設にいたという記録はなかった。きっと生みの親に捨てられてから食料や服なんかを盗んだり奪ったりしながらひっそり暮らしていたのだろう。ギルに保護された時の俺はひどい怪我を負っていたらしいから、ヘマをして捕まって暴行を受けたんだと思う。たぶん。
「いいですか。絶対にフードを外してはいけませんよ。あと、ひと言も喋らないでください」
「わーってるって」
昨夜の打ち合わせ通り、バルプルドの代表に半魔族であると気付かれないように正体を隠して同行する。結界強化が終わるまで町の外で待っていても良かったんだが、ギルが「一緒がいい」と駄々をこねまくるので折れた。……俺、コイツのワガママに振り回され過ぎじゃないか?
事前に身支度を整えてから、俺たちは門番に身分証代わりの首飾りを見せて町の中へと入れてもらった。
中心に石造りの教会がそびえ立ち、周りを囲むように家が建てられている。畑と家畜小屋もある。辺境にある集落は大体どこも似たような作りをしているが、ランバードとは違い、どことなく空気が張り詰めているように感じた。案内役の門番の後について通りを歩くうちに暗い表情の住民たちが目に付いた。
教会の隣に建つ大きな屋敷がバルプルドの代表の自宅だという。門番が客人の来訪を告げると、しばらくして玄関の扉が開かれ、中へと招かれた。磨き抜かれて艶のある板張りの廊下を進むと、執務室らしき部屋に通される。
「いやあ、よくお越しくださいました。私はゼレニス。この町の代表をしております」
バルプルドの代表ゼレニスは恰幅のよい中年男で、上質な衣服で身を包んでいる。言葉遣いは丁寧だが高圧的な空気がある。正直ニガテなタイプだ。
「ギルバート・アーネストです。結界の強化のために参りました。早速教会に伺いたいのですが」
さっさと仕事を済ませて退散するつもりなので、ギルはすぐに本題に入る。ところが、ゼレニスが待ったをかけた。
「まあまあ、旅の疲れもあるでしょうし、まずはお茶でも飲んでゆっくりしてください」
「え、ちょっと、ゼレニスさん」
いきなりギルの手を握って引っ張り、執務室の隅にある二人掛けソファへと座らせるゼレニス。間を置かず、使用人の女が茶を運んできたため、ギルは仕方なく腰を下ろした。『隣に座って』と目配せされたが、その前にゼレニスがギルの隣にどかりと座った。普通なら向かいのソファに座るべきところを、まさかのゼロ距離。あまりの近さに驚いたギルが端に体をずらしている。
「いやはや、この辺りは田舎過ぎて驚かれたのではありませんか。アーネスト様は生まれも育ちも聖都でしょう? 私も聖都には何度か行きましたが、辺境に帰るのが嫌になるほどでしてねェ」
「そ、そうなんですね」
「実は、この茶葉は聖都近郊のものをわざわざ取り寄せているのですよ。行商の馬車が頻繁に来てくれればもっと仕入れられるのですが」
自分の治めるバルプルドの町を卑下するゼレニス。ギルは肯定も否定もせず、ただ曖昧に笑って聞き流している。へたに口を挟めば話が長くなりそうだと本能で察しているらしい。
ちなみに、ゼレニスは俺の存在を最初からずっと無視している。わざとではなく自然と。高貴な身分であるギルにしか興味関心がないのだとすぐにわかった。
お茶出しを終えた使用人の女が「よろしければ隣の部屋で休憩を」と小声で話しかけてきたので、俺はそのまま執務室から出た。ゼレニスに絡まれているギルを置いていくのは気が引けたが、荷袋を背負ったまま立ちっぱなしで待機し続けられるほどの元気はない。バルプルドに着くまでにずっと街道を歩いてきて疲れている。
隣の部屋は執務室に比べて狭く、内装はかなり質素だった。客が連れてきた従者や使用人のための控え室のようだ。荷物を下ろして座れるなら多少椅子がボロくても構わない。使用人の女が俺にも茶を出してくれたので、頭を下げて感謝の意を伝える。下手に喋るとボロが出るから黙っていろ、とギルから指示を受けていたからだ。
「ごゆっくりどうぞ」
使用人の女の退室を確認してから外套を脱いだ。雨風をも凌ぐ革製の外套は分厚くて重い。町から去る時まで着続けていたくはない。誰も見ていないうちに脱いで開放感を味わいたかった。他者が近付く気配を察知するくらいはできる。誰かが来たら着直せばいい、そんな風に考えていたのだが……。
中庭に面した窓の向こう、低木の茂みに何かが動いているのが見えた。なんだろう、と窓辺に近寄ってみると、茂みにいたのは五、六歳くらいの少年だった。辺境の町に外部の人間は滅多に訪れない。恐らく客人であるギルを見に来たのだろう。執務室側の窓のほうをキラキラした瞳で見つめている。
「あっ」
しかし、茂みから頭を出した少年を見た瞬間息を飲んだ。耳の先端が尖っている。
間違いない、俺と同じ半魔族だ。
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