【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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8話・半魔族は差別対象であり保護対象である

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 屋敷の中庭にいた少年は半魔族だった。少年は植え込みの中に隠れていたのだが、客人の姿を見たい一心で身を乗り出している。このままでは誰かに見つかってしまうのではないかと心配になり、思わず窓辺に近付いた。

 その時、あちらが俺の存在に気が付いた。反射的に茂みに引っ込むが、視線はこちらに向けられたまま。知らない人間に興味があるようで、ジロジロと観察されている。そして、少年が驚きの表情で俺を指さした。失礼な、と思いながらふと我にかえる。

「やっべ」

 俺はいま外套を脱いでいる。つまり、少年が指さしているのは、あらわになった俺の尖った耳なのだ。

 慌てて外套を着直し、フードを目深にかぶって耳を隠す。少年は身を隠すことすら忘れ、俺に釘付けとなっていた。体は茂みから半分以上出ている。服はボロボロ、顔や手足は泥まみれだ。

「なにをやっている! 早く捕まえろ!」

 そんな時、隣の執務室から怒声が聞こえてきた。声の主はゼレニスだ。壁を隔ていても聞こえたということは当然窓の外にも聞こえている。少年は再び茂みに隠れようとしたが、その前に使用人の男たちが中庭に駆け込んできた。それぞれ木の棒や縄を持ち、茂みを取り囲んでいる。逃げ道を塞がれた少年は数分も経たないうちに捕まってしまった。

 俺は窓越しに一部始終を見ていた。縄でぐるぐる巻きにされ、連行されていく少年がすがるような目をこちらに向けている。助けを求めているのではない。瞳には同族に会えた喜びが満ちているように見えた。

 半魔族の少年が現れてからのゼレニスはとにかく不機嫌だった。開け放した窓から顔を出し、大きな声で使用人たちに指示を出している。騒ぎに乗じて執務室に戻ると、ギルが不安げな表情で窓の外を見つめていた。

「ギル」
「レイ」

 声をかけると、ギルはすぐに笑顔で振り向いた。

「半魔族の子どもが見つかったらしいな」
「ええ。ゼレニスさんがものすごい剣幕で怒り始めたのでびっくりしてしまいました」
「普通はああいう反応になるだろ」

 半魔族とは人間と魔族の間に生まれた混血児で、差別や迫害の対象となるため歓迎されない。ほとんどが生後すぐに捨てられる。運良く生き残った場合は聖都にある保護施設送りとなり、閉ざされた環境下で死ぬまで奉仕活動に従事することを義務付けられる。

 よりにもよって、ギルという賓客を迎えている時に見つかっている。ゼレニスからすれば、自分の顔に泥を塗られたのと同じだ。果たしてあの少年は無事でいられるのだろうか。

「いやあ、お騒がせいたしました。門番が見落としたんですかな。どこからか潜り込んできたようで」

 しばらくして、ゼレニスがギルのそばに戻ってきた。さっきまでの剣幕はどこへやら、今は笑顔を浮かべている。聞いてもいないうちから弁解じみた発言を繰り返していて、自分のミスではないと主張しているようだった。

 再び隣に座ろうとしたゼレニスを、ギルが立ち上がって制する。

「そろそろ教会へ参りましょう。結界装置の状態を見せてください」
「……わかりました。では案内しましょう」

 ゼレニスはまだまだ話し足りなそうだったが、ギルは既に辟易していたらしい。俺を伴い、さっさと執務室から出て行った。

 教会は屋敷の隣にある。内部の構造はどこもほとんど変わらない。案内などなくても問題ないが、一応ゼレニスの顔を立てて先導してもらう。

 ランバードの時と同じ手順でグレフ神の像を開き、内部の水晶玉を取り出して確認する。

「もしや、最近結界の強化をしたばかりですか?」
「ええ、実は先月聖都に行ったばかりでして。せっかくですから、アーネスト様にも血をいただけたらと思います」

 ギルの問いに、悪びれる様子もなくゼレニスが答えた。コイツはなにかと理由をつけては聖都や大都市まで直接出掛けているようだ。結界強化のためだといえば住民は反対できない。しかし、結界装置であるグレフ神の像を持ち出せば、その間バルプルドの安全が脅かされる。どちらにせよ住民は安心して暮らせないのではないか。

 ちなみに、ギルがこの辺りの町に訪れると決めた理由は教会本部にある記録を見たからだ。しばらく結界の強化ができていない集落が多い地域を中心に選んでいる。旅に出たのが二ヶ月前。バルプルドに来訪予定の連絡を入れたのが半月ほど前。まあ、この町には結界強化のためだけに来たわけではないので問題はない。

 そんなこんなで結界の強化を終えると、ひとしきり感謝の言葉を繰り返してからゼレニスが屋敷へと誘った。ランバード同様バルプルドにも宿屋はなく、代表の屋敷に泊まる以外の選択肢はない。ギルは誘いに乗り、ゼレニスの屋敷で一晩世話になることにした。

 案内されたのは広い客室で、やはり従者用の小部屋が隣接されている。ギルを客室に残し、俺はそちらの部屋に入った。今日ギルが「一緒に」と言わなかった理由は、ゼレニスが半魔族に対して嫌悪感を抱いているからだ。もし俺が半魔族だと発覚すれば面倒なことになる。

 それにバルプルドに着く前に話していた、ゼレニスが半魔族の子どもに暴行を加えているという噂が真実かどうか確かめねばならない。昼間に中庭で捕まった少年の様子も気になる。ゼレニスがギルをもてなしている間に俺が屋敷を抜け出して調べる、という手筈になっている。

「さーて、どこから調べるかな」

 用意された食事を食べ、使用人が片付けをして部屋から出て行ったのを確認してから内側から鍵をかける。窓を開け放ち、音もなく中庭の芝生の上に降り立つ。そのまま気配を消し、屋敷の裏手へと回り込んだ。


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