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10話・過ぎた欲望は身を滅ぼす一因となる
しおりを挟む屋敷の敷地内にある物置き小屋の中で対峙するギルとゼレニス。先ほどから半魔族の子どもの声が聞こえないところをみると、恐らく気を失っているのだろう。俺は小屋の外で二人のやり取りを盗み聞いている。もしギルに危険が及ぶようなら、たとえ正体がバレても間に割り込むつもりだ。
「アーネスト様が悪いのですよ。聖都の話を聞かせてくださいと頼んでいるのに、あなたはこのくそガキのことばかり訊ねて」
客室で話をしていたはずなのに急に物置き小屋に来たからどうしたのかと思ったが、ギルがしきりに半魔族の子どもの安否を気にしていたからだったのか。
大陸の中心地、美しく華やかな聖都で生まれ育ったギルはゼレニスの憧れ。だからこそ、ギルが半魔族に関心を持つこと自体が許せないのだろう。
「ゼレニスさん、あなたは必要以上に聖都に行き来していますよね。結界強化のため以外に、保護した半魔族の子どもを送り届けるために。近くの都市で役人に預ければ済む話なのに、わざわざご自分で」
「そりゃあ、私はバルプルドの代表ですから。責任を持って送り届ける義務があります!」
「おかしいですよね。半魔族を嫌悪しているあなたが、わざわざ半魔族と聖都まで長距離移動をするなんて」
辺境から聖都までは馬車を使っても片道一週間、途中の町に泊まるなら更に数日かかる。差別対象とずっと一緒にいて平気でいられるとは思えない。
聖都への訪問頻度が高い理由は、ゼレニスが聖都に憧れているからだ。だが、他にもっと大きな問題があるとギルは考えている。それは、バルプルドの住民の安全が脅かされる恐るべき企みでもあった。
「あなたはグレフ神の像を持ち出してバルプルドの町を結界の庇護から外していますよね。二年に一度、聖都までの往復を考えれば半月から一月くらいの間、バルプルドの住民は魔物や魔族の襲撃に怯えて暮らすことになります」
結界を強化するためという大義名分がある限り住民は逆らえない。お願いしますと頭を下げて送り出すほかない。ゼレニスが戻るまでは門を固く閉ざし、町を守らねばならない。
しかし、結界の空白地帯があれば当然魔物が狙う。時には魔族が来ることもあっただろう。どんなに気を付けていても事件は起こるものだ。
「わざと魔族を呼び寄せ、町の女性を襲わせて半魔族を産ませていたのではないですか。そうでなければ、ここまで頻繁に一つの町から半魔族の子どもが見つかるはずないのです」
「不幸な事故が続いただけですよ。たまたま半魔族を数年続けて見付けただけです。バルプルドはご覧の通り辺境……魔族の領域の近くにありますから、そりゃあ他に比べたらどうしても件数は増えますよ」
旅に出る前、ギルは保護施設の記録を調べていた。いつどこで発見し、誰が連れてきたのか。健康状態などもしっかり記載されている。中でもバルプルドでの発見件数は突出していた。結界強化を急ぐ必要はないが、内情を確かめておきたいとギルが望んだ。ただ、直前まで俺に気を使って躊躇していたが。
「半魔族の子どもを連れていれば聖都に行く理由になります。あなたは聖都に行きたいがために自分が治める町の住民の安全を犠牲にしてきた。違いますか?」
今回バルプルドに来た真の目的は、ゼレニスによる悪事を暴くことだった。
ギルに指摘されたゼレニスは口の端を歪めて不気味な笑みを浮かべていた。笑ってはいるが、顔は引きつり、眉が痙攣している。
「アーネスト様にはわからないでしょう。こんな町に生まれてしまったばかりに、死ぬまで辺境暮らしを強いられる私の気持ちなど! それなのに、半魔族は聖都に住めるだと? フザけた話だ! あんな下等な種族がどうして私を差し置いて聖都に!」
ゼレニスは一方的な妬みから半魔族の子どもに暴行を繰り返していた。馬鹿な男だ。保護施設に入れられた半魔族が自由に聖都を出歩けるわけではないと知っているだろうに。生まれた瞬間から破滅の未来が決まっている相手を妬むなど愚かにもほどがある。
「アーネスト様は私を罰するために来たのですか? 護衛を置いて、たった一人で屋敷の外れまで? こんな細い体で私に勝てると思いましたか。それとも、私が逆らわないとでも思いましたか」
「ゼレニスさん、なにを」
「本当はこうされるのを期待していたのでは? だからわざと無防備な姿で人目につかない場所で私を挑発したのでしょう。ふふ、あなたが望むなら抱いてさしあげますよ」
虫唾が走る言葉を平然と口にするゼレニス。コイツはギルを手篭めにして脅し、罪を有耶無耶にさせるつもりか。
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