【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

文字の大きさ
10 / 94

10話・過ぎた欲望は身を滅ぼす一因となる

しおりを挟む

 屋敷の敷地内にある物置き小屋の中で対峙するギルとゼレニス。先ほどから半魔族の子どもの声が聞こえないところをみると、恐らく気を失っているのだろう。俺は小屋の外で二人のやり取りを盗み聞いている。もしギルに危険が及ぶようなら、たとえ正体がバレても間に割り込むつもりだ。

「アーネスト様が悪いのですよ。聖都の話を聞かせてくださいと頼んでいるのに、あなたはこのくそガキのことばかり訊ねて」

 客室で話をしていたはずなのに急に物置き小屋に来たからどうしたのかと思ったが、ギルがしきりに半魔族の子どもの安否を気にしていたからだったのか。

 大陸の中心地、美しく華やかな聖都で生まれ育ったギルはゼレニスの憧れ。だからこそ、ギルが半魔族に関心を持つこと自体が許せないのだろう。

「ゼレニスさん、あなたは必要以上に聖都に行き来していますよね。結界強化のため以外に、保護した半魔族の子どもを送り届けるために。近くの都市で役人に預ければ済む話なのに、わざわざご自分で」
「そりゃあ、私はバルプルドの代表ですから。責任を持って送り届ける義務があります!」
「おかしいですよね。半魔族を嫌悪しているあなたが、わざわざ半魔族と聖都まで長距離移動をするなんて」

 辺境から聖都までは馬車を使っても片道一週間、途中の町に泊まるなら更に数日かかる。差別対象とずっと一緒にいて平気でいられるとは思えない。

 聖都への訪問頻度が高い理由は、ゼレニスが聖都に憧れているからだ。だが、他にもっと大きな問題があるとギルは考えている。それは、バルプルドの住民の安全が脅かされる恐るべき企みでもあった。

「あなたはグレフ神の像を持ち出してバルプルドの町を結界の庇護から外していますよね。二年に一度、聖都までの往復を考えれば半月から一月くらいの間、バルプルドの住民は魔物や魔族の襲撃に怯えて暮らすことになります」

 結界を強化するためという大義名分がある限り住民は逆らえない。お願いしますと頭を下げて送り出すほかない。ゼレニスが戻るまでは門を固く閉ざし、町を守らねばならない。

 しかし、結界の空白地帯があれば当然魔物が狙う。時には魔族が来ることもあっただろう。どんなに気を付けていても事件は起こるものだ。

「わざと魔族を呼び寄せ、町の女性を襲わせて半魔族を産ませていたのではないですか。そうでなければ、ここまで頻繁に一つの町から半魔族の子どもが見つかるはずないのです」
「不幸な事故が続いただけですよ。たまたま半魔族を数年続けて見付けただけです。バルプルドはご覧の通り辺境……魔族の領域の近くにありますから、そりゃあ他に比べたらどうしても件数は増えますよ」

 旅に出る前、ギルは保護施設の記録を調べていた。いつどこで発見し、誰が連れてきたのか。健康状態などもしっかり記載されている。中でもバルプルドでの発見件数は突出していた。結界強化を急ぐ必要はないが、内情を確かめておきたいとギルが望んだ。ただ、直前まで俺に気を使って躊躇していたが。

「半魔族の子どもを連れていれば聖都に行く理由になります。あなたは聖都に行きたいがために自分が治める町の住民の安全を犠牲にしてきた。違いますか?」

 今回バルプルドに来た真の目的は、ゼレニスによる悪事を暴くことだった。

 ギルに指摘されたゼレニスは口の端を歪めて不気味な笑みを浮かべていた。笑ってはいるが、顔は引きつり、眉が痙攣している。

「アーネスト様にはわからないでしょう。こんな町に生まれてしまったばかりに、死ぬまで辺境暮らしをいられる私の気持ちなど! それなのに、半魔族は聖都に住めるだと? フザけた話だ! あんな下等な種族がどうして私を差し置いて聖都に!」

 ゼレニスは一方的な妬みから半魔族の子どもに暴行を繰り返していた。馬鹿な男だ。保護施設に入れられた半魔族が自由に聖都を出歩けるわけではないと知っているだろうに。生まれた瞬間から破滅の未来が決まっている相手を妬むなど愚かにもほどがある。

「アーネスト様は私を罰するために来たのですか? 護衛を置いて、たった一人で屋敷の外れまで? こんな細い体で私に勝てると思いましたか。それとも、私が逆らわないとでも思いましたか」
「ゼレニスさん、なにを」
「本当はされるのを期待していたのでは? だからわざと無防備な姿で人目につかない場所で私を挑発したのでしょう。ふふ、あなたが望むなら抱いてさしあげますよ」

 虫唾が走る言葉を平然と口にするゼレニス。コイツはギルを手篭めにして脅し、罪を有耶無耶にさせるつもりか。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】 公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。 「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」 世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!! 【謎多き従者×憎めない悪役】 4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。 原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし

ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。

一片澪
BL
※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。 衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。 これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

転生執事は氷の公爵令息の心を溶かしたい【短編】

堀川渓
BL
事故で命を落とし、目覚めたそこはーー生前遊んでいた女性向け恋愛ゲームの世界!? しかも最推し・“氷の公爵令息”セルジュの執事・レナートとして転生していてーー!! 短編/全10話予定

処理中です...