【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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20話・差別意識は全ての人間が持っている

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 馬車に揺られてやってきたのは先ほど辞したばかりの教会に隣接している立派な屋敷だった。通りに面した正門をくぐり抜けると花々が咲き乱れる庭園が広がっている。俺たちは屋敷の前で馬車から降ろされた。

「さあ、中へどうぞ。フィッツ様がお待ちです」

 遣いの男が先導し、応接間へと通された。大きな窓から夕陽が差し込み、室内にいた人物を照らしている。長い金の髪、赤い瞳を持つ若い男が俺たちを待ち構えていた。

「久しぶりだな、ギルバート」
「あなたも相変わらず元気そうですね、フィッツ」

 思い出した。コイツはフィッツ・ラウール。ギルと同じでグレフ神の血を引いている。旅に出る前、聖都で何度か顔を合わせたことがある。遣いの男ともその時に会っているから記憶の隅に残っていたのだろう。もっとも、俺は直接フィッツと話したことはないが。

「物資の補給のためカダロードに立ち寄ってみれば、ちょうど君が来ていると伯父上が教えてくださったのでな。入れ違いにならずに済んで良かった」

 コイツはイムノスの末妹の息子、つまりイムノスから見れば甥に当たる。

「カダロードに寄る予定はなかったんですけどね」
「偶然ではない。これもグレフ神の導きであろう」
「そんな戯言はともかく、私たちを呼び出した理由はなんでしょう。まさか顔が見たいというだけではありませんよね?」

 フィッツの言葉を素っ気なくかわし、ギルは話を先に進めようとする。しかし、そううまくはいかなかった。

「詳しくは食事の後に酒でも酌み交わしながら話そう。もうすぐ伯父上が教会から帰ってこられる頃合いだ。たまには付き合え」
「はあ」

 消極的なギルに有無を言わさず強引に予定を決めていくフィッツ。ちなみに、この場には俺もいるが目も合わない。敢えて無視をしているのではなく、コイツには興味のあるものしか見えていないのだ。当然食事の場に俺の席はない。

「レイ」
「いいよ、待ってる」
「すみません」

 軽く詫びてから、ギルは食堂へと案内されていった。控えの間に通された俺にも食事が運ばれてくる。使用人の女たちはびくびくした様子で離れた場所に料理が載った皿を置き、逃げるように退室していった。半魔族に対する態度としてはマシな部類だ。

「うん、うまい」

 用意された食事は普通に美味かった。わざわざ半魔族用にマズいものを作るほどの差別意識がない、というより今回の食事会自体が急遽決まったからだろう。肉も野菜も上等な品を使っている。

 だが、たった一人で食べる食事は味気なかった。辺境の旅路ではいつもギルが一緒にいたし、ここ数日はテオもいた。ロクな食材がなくても美味く感じた。

 どれくらいの時間が経ったのか、食事を終えてしばらくしてから遣いの男がやってきた。正直一人で時間を潰すのも限界があるので、話し相手がやってきたと思えばありがたい。

「もう話は終わり? ギルは?」
「まだイムノス様やフィッツ様とご歓談中です」
「あっそ。で、なんか用?」
「あなたにも酒を振る舞うよう指示されましたので」
「へえ?」

 使用人たちが食事の片付けをして、酒瓶とグラスを置いてそそくさと出ていった。遣いの男はまだ控えの間に残っている。仲良く酒を酌み交わすつもりはないようで、扉のそばで腕を組んで立っている。

「……なんだよ。見張りのつもりか?」
「いえ。ただ、ギルバート様がなぜあなたのような者をそばに置くのか理解できず、この機会に観察しているのです」

 観察という言葉にカチンときたが、怒り狂うほどではない。現に、料理にも酒にも毒は仕込まれていなかった。本当に差別している奴は平気で生ゴミや毒を喰わそうとするものだ。だから普段は外套のフードで耳を隠し、周りに半魔族だと悟られないようにしている。

 だが、コイツらは俺が半魔族だと最初から知っている。ギルがどうしても俺を連れていくと我が儘を通したからだ。旅に出る前に散々揉めたのだと後になってから聞いた。

「んで? 俺を観察してなにかわかったかよ」
「正直言って、ギルバート様があなたを重用する理由はわかりません。我らの基準からは外れていることは確かなのですが」
「ホンットに正直だな」

 確かに、グレフ神の末裔という希少な存在のそばに半魔族を置いておくのは教会側からしても良い気はしないと思う。裏切って寝首を掻くかもしれないと疑っているのではない。ただ単純に気に食わないのだろう。

「ギルバート様だけでなくイムノス様までもがあなたの存在に寛大でいらっしゃる。尊い方々のお考えは我ら凡人には計りかねます」
「あっそ」

 イムノスはギル寄りの柔軟な思考をしていて、フィッツはやや差別意識が強い。直属の部下であるコイツの思考はフィッツ寄り。珍しいのはギルとイムノスのほうで、ほとんどの人間は差別意識を持っている。

「ですから、本日フィッツ様はギルバート様に進言なさるつもりなのです。半魔族ではなく信頼できる供にするように、と」


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