【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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23話・どんな人間にも地雷が存在する

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 その日はイムノスの屋敷に泊まることになった。壁を壊した詫び代わりに少しは付き合え、滅多に会う機会がないのだからたまには積もる話をしよう、と押し切られた形だ。宿屋の部屋に置きっぱなしの荷物はイムノスの使用人が回収していた。ついでに旅に必要なものがあれば手配してくれると言うので幾つか頼んでおく。

 食後の酒の席が騒ぎで有耶無耶になったので、改めて仕切り直された。もちろん今度は俺も同じテーブルを囲んでいる。これ以上壁を壊されないための配慮であり、決して俺の立場が良くなったわけではない。フィッツは「半魔族が同席するなど信じられん」とブツブツ言っているが無視だ。

「ギルバートよ。研究の成果は壁の破壊だけではなかろう。他にはなにができるのだ?」

 グラスを傾けながらイムノスが問う。

「色々できますよ。例えば、先ほどイムノス様たちが怪我を負わなかった理由は私が簡易防御結界機能のあるものをテーブルに置いていたからです」

 言いながら、ギルは懐から小さな塊を取り出してみせた。指でつまめる程度の大きさの白く滑らかな物質に細かな紋様が刻み込まれている。よく見れば繋ぎ目があり、二つに分解できる。

「発動すると両の腕を伸ばした範囲を一時的に外部の衝撃から守る結界が発生します。動力源は私の髪です」
「髪だと? 血ではなく?」
「素材との相性なのか、血ではいまいちでして」

 驚くイムノスとフィッツに平然と答えるギル。

「そもそも、この素材はなんなのだ? 妙に軽いが石とは違うようだ」

 白い塊を手に取り、フィッツが不思議そうに首を傾げた。

「骨ですよ。レイが倒してくれた魔物の死骸を私が解体して、加工に適した部位を選んで使っています」
「なんだと?」

 魔物の骨と聞き、フィッツは慌てて白い塊をテーブルの上に放り投げた。半魔族に対して差別意識を持っているだけあって、魔物の一部に触れるなど有り得ないのだろう。すぐに控えていた使用人から濡れた布巾を借りて手を拭いている。イムノスも予想していなかったようで目を丸くした。

「本当は宝石のほうが効果が高いんでしょうけど細工が難しくて。その点、魔物の骨は扱いやすいんですよ」
「よりにもよって、なぜそんなものを」

 失敗しても惜しくなく、軽くて持ち運びしやすい。指折り利点を挙げるギルに対し、フィッツたちは理解できないといった表情で困惑している。

「もっと研究が進めば、いずれグレフ神の像を再現できるかもしれません。壊れてしまった結界装置を再度設置して、人間の活動領域を守ることが可能になると考えております」
「ギルバート……」

 俺の脳裏に、かつて見た廃墟と化した集落の光景が浮かんだ。血の補充による結界強化が間に合わずに結界の効果が失われ、人間が住めなくなっていた。大断絶の向こう側は魔物と魔族の領域。辺境の町や集落は人間の住む領域をこれ以上狭めないために存在し、維持されている。もし辺境が堕ちれば、今度は大陸の中心が危険に晒されてしまう。

 ギルの研究は変わり者の道楽なんかじゃない。グレフ神の末裔として、人間のためになにかできることをしようと考えた末の行動なのだ。誰も行きたがらない辺境の結界を強化して回っているだけでも十分だと思うが、ギル自身はもっと先を見据えている。

「素材はともかく簡易防御結界は素晴らしい品だ。ジーレン様に献上しても良いのではないか?」

 しかし、イムノスの発言で再び場の空気が凍りつく。ジーレンという名前を耳にした瞬間、ギルの顔から一切の感情が抜け落ちた。隣に座る俺が思わず腰を浮かせかけたほどだ。テーブルの下で手を伸ばし、ギルの上衣の裾を掴む。

「そっ、それより次に行く町はどこだ? 行き先が被らないように話をしておきたいのだが、君はどこに向かうつもりだ? ギルバート」

 フィッツはギルの異変にすぐ気付いたようで、慌てて別の話題を振った。我の強い性格だと思っていたが、案外相手の反応をよく見ている。

「ふふっ。あなたが大断絶近くまで出向いてくださるのでしたら助かりますけど」

 気遣われたと察したギルが普段通りの笑顔に戻り、フィッツが安堵の息をつく。イムノスはまったく気付いておらず、「では地図を用意させよう」と呑気に使用人に指示を出している。場を和ませるためか、フィッツが護衛の男たちに新しい酒瓶を開封させていた。

「……不安にさせてすみません」

 テーブルの下、誰にも見えないところで俺の指先をギルが撫でる。いつもの声音に安心して、俺は掴んでいた上衣の裾から手を離した。

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