24 / 94
24話・異例、異常、例外、のち特例
しおりを挟む「聖都から見て南西の地域は回り終えた。次はカダロードの東にあるアルナンドへ向かう予定だ」
「では、東の地域をお願いします。私はまた辺境に戻って巡回するつもりです」
地図を見ながら話し合う二人。フィッツは主に大陸の中心から少し外れた都市や町を、ギルは大断絶近くの街道沿いに点在する集落を担当する。旅に出る前に大まかに分担を決めていたおかげで、今回は途中経過を確認するだけで済んだ。
「時にギルバート。フィッツ。路銀は足りておるか? 田舎では手形が使えんだろう。好きなだけ持っていくといい」
いつの間に手配したのか、使用人が小さな革袋を運んできた。中身は通貨だ。使いやすいように、金貨ではなく銅貨や鉄貨などに両替されている。
出先で買い物をする際、都市部の大きな店なら身分証代わりの首飾りを見せれば請求が教会本部に回される。だが、田舎の小さな店や行商人相手では使えない。特に、俺たちは辺境ばかり巡るので現金は非常にありがたい。ギルが礼を言って革袋を受け取り、そのまま俺に渡してくる。フィッツのほうも護衛の男が受け取っていた。
「衣服や装備品の手入れもせねばな」
イムノスが手を叩いて合図すると、何人かの男たちが室内に入ってきた。カダロードに店を構える衣料品店や研ぎ職人、革職人らしい。それぞれ担当の品を預かり、屋敷に滞在している間に綺麗に手入れをしてくれるという。
「イムノス様、そこまでお世話になるわけには」
ギルは遠慮したが、イムノスは頑として譲らない。
「おまえたちはグレフ神の血を引く末裔。きちんと身なりを整えておかねばならん。備えが万全でなければ不測の事態に対応できんぞ」
ちなみに、フィッツたちは慣れた様子で職人に外套や武器、防具などの装備品の手入れを任せていた。
職人が俺にも手を差し出してきたので、とりあえず外套を渡しておく。半魔族の証である尖った耳をあらわにしても職人は嫌な顔ひとつ見せない。事前に俺の存在を知らされていたのかもしれないし、プロだから仕事と感情をごっちゃにしない主義なのかもしれない。
「剣などお持ちでしたら研ぎ直しいたしますが」
「いや、俺は持ってない」
研ぎ職人らしき男に尋ねられ、正直に答える。代わりに野営で使う調理用のナイフを預けた。隣でこのやり取りを聞いたフィッツたちがなぜか怪訝な顔をしている。
「護衛のくせに武器もないのか」
「どうやって戦っているんだ?」
「身軽そうだし、体術を使うのでは」
最初俺に突っかかってきた遣いの男や他の護衛がひそひそ話している。感じ悪いなと思いつつギルのほうを見れば、いつも腰から提げている短剣を預けていた。この機に細工に使う小刀を新調したいようで職人に相談している。ギルが俺から離れる時を狙っていたかのように、フィッツが声をかけてきた。
「伯父上から聞いた。カダロードには半魔族の子どもを預けに来たらしいな」
思わず睨み返して首の革紐に手をかけると、フィッツは肩をすくめて息を吐いた。
「待て早とちりするな。預かった子どもには危害を加えん。むしろ半魔族にも仲間に対する情があるとわかって安心した」
「ふん」
テオの待遇を条件にギルから離れろと言われるかと身構えたが、どうやら違うらしい。
「立場上、聖都の保護施設へ視察に行くこともある。きちんと教育を受けた半魔族はみな従順でよく働く。我々は半魔族全てを忌み嫌っているわけではない」
だが、とフィッツは言葉を続けた。離れた場所にいるギルには聞こえない程度の小さな声で俺に問いかける。
「おまえには保護施設に在籍していたという記録がない。ギルバートに会うまでどこにいたのか素性を確認する手段がない。ギルバートがおまえをそばに置きたがる理由もわからない」
確かに、どこでどう生きてきたのか自分でも覚えていない。生まれてから十数年、一度も捕まらずにいられるものなのかと疑問に思う。フィッツからすれば、身内が得体の知れない奴と連んでいるのだ。半魔族に対する差別以前の問題である。
「再三に渡り他にも護衛をつけるように忠告したが駄目だった。ならばもうおまえに頼むほかない。無力な半魔族には荷が重いかもしれぬが、ギルバートを裏切るな。あれはもう私たちの手に負えぬ」
言うだけ言って、フィッツは自分の護衛たちの元へと歩いていった。入れ替わるように、職人との話を済ませたギルが俺のそばに戻ってくる。恐らく、フィッツが俺と話す時間を設けるためにイムノスが場を設けたのかもしれない。もっと言いたいことはあっただろうが、残念ながら時間切れだ。
「客室に案内してくださるそうです。行きましょう」
「わかった」
使用人に先導されて客室へと向かう俺たちを、イムノスとフィッツが複雑そうな表情で見送っていた。
25
あなたにおすすめの小説
悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
【だって、だって、ずぎだっだんだよおおおおおお】
公爵令息のエマニュエルは、異世界から現れた『神子』であるマシロと恋仲になった第一王子・アルフレッドから『婚約破棄』を言い渡されてしまった。冷酷に伝えられた沙汰は、まさかの『身ぐるみはがれて国外追放』!?「今の今まで貴族だった僕が、一人で生きて行かれるわけがない!」だけど、エマニュエルには、頼りになる従者・ケイトがいて、二人の国外追放生活がはじまる。二人の旅は楽しく、おだやかで、順調に見えたけど、背後には、再び、神子たちの手がせまっていた。
「してみてもいいですか、――『恋人の好き』」
世界を旅する二人の恋。そして驚愕の結末へ!!!
【謎多き従者×憎めない悪役】
4/16 続編『リスティアーナ女王国編』完結しました。
原題:転んだ悪役令息の僕と、走る従者の冒険のはなし
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる