【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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24話・異例、異常、例外、のち特例

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「聖都から見て南西の地域は回り終えた。次はカダロードの東にあるアルナンドへ向かう予定だ」
「では、東の地域をお願いします。私はまた辺境に戻って巡回するつもりです」

 地図を見ながら話し合う二人。フィッツは主に大陸の中心から少し外れた都市や町を、ギルは大断絶近くの街道沿いに点在する集落を担当する。旅に出る前に大まかに分担を決めていたおかげで、今回は途中経過を確認するだけで済んだ。

「時にギルバート。フィッツ。路銀は足りておるか? 田舎では手形が使えんだろう。好きなだけ持っていくといい」

 いつの間に手配したのか、使用人が小さな革袋を運んできた。中身は通貨カネだ。使いやすいように、金貨ではなく銅貨や鉄貨などに両替されている。

 出先で買い物をする際、都市部の大きな店なら身分証代わりの首飾りを見せれば請求が教会本部に回される。だが、田舎の小さな店や行商人相手では使えない。特に、俺たちは辺境ばかり巡るので現金は非常にありがたい。ギルが礼を言って革袋を受け取り、そのまま俺に渡してくる。フィッツのほうも護衛の男が受け取っていた。

「衣服や装備品の手入れもせねばな」

 イムノスが手を叩いて合図すると、何人かの男たちが室内に入ってきた。カダロードに店を構える衣料品店や研ぎ職人、革職人らしい。それぞれ担当の品を預かり、屋敷に滞在している間に綺麗に手入れをしてくれるという。

「イムノス様、そこまでお世話になるわけには」

 ギルは遠慮したが、イムノスは頑として譲らない。

「おまえたちはグレフ神の血を引く末裔。きちんと身なりを整えておかねばならん。備えが万全でなければ不測の事態に対応できんぞ」

 ちなみに、フィッツたちは慣れた様子で職人に外套や武器、防具などの装備品の手入れを任せていた。

 職人が俺にも手を差し出してきたので、とりあえず外套を渡しておく。半魔族の証である尖った耳をあらわにしても職人は嫌な顔ひとつ見せない。事前に俺の存在を知らされていたのかもしれないし、プロだから仕事と感情をごっちゃにしない主義なのかもしれない。

「剣などお持ちでしたら研ぎ直しいたしますが」
「いや、俺は持ってない」

 研ぎ職人らしき男に尋ねられ、正直に答える。代わりに野営で使う調理用のナイフを預けた。隣でこのやり取りを聞いたフィッツたちがなぜか怪訝な顔をしている。

「護衛のくせに武器もないのか」
「どうやって戦っているんだ?」
「身軽そうだし、体術を使うのでは」

 最初俺に突っかかってきた遣いの男や他の護衛がひそひそ話している。感じ悪いなと思いつつギルのほうを見れば、いつも腰から提げている短剣を預けていた。この機に細工に使う小刀を新調したいようで職人に相談している。ギルが俺から離れる時を狙っていたかのように、フィッツが声をかけてきた。

「伯父上から聞いた。カダロードには半魔族の子どもを預けに来たらしいな」

 思わず睨み返して首の革紐に手をかけると、フィッツは肩をすくめて息を吐いた。

「待て早とちりするな。預かった子どもには危害を加えん。むしろ半魔族にも仲間に対する情があるとわかって安心した」
「ふん」

 テオの待遇を条件にギルから離れろと言われるかと身構えたが、どうやら違うらしい。

「立場上、聖都の保護施設へ視察に行くこともある。きちんと教育を受けた半魔族はみな従順でよく働く。我々は半魔族全てを忌み嫌っているわけではない」

 だが、とフィッツは言葉を続けた。離れた場所にいるギルには聞こえない程度の小さな声で俺に問いかける。

「おまえには保護施設に在籍していたという記録がない。ギルバートに会うまでどこにいたのか素性を確認する手段がない。ギルバートがおまえをそばに置きたがる理由もわからない」

 確かに、どこでどう生きてきたのか自分でも覚えていない。生まれてから十数年、一度も捕まらずにいられるものなのかと疑問に思う。フィッツからすれば、身内が得体の知れない奴と連んでいるのだ。半魔族に対する差別以前の問題である。

「再三に渡り他にも護衛をつけるように忠告したが駄目だった。ならばもうおまえに頼むほかない。無力な半魔族には荷が重いかもしれぬが、ギルバートを裏切るな。

 言うだけ言って、フィッツは自分の護衛たちの元へと歩いていった。入れ替わるように、職人との話を済ませたギルが俺のそばに戻ってくる。恐らく、フィッツが俺と話す時間を設けるためにイムノスが場を設けたのかもしれない。もっと言いたいことはあっただろうが、残念ながら時間切れだ。

「客室に案内してくださるそうです。行きましょう」
「わかった」

 使用人に先導されて客室へと向かう俺たちを、イムノスとフィッツが複雑そうな表情で見送っていた。

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