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26話・強い魔族や魔物ほど結界に弾かれる
しおりを挟む山越えをして辺境へと戻り、結界強化の旅を再開する。幾つかの集落を回ったが特に問題はなかった。順調に進み過ぎて、カダロードに立ち寄って経過してしまった日数分の行程を取り戻したほどだ。代表や住民に気を遣わせぬよう歓待を辞退し、集落での滞在時間を最小限に抑えているからだろう。
「同じ辺境でもかなり治安がいいな、この辺りは」
「バルプルド周辺が悪過ぎたんですよ。今後はもう少しマシになるとは思いますけど」
ゼレニスは今頃カダロードから派遣された役人によって取り調べられ、罪を裁かれているはずだ。住民からの信頼も地に落ちていたので、再び代表として返り咲く可能性はゼロに等しい。
とはいえ、ゼレニスの身勝手な行動がなければテオはこの世に存在しなかった。魔族に犯された挙げ句に望まぬ子を産んだ母親には同情するが、テオが生まれてこなければ良かったなんて思えない。そう考えると複雑な気持ちになった。
「そういや俺、魔族に遭遇したことないな」
フィッツとの別れ際に「辺境を旅するなら魔族に気をつけろ」と忠告された。まだ魔物としか戦っていない。
「なあ魔族ってどんな感じ? ギルは見たことある?」
隣を歩く銀髪の男に問う。数日の野営を経て良い感じに小汚くなっているが顔立ちの良さは隠せない。小首を傾げつつギルが答えた。
「聞いた話では赤い髪と褐色の肌をしているらしいですよ。見た目は私たち人間とさほど変わりませんが、体がかなり丈夫だそうで」
「へえ、そうなんだ」
相槌を打ちながら、俺は自分の後ろ髪の毛先を掴んで顔の前に掲げてみた。ほぼ真っ黒なのだが、透かしてみると僅かに赤みがかっている。肌も褐色ほどではないがやや浅黒い。魔族と人間の中間といったところか。
「もし出会しちまったら勝てるかな?」
俺は一応魔法が使える、複数の魔物と対峙しても後れを取った経験はない。いや、魔法の使い方に慣れていなかった頃はギルが代わりに倒してくれていたけれど。あちらも魔法を扱うはずだ。多少魔法が使えるくらいでは駄目な気がする。
「強い魔族ほど結界に弾かれます。この辺りは集落に設置された結界の効果範囲がうまく重なり合っていますから、まず遭遇の可能性はかなり低いでしょうね」
「そっかぁ」
勝てるかどうかの問いに答えはなかった。所詮俺は半魔族。魔族と対等に渡り合えるはずがない。フィッツからも「無力な半魔族」と言われたし、弱い部類に入るのかもしれない。実際ギルに勝てる気がしないし。
大断絶近くの辺境であろうとも結界さえきちんと機能していれば人間の領域は守られる。その結界を維持、強化するためにギルは旅をしているのだ。 大事な旅路の護衛になぜ俺を選んだのか、理由は未だにわからない。
「レイ、次の集落が見えてきましたよ」
「やった! 久々に風呂入りたい!」
「結界の強化を終えたら頼んでみましょう」
街道の先、砂煙の向こうに集落が見えた。目的地が近いとなれば足取りも軽くなる。背中の荷袋を担ぎ直し、俺たちは集落を目指して歩き出した。
しかし、近付くにつれて妙な感覚を覚えた。結界の効果範囲特有の空気の重さが薄れている。これにはギルも気付いたようで、険しい表情をしていた。
数十メートル先には集落全体を囲む高い塀があり、出入り口となる門がある。本来ならば閉ざされているはずの門扉は開け放たれたまま、付近に見張りはいなかった。
「レイ」
「おう」
明らかな異常事態に、俺は荷袋をギルに任せて先に門をくぐった。まず状況を確かめねばならない。入ってすぐの広場にはいろんな物が散乱していた。角材やレンガ、鉄鍋や農具まで、ありとあらゆるものが地面に落ち、踏み荒らされている。魔物の群れから襲撃を受けたかのような有り様だ。
近くの家屋を探索してみたが、幸い人間の死体はどこにもなかった。集落を捨てて全員逃げたのだろうか。一つ前の集落ではそんな話は聞かなかったし、道中にも異変はなかった。もし避難したのなら近隣の集落に助けを求めるか注意喚起するだろう。
「ギル、もうちょい調べたい」
「私も調べます。とりあえず教会に行きましょう」
荷袋を担いだままでは効率が悪い。集落の中心部には建つ教会は頑丈な石造り。万が一の場合は出入り口を閉ざして避難所としての使用が想定されている。もし集落に住民が残っているのなら、教会の中にいる可能性が非常に高い。結界装置であるグレフ神の像が無事かどうかも確認したかった。
教会の建物はほとんど無傷で残っている。天窓から差し込む陽光が礼拝堂内をほのかに照らし、内部の状態をはっきり視認することができた。
「やはり結界が……」
礼拝堂の突き当たりにある祭壇に置かれたグレフ神の像が床に落ち、砕け散っている。内蔵された水晶玉も割れていて、とても修復できそうになかった。
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