【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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28話・グレフ神の末裔は魔族より強い…?

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 咄嗟に放った炎により、俺と魔族は再び離れた。とはいえ、あちらはたった一度の跳躍で間合いを詰めることが可能。距離はあるが安心できない状況だ。

「……おかしいな。人間側で育った『混血』は魔法が使えるはずないんだけど」

 魔族は首を傾げ、わしわしと髪を掻きながら独り言を繰り返した。長い前髪の隙間から覗く紫の瞳は瞬きすらせず、ずっと俺を見つめている。

 コイツの言う『混血』とは半魔族を指す言葉なのだろう。独り言の内容からして、見つけた半魔族を連れ去るつもりらしい。人間の女に産ませた半魔族の子どもを回収しているのか。なんのために?

 コイツにとって既に成人済みの半魔族は予想外の存在だったらしい。あんな弱っちい魔法を使っただけで驚かれた理由はわからないが。

「まあいいか。決める役はボクじゃないし」

 たっぷり数十秒悩んだ後、魔族が再び距離を詰めてくる。俺を捕まえてどこかに連れていくつもりだ。

 いつまでもやられっぱなしではいられない。待たされた間に魔力を練り、反撃を開始する。

「切り裂け烈風!」

 無数の風の刃を生み出してぶつけると、魔族は高く跳躍して近くの民家の屋根へと降り立った。風の刃を出したまま、俺も魔族を追いかける。屋根に飛び乗り、まず蹴りを繰り出した。風の刃を周囲に配置している。避ければ全身を切り裂かれると気付いたか、魔族は俺の蹴りを脇腹で受けた。

「ぐっ……」

 呻いたのは攻撃を仕掛けた俺のほうだった。この魔族、見た目はヒョロくて頼りなさげな癖に体幹が強い。まるで巨木の幹を思い切り蹴った時みたいに足先からビリビリと痺れてくる。間髪入れずに攻撃を続けるが、まったく効いていない。

 一旦隣の民家の屋根に移って距離を取った。その間に風の刃を間に配置し、息を整える時間を稼ぐ。

 体術は通用しないが魔法は効く。炎や風の刃に当たらないようわざわざ避けていたからだ。幸い集落に人間はいない。広範囲魔法で一気にカタをつける。

「巻き起これ、炎の渦!」

 炎と風を合わせ、燃え盛る炎の竜巻を作り出した。轟々と音を立てる火柱が魔族の全身を包み込む。炎の竜巻だけで倒せるとは思えず、追加で風の刃を喰らわせる。

「……やったか?」

 竜巻が勢いを失って消えると、地面には焼け焦げた跡が残っていた。魔族の姿はどこにもない。まさか今の炎で燃やし尽くされたのかと辺りを見回した時だった。

「なかなか使える。『混血』にしては出来がいい」
「ッ」

 すぐそばから声が聞こえ、体が硬直した。声の主は真後ろに立ち、細長い両腕を左右から伸ばして俺を抱え込もうとしている。じわりと迫る腕に、恐怖を感じて息を飲む。

「やっぱり連れていこう」

 このままではどこかに連れ去られてしまう。渾身の体術も魔法も効かなかった。下手に抵抗したら命の保証はない。ここは素直に従って機を伺うべきか。

「妙な気配がする。これはなんだ」

 魔族が俺の首に下げられた革紐に気を取られた。先端に付けられている魔物の骨の細工に関心を持ったらしい。枯れ枝のような指先が触れる直前、離れた場所から爆発音が響く。次の瞬間には俺の背後にいた魔族が吹っ飛ばされ、奥にあった民家の外壁に叩き付けられていた。木造の民家は崩れ、砂ぼこりを立てている。

「ギル……?」

 いきなり魔族と遭遇したせいですっかり頭から抜け落ちていたが、この集落にはギルもいたのだ。騒ぎを聞きつけて間に入ってくれたのだろう。安堵の息が自然と口からこぼれた。ギルの姿を探して辺りを見回す。

「知らない顔ですね。新参かな。それとも少しは地位のある魔族かな。どちらにせよ赦しませんが」

 ギルは瓦礫の前に立っていた。砂けむりがまだ収まっておらず、周囲の見通しは悪い。だが、ギルの視線は一点に固定されている。ガラ、と音を立てて瓦礫が崩れ、魔族がのそりと立ち上がった。黒い革製の服は土ぼこりで汚れていたが、本人はかすり傷一つ負っていない。

「誰もいないって聞いたのに、『混血』だけでなく人間までいる。どうしよう。勝手に殺したらいけないし、連れていくのも大変だし」

 魔族はまたブツブツと独り言を呟いている。汚れた服や乱れた髪を整えることもなく、ぼんやりと立ち尽くしている。ダメージを受けたせいで動けないわけではなく、思い悩んでいる間だけ止まっているのだ。

「……あれ。この気配、人間じゃない……?」

 長い前髪の隙間から覗く紫の瞳が大きく見開かれ、ギルの姿を捉えた。ぼそぼそとした声が驚きに揺れている。魔族が初めて感情を垣間見せた。その隙を、ギルが見逃すはずがない。

「──グレフ神の末裔の血を以て魔族に鉄槌を」

 右手で腰に差した短剣を抜き、左腕を切り裂く。傷口から流れ出た血は地面に落ちることはなく、宙へと舞い上がっていく。結界を強化する時ならば水晶玉に吸い込まれて消えるが、今回は違う。血は魔族目掛けて飛んでいき、肌に付着すると同時に焼けるような音がした。

「熱い、痛い、熱い。これはなんだ?」

 ギルの血が魔族にダメージを与えている。俺の炎では髪のひと筋すら焼けなかったというのに。状況を理解するまで動けずにいたせいで、魔族の顔や手脚は酷い火傷のように焼けただれている。流石にまずいと思ったようで、魔族は跳躍して集落を囲う塀の上に逃げた。

「指示をもらおう。指示をもらいに行かないと」

 どうやら自分で方針を決められないらしい。ブツブツ呟きながら、魔族は姿を消した。きっと仲間のもとへ指示を仰ぎに行ったのだろう。

 窮地は脱した。ずっと緊張し続けていたから体中が強張っている。意識して深い呼吸を繰り返し、手足から力を抜いた。そうこうしているうちに、ギルが俺のそばへと歩み寄ってくる。

「大丈夫ですか、レイ」
「ああ。助かった」
「助けに入るのが遅くなってすみません」

 謝罪しながら、ギルは俺の顔を覗き込んできた。いつもと変わらない穏やかな表情をしている。

 いきなり魔族と対峙したというのに少しも動揺していない。あれだけ圧倒していたのだから倒せたはずなのに、ギルは魔族を見逃した。

 まるで最初からわかっていたかのように。

「それで、どうでした? ?」
「え……」

 笑顔で問われ、俺はなにも言えなくなってしまった。

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