【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

文字の大きさ
72 / 94

72話・魔族の襲撃に備える夜に交わした約束

しおりを挟む

 日が暮れる前にラウール家の屋敷に戻り、すぐに自分たちにあてがわれている客室へと引っ込む。

「テオが元気で安心した」
「ええ、私もです」

 俺たちにとってテオは大事な存在だ。幼いテオを危険な場所に連れ回す覚悟がなくて手放してしまったことを悔やむ時もあった。でも、保護施設で友だちを作り、健やかに育った姿を見て、あの時の選択は間違っていなかったのだと安堵した。

「それはそうと、ギル」
「はい?」

 睨みつけるが、ギルは平然と俺を見つめ返すだけ。イラッとして、気になっていたことを直接問いただしてみた。

「オマエ、事あるごとにテオと内緒話してるよな? 一体なにを話してるんだ」
「さあ? なんのことでしょう」

 しらばっくれるギル。いつもなら誤魔化されるところだが、今回ばかりはそうはいかない。

「さっきテオに渡した紙袋の中身はなんだよ。俺なんにも知らねえんだけど!」
「すみません、男同士の秘密なので」
「俺も男なんですけどォ!?」

 最悪の言い逃れをされ、思わず大声で突っ込んでしまった。怒る俺の姿に、ギルは苦笑いを浮かべている。

「御守りを渡しただけですよ。小さなものですが、お友だちのぶんも含めて幾つか用意していたので」
「そんなら最初っからそう言えよ! だったら俺に内緒にしなくてもいいじゃねえか!」
「いえ。男親の矜持プライドってものがありまして」
「だーかーらぁ、俺も男なんですけどォ!?」

 ひとしきり喚いた後、ドッと疲れが押し寄せてきた。近くにあったソファに倒れ込む。

 半魔族をおとりとして使う作戦には引っ掛かるものがあったけれど、新たに御守りを渡して安全に配慮してくれたのだ。責めることではないが、教えてくれなかった理由が意味不明過ぎて納得いかない。

「レイ。怒ってます?」
「……別にぃ」
「本当に?」
「怒ってねえけど」

 ぐったりとソファに転がる俺のそばに近寄り、顔を覗き込むギル。困ったように首を傾げ、こちらの様子を窺ってくる。グレフ神の末裔が半魔族の機嫌を気に掛けているなんて、保護施設の奴らや教会関係者が見たら卒倒しそうだ。

「けど?」
「……ちょっと仲間外れみたいでヤだった」

 しつこく聞かれ、少しだけ本音を漏らした。すると、ギルが俺に抱きついてきた。ソファに乗り上げ、ぎゅうぎゅうと力一杯抱きしめてくるものだから、体中の骨が軋んだ。声にならない悲鳴が口からこぼれ落ちる。

「ギル、くるしい」
「すみません」

 謝りながらも、ギルは俺から離れない。肩口に顔を埋めて何度も頬擦りしてくる。

「レイ。愛してます」
「なんだよ急に」
「急ではありませんよ。嫌でしたか?」
「……ッ、嫌なわけねえだろ」
「ふふ。嬉しい」

 俺の返答に安心したのか、ギルはようやく腕の力を抜いて顔を上げた。言葉通り、すごく嬉しそうに表情をゆるめて微笑んでいる。久々にテオに会って癒されたのだろう。聖都に到着してからずっと張り詰めていた気持ちが解けたように感じた。

 そのままラウール家の屋敷に滞在することになった。

 最低限の使用人しか残っていないため豪勢とまではいかないが、野営では作れないような手の込んだ料理が並べられている。

「ギルバート。頼まれていた通り、兵士を武装させて各地に配置しておいたぞぃ」
「ありがとうございます、イムノス様」
「魔族が現れればすぐ知らせるよう指示しておる。後は待つだけじゃ」
「ええ、早く終わらせたいですね」

 ラウール家当主の権限を使い、イムノスは大陸中から兵士を集めて聖都付近に配置した。本隊は近隣にある結界装置が有効な集落で待機し、見張り役が魔族の出現を見落とさないよう封鎖済みの街道を巡回している。俺たちはいつでも対応できるように聖都で待っていればいい。

 ちなみに、伝令方法は遠く離れた場所からでもわかるよう空砲花火を連続で打ち上げる『段雷だんらい』を使う。

「いつ魔族が来るかわかりません。交代で休みますか」
「今夜は私たちが起きておくとしよう」
「では、フィッツ。お願いします。なにかあればすぐに呼びに来てください」

 話はまとまった。

 食事を終え、ギルと一緒に客室へ戻る。入浴を済ませればあとは寝るだけだ。フィッツたちが寝ずの番をしてくれているうちに寝て身体を休めておかなくてはならない。

 だというのに、ギルが駄々をこね始めた。

「ホントに寝るんですか? 信じられません!」
「オマエ今の状況わかってる?」
「だって、移動中なにもできなかったのに……」
「だってじゃねえよ」

 いつ魔族が来るかわからないって言った張本人が、交代制で寝ずの番をする意味を理解していないわけがないのだが。

「そういうのは全部片付いてからにしろ」
「レイ、酷い。私を愛してないのですか」
「めんどくせえこと言ってんじゃねえよ」

 なにを言われようと俺は寝る。ただでさえも実力が足りていないのだ。寝不足と腰の痛みのせいでロクに動けませんでした、なんて笑い話にもならない。

 それに、ギルが不能ではないと周囲に知られたら、やりたくもない子作りを強要されるかもしれない。そう思うと怖くなった。

「ほら、ギルも寝るぞ。添い寝してやるから」
「はぁい」

 渋々承諾したギルは俺の寝台に潜り込んできた。横向きに寝転がる俺を後ろから抱きしめてくる。それは別に構わないのだが、尻に硬いものが当たる妙な感触があった。

「……ギル。発情すんな」
「好きな相手と密着したらこうなりますよ」
「やっぱ出てけ。隣の寝台で一人で寝ろ」
「ひどくないですか? 戦いが始まったらそれどころじゃなくなってしまうのに」

 文句ばかりで微塵も従うつもりがないギルに、俺は盛大な溜め息をついた。上半身を捻って後ろを向き、超至近距離からギルを見つめる。ごくり、と喉を鳴らしているが無視だ。

「俺を抱きたいんなら全部片付いてからにしろ。そしたら気が済むまで付き合ってやる」

 後回しにするために放った言葉だったのだが。

「……言いましたね? 約束ですよ」

 口の端を上げて微笑わらうギルを見て即座に後悔した。まずい約束をしてしまったかもしれない、と。

しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

記憶喪失から始まる、勘違いLove story

たっこ
BL
事故に遭い目が覚めると、自分が誰かもわからなくなっていた陽樹。同居していたという同僚の月森との生活を始める。 職場でも家でも一緒、さらに休日までも一緒に過ごしているうちに、陽樹は月森を意識し始める。 そんなとき、月森に振られた記憶を不意に思い出して……。 ●年齢制限ありの回は ※ 軽い表現の回は * を表示します。 描写は物語の終盤になる予定です。 《今作品は完全に不定期の更新となります。ご了承くださいませ》

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...