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74話・魔族との戦いは過去の自分との別離
しおりを挟む魔族を誘き出すためにわざと目立つ行動を取ることにした。ギルには周辺で待機している兵士たちに一旦下がるよう指示を出してもらっている。魔族が本気で暴れたら、立派な鎧や盾を身に付けていても命の保証はない。広範囲魔法の被害に遭わないようにするためだ。
ギルの指示に従い、兵士たちの配置が後方へと下がっていった。魔物の襲撃は変わらず続いているが、とりあえず凌げている。重盾兵でぐるりと周りを囲んだところで簡易結界装置を起動させて動けなくしてから剣で倒していく戦法が取られている。
今回一般兵士の部隊ごとに支給した簡易結界装置は効果範囲が狭く持続時間も数分だけだが、戦いを有利に運ぶことができていた。魔物の相手は兵士に任せておけば問題なさそうだ。
俺は俺にしかできないことをする。
「バアル、どこだ! 出てこい!」
人払いをしたおかげで街道は空白地帯となっている。石畳の街道のど真ん中に立ち、俺は声を張り上げた。群れからはぐれた魔物が一匹飛びかかってくるが、焦らずに対処する。
「──穿て裁きの雷!」
魔力を雷に変換し、大きな音を立てて落とす。ズン、と大地が揺らぐほどの轟音と共に落雷が一瞬で魔物を貫いた。嫌な臭いを撒き散らしながら黒焦げになった魔物がひび割れた石畳の上に崩れ落ちる。
聖都に行くためには俺がいる場所を通らねばならない。正門から辺境まで真っ直ぐ伸びるこの街道だけが結界の効果範囲から外れているのだから。
遠くからでも見えるよう派手な魔法を放っていると、しばらくして街道の向こうに一人の男が現れた。ゆったりした足取りで歩み寄り、顔が判別できるくらいの距離まで近付くと足を止めた。
短く刈られた鮮やかな赤い髪と褐色の肌、尖った耳。妖しく光る紫の瞳。魔族だ。
「よお。元気そうだな、バアル」
「……ラース」
過去に顔を合わせた時は必ず笑顔を見せていたが、二度も騙されれば警戒して当然だろう。バアルたちの計画をすべて潰し、再び聖都に来るように仕向けた。
「よくもオレらを騙してくれたな。おかげでまたこんなところにまで来る羽目になっちまった」
恨まれて当然だと覚悟していたはずなのに、バアルから敵意を向けられると体が竦んでしまう。胸の奥がちくりと痛むが、仕方がないと割り切るしかない。
「オレを怒らせてただで済むと思うなよ、ラース!」
「おもしれぇ。やってみろ、バアル!」
俺たちの周りに火花が散った。互いの魔力がぶつかっているのだ。魔法を発動させる前から戦いが始まっている。バチバチと弾ける音と光。鋭い痛みが走って確認すると、手の甲に小さな裂傷が幾つかできていた。バアルの頬や腕に同じような傷が増えている。
「ルオムとマルヴはどこだ。来てないのか」
睨み合いの最中に問うと、バアルはクッと口の端を上げて笑った。いつもの屈託のない笑顔ではない、意地の悪い笑みだ。
「オレは囮だって言ったらどうする? ラース」
「なに?」
「オレは陽動担当で、アイツらが実行部隊ってコト」
遠くで爆発音が響き、俺は思わず振り返った。はるか後方には聖都を取り囲む城壁が見える。その辺りから黒煙が上がっており、微かに怒号と悲鳴が聞こえてきた。
「まさか、聖都に侵入した……?」
「その『まさか』だ。ルオムたちは結界を破る手段を持ってるんだからな」
ザッと血の気が引いた。
結界を破る手段があるのなら聖都への侵入は容易い。対魔物、対魔族の防衛方法の最高峰である結界が役に立たないとなれば人間側にはどうしようもない。
聖都にはフィッツがいる。
保護施設にはテオがいる。
イムノスやトーレスもいる。
「くそっ」
踵を返して聖都に戻ろうとする俺の前にバアルが立ちはだかった。跳躍して俺の行く手を塞ぐ位置に着地した。
「行かせねえよ。ラースはここでオレと戦え」
「バアル……ッ!」
再び睨み合う。そうこうしている間にも断続的に爆発音が聞こえてくる。今頃どうなっているのか、離れた場所からでは状況がわからない。焦りと不安で冷静な判断ができなくなった。
「そんな形でも戦えるのか? ラース」
「やってやるよ、かかってこい!」
動揺していると魔法が使えなくなってしまう。深呼吸で心を鎮めてから魔力を練る。
「──切り裂け烈風!」
「効くわけないだろ、こんなの」
俺の渾身の風の刃はすべて防がれた。言霊を使わずに魔力で壁を生み出している。やはり俺とはレベルが違う。
だが、俺は手ぶらで来たわけじゃない。
「悪く思うなよ」
バアルの真似をして、俺も自分の魔力で壁を生み出してみた。慣れないやり方だが、できないことはない。記憶を失くす前の俺ならバアルと同じことができたはず。
魔力同士がふつかり、また火花が散った。バチバチと激しい音を鳴らしながら削り合う。全方位に壁を作る必要はない。バアルへの最短経路を掘削するように突き進む。
そして、俺は懐から取り出した小さな白い塊を石畳の上に落として踏みつけた。パキンと乾いた音が鳴ると同時に極小範囲限定の結界が張られた。
「ぐっ……まさか、また……?」
動きを封じられたバアルが膝をつき、憎々しげな瞳を俺に向けてきた。この結界は長くは保たない。今のうちにバアルを倒しておかなくては。
「ラース、待て。やめろ」
「悪い、バアル」
すぐ治らない程度の怪我をさせるだけのつもりだった。結界の効果範囲内では魔力は霧散してしまうので魔法は使えない。思いきり踏み付けて足の骨を折ろうとした時だった。
「ガハッ……」
俺がやる前に、なぜかバアルが血を吐いた。どこからともなく飛んできた剣がバアルの背中に刺さったのだ。腹から突き出た剣先からボタボタと血が流れ落ちている。
剣が飛んできたであろうほうへと顔を向けると、予想通りの人物の姿があった。
「ギル」
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