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76話・頼れる仲間と聖都内部の騒ぎの謎
しおりを挟む遠くに見える聖都から立ち昇る黒煙と断続的に聞こえてくる爆発音と悲鳴。傷は塞がったものの意識を失ったまま倒れるバアルを抱えた状態で、俺は途方に暮れていた。
バアルを放置し、聖都に向かうか。
聖都に行かず、バアルに付き添うか。
どちらも選べず迷っていると、一頭の馬が駆け寄ってきた。背に誰か乗っている。馬は俺のそばまで来るとピタリと足を止めた。
「おい、なにやってんだ、レイ!」
「ル、ルシオ」
馬に乗っていたのはルシオだった。
「さっきギルバート様が一人で聖都に……って、なんだその血は。怪我してるのか?」
血まみれで石畳に座り込む俺に驚き、馬から飛び降りるルシオ。だが、すぐに俺の腕の中で気を失っているバアルの姿を見て露骨に顔をしかめた。
「怪我したのはコイツなんだ。もう治ってるけど、目を覚ますまではしばらくかかりそうで」
状況を説明すると、ルシオは頭を抱えた。呆れと苛立ちが混ざったような、それらを押し殺すために深い呼吸を繰り返している。
「……さっき白い光が見えた。サンクたちから聞いた時は信じられなかったけど、やっぱりそうなんだな」
ルシオがここに来た理由は離れた場所から白い光が見えたかららしい。何度も溜め息をつきながら苦笑いを浮かべている。
「そいつ、魔族だよな。せっかく倒したのに治してどうするつもりだよ」
「ど、どうするって言われても」
責めるように問われ、返事に困る。俺が治したわけではないが、死なせたくないと思ったのは確か。腕の中のバアルを見下ろし、ぎゅっと唇を引き結ぶ。
そんな俺の様子を見て、ルシオがまた溜め息をついた。倒れた魔族を見捨てられない俺に愛想を尽かしたのかもしれない。そのまま立ち去るかと思ったのだが。
「少し待ってろ。そこから動くなよ!」
再び馬に跨ったルシオは一旦聖都のほうへと駆けていき、数分と経たぬうちに一台の荷馬車を引き連れて戻ってきた。幌付きの荷馬車には野営道具などが乱雑に積み込まれている。馭者役の兵士がすぐに整頓し、人が乗れる場所を確保してくれた。
「この魔族は人質だ。今は動けないから安心しろ」
ルシオは兵士に指示を出し、バアルを荷台に寝かせた。存在を隠すように、野営用の毛布をかけている。石畳の上に放置するよりは寝心地は良さそうで、俺はホッと胸を撫で下ろした。そのまま一緒に荷台に乗ろうとしたらルシオに止められた。
「レイは俺の後ろに乗れ。聖都まで行くぞ」
「お、おう」
言われるがまま後ろに乗ると、ルシオが馬の腹を軽く蹴った。駆け出した馬に荷馬車もついてくる。
「ルシオ、いいのか?」
「魔族なんか見捨てても良かったんだが、おまえがあんな目をするから仕方なくだな……」
数日前まで死にかけていたコイツが元気になり、俺を助けてくれている。本当は嫌だろうに魔族を匿う手伝いまでしてくれている。
「来てくれてありがと。助かった」
ルシオの背中に額を当て、小さな声で感謝の言葉を呟く。一人では、安全な場所までバアルを担いで移動することはできなかった。ルシオが機転をきかせてくれなければ、俺はずっと街道のど真ん中で座り込んでいただろう。
「人質に使うってのは嘘じゃねえからな! 万が一に備えて魔族の手足は拘束させてもらう。いいな?」
「うん、わかった。任せる」
素直に頷くと、ルシオは「あ~~もう」と苛立たしげな声を上げた。
「そんなにあの魔族が大事かよ」
「覚えてないけど、俺の幼馴染みらしいんだ」
「オレとサンクたちみたいなもんか。じゃあ仕方ねえな」
俺の返答に納得したらしい。ルシオはそれ以上バアルについて尋ねてこなかった。
聖都の正門は魔物の侵入を防ぐために閉ざされている。俺たちが着いた時には付近の魔物はほぼ一掃されていて、兵士たちが交代で休憩を取っていた。広場の片隅に魔物の死骸を集めて燃やしている。遠くから見えた黒煙はこれだったのだろうか。
「ルシオ、どこへ行っていた!」
ルシオに気付き、オルミが駆け寄ってくる。
「悪い。レイを迎えに行ってたんだ」
「そうか。……うん? 怪我をしてるのか?」
「いや、これは返り血らしい。聖都の中に入りたい。正門を開けてもらえるか?」
「わかった」
べっとりと血が付着した服を着ているため、オルミは俺が怪我をしたのではないかと思ったらしい。ルシオが開門を頼むと、快く引き受けてくれた。
「聖都の内部でも騒ぎが起きている。気を抜くなよ」
門の片側だけ開き、馬と荷馬車が入ってから再び門が閉められる。正門の内側は結界の効果範囲内で、奥に行けば行くほど多重結界によって魔物や魔族の動きを阻害する。分家の屋敷がある区域まで行ってはバアルが苦しみそうなので、正門近くに荷馬車を止めておいてもらうことにした。
「兵士たちには荷馬車に近寄らないよう指示しておく。だが、もし劣勢になれば本当に人質として使うからな」
「十分だ。ありがとう、ルシオ」
安心して眠る環境さえあればいい。ルシオの配慮に感謝して、俺は馬から飛び降りた。
「レイ、どこに行くんだ」
「ギルのところ」
「ギルバート様の?」
話している間にもどこからか爆発音が響いてくる。音の出所を探すために見回すと、教会本部がある辺りから新たに黒煙が上がっていた。
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