【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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77話・教会本部前の戦いと小さな助っ人

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「あっちは分家の屋敷や教会本部がある辺りだが、どうして煙が上がってるんだ?」

 遠くに見える黒煙を眺め、首を傾げるルシオ。そこへトーレスがやってきた。ひどく慌てた様子で息をきらせている。

「大変です、聖都内部に魔族が現れました! いまギルバート様が一人で探しに行っております!」
「なんだと?」

 トーレスは兵士を集めるために来たらしい。正門の外は魔物の数も減ってきている。聖都内の安全が脅かされている状況なら人員を借りても問題ないだろう。

「トーレス様、兵士たちは私が集めて連れていきます」
「ルシオさん、お願いします。では、私は当初の予定通り結界装置を街道に戻し、これ以上魔物が来ないように致します」

 互いに役割分担を決め、ルシオとトーレスは行動を開始した。俺は二人と別れ、単身教会本部を目指して走り出した。

「聖都の中に魔族が侵入……やっぱ、バアルが言っていたことは本当なのか?」

 バアルは「ルオムたちは結界を無効化する手段を持っている」と言っていた。そして、その手段はギルがサフールを通じて魔族側に渡してきたのだと。もし真実だとするならば、ギルの狙いはなんなのだろう。魔族と取り引きをしたのなら、別にバアルの命を奪う必要はなかったはず。


『約束してください。魔族からなにを言われても耳を貸さないで。必ず私の元へ帰ってくると』


 この会話を交わした時は意味がわからず、適当に返事をした。思い返してみると、やけに約束をしたがった理由がわかった気がする。ギルはバアルたちから取り引きの話が漏れることを懸念し、余計な話を俺に聞かせる前にバアルを始末しようとしたのだ。

「まさか、ルオムとマルヴも殺すつもりか?」

 魔物を引き連れて聖都を襲撃してきた魔族を倒すこと自体は間違っていない。ただ、本来ならば結界によって守られている聖都に侵入できる手段を与えておきながら魔族を始末する理由がわからない。

 魔族を殲滅するための罠なのか。
 それとも別の目的があるのか。

「とりあえずギルを見つけねえと」

 問い詰めるのは後回しにして、俺は教会本部を目指して大通りを走った。

 通りに面した店は一軒も営業していない。出入り口はすべて固く閉じられている。住民の姿はどこにもなく閑散としていた。

 しばらく進むと広場があり、正面に教会本部が聳え立っている。高い塔ばかりで奥まで見通せないが、黒煙はやはり教会本部が発生源とみて間違いないようだった。

 足を踏み入れようとした瞬間、爆発音と同時に瓦礫が飛んできた。慌てて避け、爆発した場所を探す。すると、教会本部と広場の境に建てられた鉄製の飾り柵の上に何者かの姿があった。

「……誰もいないって聞いてたのに」

 癖のある長めの前髪で目元を隠している、背が高くて細身の魔族。人嫌いのルオムだ。

「おい。マルヴは一緒じゃないのか!」
「……ラースに教える義理ないんだけど」

 ルオムも前回の件を根に持っているようだ。前髪から覗く目が俺を睨みつけている。

「バアルはどこ? ラースを探すために別行動してたんだけど」

 柵の上に立った状態で辺りを見回すルオム。

「……、バアルは……」
「もしかして、バアルになにかした?」

 言い澱む俺の様子からなにか察したらしい。それまで静かに佇んでいるだけだったルオムから物凄い圧を感じた。膨大な魔力の塊が周囲に満ちている。さっきバアルと対峙した時と同じだ。俺とルオムの魔力がぶつかるたびにバチバチと火花が散っている。

「ねえ、ラース。バアルをどうしたの」

 柵から飛び降り、軽やかに地面に着地するルオム。目元が隠れているから表情は見えないが、今は確実に怒っている。一歩近付くたびに魔力の圧が強くなり、俺は思わず数歩下がった。

「教えてくれないならいいよ。消すだけだから」

 答えられずに黙り込む俺に痺れを切らしたルオムが魔力を頭上に集め始めた。見るからに強力で広範囲に影響を及ぼしそうな攻撃魔法を発動しようとしている。手が届く距離まで近寄れば簡易結界装置が使えるが、下手に動けば今すぐにでも発動されてしまう。

 どうしようかと迷っていると、すぐ近くで爆発音が鳴り響いた。ルオムの集中が途切れ、集めていた魔力がパッと霧散する。その隙をつき、地面を蹴って一気に距離を詰めようとしたが……。

「──引っ掛かったね」

 にやりと口元を歪めて笑い、ルオムは魔力を瞬時に立て直した。俺の油断を誘うため、わざと魔力が霧散したかのように演じていたのだ。

「ばいばい、ラース」

 ルオムの頭上で渦巻く赤黒い炎の塊。あれをぶつけられたら一瞬で消し炭になりかねない。魔力の壁を作って防ごうとした時、ルオムの背後に小さな人影が見えた。

「うんしょ、っと」
「がっ」

 小さな人影は手にした棒を振り回し、ルオムの後頭部をぶん殴った。集中が途切れ、炎の塊が搔き消える。いきなり訪れた好機を逃さず駆け寄り、ルオムのそばで簡易結界装置を起動させた。

「ぐ、くそ、まだ誰かいたのか」

 結界の効果により動きを封じられたルオムが地面に膝をついた。殴られた後頭部を手のひらで覆いながら苦しげに呻いている。結界の効果が続いている間は無害なのだが。

「えいっ」
「ぐはっ」

 小さな人影は容赦なく追撃を喰らわせた。ルオムは気を失い、地面に倒れて動かなくなってしまった。

「……方法はともかく、助かった。ありがとな」
「えへへ。間に合ってよかったぁ」

 俺を助けてくれた小さな人影の正体はテオだった。

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