【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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78話・英才教育の成果と謎の目撃情報

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 教会本部前の広場にいるはずのない人物に危ないところを救われ、俺は自分の目を疑った。

「テオ、どうしてここに」

 大陸中から集められた半魔族は聖都の保護施設に入れられる。高い壁、ひとつしかない施錠された出入り口、そして門番がいる。自由に外出なんてできないはずだ。

 俺の問いにテオは誇らしげに胸をそらし、懐からあるものを取り出して見せつけてきた。銀の鎖に通されたグレフ教の紋章入りの首飾りと、以前渡した御守りが一緒に揺れている。

「ギルの首飾りか」
「うんっ。このまえギルがかしてくれたんだ」

 テオによれば、先日会いに行った時に渡した紙袋に入っていたという。

「職員さんにもギルが話をしてて、ぼくが外に出たいっておもったときに出てもいいよっていわれた」
「そうだったのか」

 グレフ教の紋章入りの首飾りは単なる身分証ではない。結界装置を開けるために必要な道具である。そんな大事なものをテオに託し、いつでも外に出られるように手配していたとは知らなかった。テオの後見人がギルであり、実際に面会に来たという実績があるからこそ外出が許されたのだろう。

「でも今聖都は危ないんだぞ。テオは保護施設の中にいたほうが安全じゃないか?」

 俺の言葉に、テオはふるふると首を振った。

「あぶないからだよ。ぼくはレイをまもるために外に出てきたんだから」

 迷いのない真っ直ぐな瞳に見つめられ、なにも言えなくなる。実際テオには助けられている。もし来てくれなければ、俺はさっきこの場で死んでいたかもしれないのだ。

「……そっか、ありがとう。本当に助かった」
「えへへ、レイのやくにたててよかったよぉ」

 へにゃりと笑うテオを抱きしめ、わしわしと頭を撫でてやる。今までは俺が守ってやらなくてはと思っていたが、いつの間にかテオは守る側に立っていた。子どもの成長の早さに涙が出そうになる。

「でもね」
「うん?」

 テオは俺に向かってニッと笑いながら言った。

「ギルからたのまれてたんだよ。レイをまもれって」
「いつ? この前の面会の時か?」
「ううん、もっと前。はじめてであったときからずっとそういわれてきたんだよ」

 初めて出会った頃、テオは今よりずっと小さくて細くて弱い存在だった。バルプルドからカダロードまで移動するたった数日の間にそんな話をしていたなんて知らなかった。いや、確かに内緒話はしていたが、まさか俺を守れと言い聞かせていたなんて。

 ほんの少しだけギルに対して不信感が芽生えていたけれど、今のテオの言葉で胸を鷲掴みにされてしまった。ギルは俺が考えるよりずっと俺のことを大事に想ってくれている。

「嬉しいけど、でもやっぱ危ないしなあ。フィッツのところで待っててもらおうかな」

 いくら俺を守るためとはいえ、テオはまだ幼い。さっきは不意をつけたが、毎回そううまくいくはずがない。危険な場所に連れて行きたくないのだが。

「ぼく、まほうつかえるようになったんだよ。だからレイのやくにたてるとおもう!」
「えっ!?」

 まさかの発言に、つい大声で聞き返してしまった。戸惑う俺の前で、テオは両手を頭の上に掲げて気合いを入れ始める。すると、小さな炎がなにもない空間に現れた。

「ほらね」
「マジか」

 驚き過ぎて目を丸くする俺に、得意げに笑うテオ。

 半魔族は魔法が使えないというのは人間側の勝手な思い込みで、実は魔力を持っているという。もちろん生粋の魔族には劣るし、保護施設にいる半魔族には魔法という概念すらない。

 しかし、テオは俺が魔法を使っている姿を近くで見ている。自分にも魔法が使えるはずだと信じた結果、実際に使えるようになったのだろう。

「いっしょにたびをしてるときにギルがおしえてくれたんだよ。あたまのなかにおもいうかべたらいいよって」

 ギルはテオに英才教育を施していたらしい。

 今さら保護施設に帰すわけにもいかない。自分の安全を最優先にすると約束させた上で連れて行くことにした。

 教会本部の入り口には警備兵が立っているはずだが、今は内部に侵入した奴を探しに行っているようで誰もいなかった。

 建物に入るとまず礼拝堂が広がっていた。天井が高く、上部にある大きな窓から光が射し込んでいる。綺麗に磨かれた床にはたくさんの長椅子が並び、その正面にある立派な祭壇には唯一神グレフの像が飾られていた。

 像を横目に、礼拝堂の壁にある扉を開けて進む。ここから先は教会の関係者しか立ち入らない区域となる。長く幅の広い廊下が奥まで伸び、等間隔で左右に扉や通路がある。初めて入った建物だから構造がわからず、とにかく奥へと走った。

 途中何度か爆発音が聞こえてきたが、やはり発生源は教会本部の奥で間違いないようだ。

 しばらく走ったところで、右手の通路から近付いてくる複数の足音に気が付いた。一旦足を止め、テオを背に庇って様子を窺う。

「なんじゃ、おまえさんだったか」
「イムノス!」

 通路から顔を出したのは数人の兵士を引き連れたイムノスだった。どうやらこの通路の向こうは分家の屋敷に通じているらしい。

 兵士たちは教会本部に侵入している半魔族二人に警戒して剣を抜こうとしたが、イムノスが間に入って取りなしてくれた。

「この者たちはギルバートの大事な連れじゃ。危害を加えてはならん。……というか、テオはなぜ保護施設から出ておるんじゃ?」
「まあまあ、あとで説明すっから!」

 イムノスはカダロードから聖都まで送り届けたこともあり、テオをよく知っている。故に、適当な対応でも「まあいいか」と流してくれた。

「俺たちは音がするほうを目指してるんだが、イムノスはどこへ行くんだ? ラウール家の屋敷でフィッツと指揮を取ってたんじゃないのか」

 俺の問いに、イムノスは唸りながら答えた。

「教会本部の中で『エマリエを見た』という者が続出しておってな、確認のためにワシが呼ばれたんじゃ」

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