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79話・教会本部は迷路のような施設である
しおりを挟むエマリエ・アーネスト。ギルの腹違いの妹で、一年前に起きた聖都襲撃事件で命を落としたと聞いている。
その姿を見かけたという者が何人も現れ、ちょっとした騒ぎになっているらしい。
「わ、わたしは本当に見たんです! 暗がりの中、一人彷徨うエマリエ様の姿を!」
「わたしもです! お召し物や雰囲気は違いましたが、確かにエマリエ様のお顔をしておりました!」
イムノスと一緒にいる兵士二人が青い顔で証言している。おそらく教会本部の警備兵なのだろう。生前のエマリエを見かける機会がそこそこあったらしく、二人とも確かに本人だったと言い張っている。
「エマリエは一年前に亡くなっとるし、ワシも遺体を確認しておる。見間違いだと思うんじゃが」
「いいえ、そもそも現在教会本部内に若い女性は一人もおりません! ジーレン様の身の回りを世話する者以外、下働きも含めて若い女性は避難しております!」
「他の者と見間違えたわけではありません!」
「……というわけで、放っておくわけにもいかんからワシが直接確認しに行くことにしたんじゃ」
困り顔で肩をすくめるイムノス。兵士たちの混乱を抑えるためとはいえ、今はそれどころではないんだが。
そこで俺は気が付いた。
イムノスたちは聖都内に魔族が侵入した件を知らないのではないか。だから教会本部内をウロウロしていて平気なのか、と。
更に言えば、俺には目撃されたエマリエの正体に見当がついている。
「ソイツらは本当に見たんだと思う。だが、エマリエじゃない。危ねえから、さっさと屋敷に帰れ」
「せっかく来たのに戻れと言うのか」
「だからぁ、いま聖都に魔族が侵入してきてんの! ソイツらが見たのはエマリエそっくりな魔族なんだよ。次に遭遇したら死ぬぞ!」
「なっ……」
俺の言葉に固まるイムノスたち。にわかには信じられないようで怪訝な顔をしている。
「聖都に魔族が入れるわけなかろう。しかも、教会本部には結界装置が複数設置されとる。もし入れたとしても魔族が自由に動けるはずが……」
動揺を隠せないイムノス。兵士たちも「なに言ってんだこの半魔族」みたいな顔で睨みつけてくる。だが、なにも知らずにいたら危険なのだと教えておかねばならない。
「行くなら勝手にしろ。だが最大限警戒しておけよ。ここから先はどうなるか俺にもわかんねえんだからな!」
そう言い残し、走って立ち去ろうとしたのだが。
「レイ、そっちじゃないよぉ」
テオに服の裾を掴まれて止められた。
「なぜ入り口に向かうんじゃ、逆方向じゃろ」
不思議そうに首を傾げるイムノス。
「……まっ、間違えただけだ!」
廊下の分岐点で話し込んでしまったため、どこから来てどこへ行くのか方角を見失ってしまったのだ。教会本部に入ったのは今回が初めてなのだから仕方がない。改めて別の道に行こうとしたら……。
「そっちは分家の区域行きじゃ。大丈夫か?」
「…………」
ちょっと、いやかなり居た堪れない空気になった。駆け出そうとした体勢で固まる俺の手をテオがそっと掴む。
「たぶんあっちだとおもう」
「おお、レイよりテオのほうが勘が良いのぉ!」
「…………」
断じて俺が方向音痴というわけではない。長くて幅の広い廊下がずーっと続いてる上に途中にある分岐した廊下も同じ造りだから悪いんだ。
「あ、あの、よろしければわたしが先導しますので」
兵士にまで気遣われてしまい、もう俺たちだけで行くとか言えなくなった。
兵士たちが先を行き、俺とテオ、イムノスが後に続く。長い廊下には他にも分岐点が幾つかあり、兵士たちは時折り角を曲がったりしながら進んでいった。真っ直ぐ突き進むつもりだったのだが、道案内がいなかったらどこに辿り着いていたのだろう。
「なんかさぁ、無駄に広くねえか? ここ」
「確かに広いのぉ教会本部は」
迷子になった言い訳に聞こえるかもしれないが、思わず愚痴をこぼしてしまう。ブツブツと文句を言う俺にイムノスが同意してくれた。
「壁の向こうは書庫や倉庫、使用人の作業部屋だったりするんじゃ。今より本家の者が多かった時はこの辺りまで居室として使っていたらしいが、ワシもすべては把握しておらん。ジーレン様は敵襲を警戒して時々居住区を移しておるそうじゃ」
警備兵も担当する区画以外は詳しくないという。
「そろそろ着きます」
先導している兵士が指差したのは、廊下の突き当たりにある立派な扉だった。天井高の一枚板の扉を開くと、廊下とは違う造りの空間が広がっている。
「こちらが現在ジーレン様が生活している区域になります。もっとも、近頃は一番奥の寝所にしかお出ましになりませんが……」
「エマリエを見た場所は?」
「この辺りです」
説明を受けながら進んでいくと、使用人らしき老女が数名駆け寄ってきた。みな困惑した表情をしている。
「イムノス様、先ほどエマリエ様が!」
「おぬしらも見たのか。ワシは確認しに来たんじゃ」
「空き部屋を幾つか覗いてらして、今は廊下の奥に。やはりあのような亡くなりかたをしたから……」
使用人の老女たちは口々に目撃情報を話してくる。どうやら今も近くを彷徨っているらしい。兵士といい使用人といい、全員がエマリエだと言い張っている。そんなに似ているのだろうか。
山でマルヴを見た時、ギルは「エマ」と呟いていた。異母兄であるギルでもそう思ってしまうのだから、他の人間からすればそっくりとしか言いようがないのかもしれない。髪と肌の色が違っていても顔の造形が瓜二つなのだろう。
ならば、実の父親であるジーレンもマルヴをエマリエだと認識する可能性が高い。
「おい、廊下が塞がってるぞ」
「少し前からいろんな場所で爆発が起きて壁が崩れてしまって。原因がわからず、まだ片付けが追いついていないのです」
ジーレンの居住区内に入ってからというもの、何ヶ所か壁や天井が崩れて通れない場所があった。俺が魔法で瓦礫を退け、苦労しつつ先へと進む。
「爆発音や黒煙の出どころはここみたいだな」
幸い火事にはなっていないが、ところどころ焦げて煙が上がっている場所もあった。マルヴが魔法で破壊して回っているのだろうか。
部屋を見て回っている理由は、人間に奪われた混血……半魔族たちを探しているからだ。
「ああ、この先にはもうジーレン様の寝所しかありません! どうしましょう!」
使用人の老女が慌てふためき、兵士に縋り付く。
魔族ではなくエマリエの亡霊だと思い込んでいるせいか、兵士は及び腰だ。しかし。
「ギャアアアア!!」
奥から男の絶叫が聞こえた瞬間、血相を変えて駆け出した。グレフ神の血を最も濃く受け継ぐ尊き存在の身に危険が迫っている。俺たちも兵士の後を追いかけた。
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