【完結】世界の涯てで君と踊る

みやこ嬢

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81話・この状況を作り出した張本人は

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 半狂乱状態のジーレンが一年前の聖都襲撃事件の日にあったであろう出来事を叫んでいる。予定より早く寝所に呼んだ結果、エマリエは運悪く魔族に襲われて命を落としてしまった、と。

「さっきからうるさいなー。アンタの話なんかどーでもいいんだけど。死んじゃえ」

 顔を見るたびに意味不明なことばかり言われ続けてきたのだろう。マルヴはついに我慢の限界を迎えた。俺に向けて練っていた魔力を使い、自分の周囲に生み出した無数の水の刃を勢い良く飛ばしてきた。

「ジーレン様、危ない!」

 咄嗟に前に出て庇おうとするイムノスの腕を掴んで止めたら物凄い形相で睨まれた。

「バカモン! ジーレン様に万が一のことがあれば大変なことになるのじゃぞ!」
「代わりにオマエが死ぬつもりか!」
「ワシにはグレフ神の血は流れておらん! 迷う必要がどこにある!」

 神の血がそんなに偉いのか?

 そう思った瞬間、全身の血が沸騰したような感覚がした。イムノスと、不本意だがジーレンもついでに魔力の防壁で覆ってマルヴの攻撃魔法から守ってやる。俺の防壁に当たった水の刃は形を失い、ただの水となって絨毯に浸み込んでいった。

「ジーレン様、イムノス様、お下がりください!」

 イムノスに出遅れていた兵士たちがマルヴとジーレンの間に立つ。使用人の老女たちまでもが同じようにジーレンを背に庇った。コイツらも身を呈してジーレンを守ろうとしている。

 グレフ神の血は結界装置の維持に必要不可欠。人間たちの領域を魔物や魔族から守るため、絶やしてはいけないのだと理解している。でも、ギルと一緒に旅をして、フィッツから話を聞いて、少なくない犠牲と苦悩の上に成り立つ脆い仕組みなのだと感じた。

「ふん、付き合ってらんない」

 睨み合いに飽きたのか、不意にマルヴが背を向けた。イムノスが安堵の息を漏らし、ジーレンを逃がせと身振り手振りで指示を出す。無言で頷き、ジーレンを廊下へと誘導する兵士たち。

「エマリエぇ、今度こそ子を授けてやる! 授かるまで抱いてやる! 役目をまっとうさせてやるからなぁあああ!」

 だが、正気を失っているジーレンが再び喚き始めた。聞くに堪えない内容に、耳を塞ぎたくなる。それはマルヴも同じだったらしい。

「うるさいなー。もう黙ってくれない?」

 マルヴの苛立ちに呼応するかのように、いきなり床から氷の刃が伸びた。しかも、ジーレンの真下から。

「ぎゃあああああ!」

 鋭い氷の刃はジーレンの脇腹や腕を切り裂き、
 鮮血が溢れ出す。絶叫を聞きながら、俺たちは驚愕した。

「ど、どうしてジーレン様だけ攻撃を……」
「我らが前にいたのに」

 マルヴとジーレンの間には俺や兵士、イムノスが立っていた。そして、ジーレンの左右には使用人の老女たちがいた。にも関わらず、突如現れた氷の刃はジーレンだけを貫いている。

「レイ、さっきの水かも」
「! そういうことか」

 テオの言葉にようやく合点がいった。さっき水の刃を防いだ時、水は消えずに絨毯に浸み込んでいった。魔力で生み出した水なのだから、無効化されれば本来は消えるはず。だが、マルヴは次の攻撃に使用するために刃の形を解いて水の状態にしていた。隙をついて水を凍らせ、再度攻撃をしたのだ。

「あはは、ざまーみろぉ!」

 痛みにのたうち回るジーレンを愉快そうに眺め、マルヴはケラケラと笑っている。

 しかし。

「え、なにこれ、ああああああ!!」

 ジーレンが流した血が宙を舞い、マルヴに吸い寄せられてゆく。血が付着するたびにジュッと焦げるような音がして、マルヴの肌が焼けただれていった。

「あ、熱い、痛い! やだ、なんで?」

 マルヴは辺りを見回し、自分の身になにが起きているかを把握した。原因がジーレンの血にあると気付き、怒りで目を吊り上げる。

「アンタのせいで! 許さない!」

 手足や顔に醜い火傷痕を作ったマルヴがジーレン目掛けて飛び掛かる。邪魔な兵士たちを蹴り倒して退かせてから、ジーレンを直接ブン殴った。

「ぎゃああああ! エマリエぇ、なぜだぁああ!」
「うぐっ、このジジイ! さっさと死んじゃえ!」

 拳に魔力をまとわせているのか、小柄な体躯のマルヴに殴られただけでジーレンはかなりのダメージを受けていた。同時にマルヴもダメージを受けるわけだが、怒りに我を忘れたせいで後先考えずに攻撃を続けている。

「ジーレン様ぁ!」
「退がれイムノス!」

 助けに行こうとするイムノスを止める。

 魔法でマルヴを退けようとしたが、二人の距離が近過ぎて難しい。下手をすれば俺がジーレンを攻撃してしまいかねない。どうしようかと迷っているうちに、先にマルヴに限界がきた。

「うぅ……くそッ……」

 殴っている間もずっとジーレンの血がマルヴの肌を焼き続けていたのだ。見た目以上に酷いらしく、苦しげに呻きながら床に崩れ落ちた。

「……は、はは。ひゃはは! 父に逆らうから天罰が下ったのだぞ、エマリエぇ!」

 倒れたマルヴを見下ろし、ジーレンが勝ち誇ったように高笑いを響かせた。散々殴られた顔は醜く腫れ上がり、脇腹や腕には氷の刃で切り裂かれた傷がある。満身創痍だが、見る間に傷が治ってゆく。グレフ神の末裔は回復力が高い。ジーレンも例外ではなく、むしろギルより回復速度が早いように感じた。

「ああ、良かった。ジーレン様」

 イムノスがホッと安堵の息を漏らした時だった。

 突如寝所の天井がひび割れ、大きな瓦礫が落下した。ジーレンは瓦礫の直撃を受け、押し潰されている。あまりにも急な出来事に、俺たちはなにも反応できなかった。しばらく無言で瓦礫を眺める。じわ、と瓦礫の下から血が広がり、敷き詰められた絨毯を赤く染めていった。

「おや。うまくいきましたね」

 理解が追いつかずに立ち尽くす俺の耳に聞き慣れた声が聞こえた。ハッとして顔を上げ、辺りを見回す。

「レイ、あそこ」

 先にテオが見つけて上を指差す。大きく開いた天井の穴からは澄んだ青空が見える。そこから一人の男が寝所へと飛び降りてきた。

「……ギル」

 瓦礫の横に降り立ったギルは俺たちに朗らかな笑顔を向けてきた。

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