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私は義理の母に笑いかけてもらいたいのです
しおりを挟む無理やりローガン様を抱いた後、自宅に戻ったのが昨夜のこと。一夜明けたら屋敷の周りを兵士が取り囲んでいるんじゃないかと思ったが、残念ながらいつもと変わらぬ平穏な朝を迎えていた。
シュタルク侯爵家は王都の貴族街の中心部に屋敷を構えている。父は内務大臣として毎日王宮に出仕する。私は貴族学院在学中から王国軍で訓練を受け、卒業後に王太子であるローガン様の護衛兼側近として公務に付き従っている。父は国王に、私は次期国王に仕えているということだ。
身支度を整えてから食堂に入ると、既に私以外の家族が席についていた。
「父上、おはようございます」
「うむ」
まずは父に頭を下げ、それから自分の席につく。
我が家では父の出仕前に家族揃って朝食をとる習慣がある。昼間は仕事、夜は夜会などでそれぞれ予定が入る可能性が高い。せめて一日一度は顔を合わせようと父が決めたのだ。
「義母上、ルイン、おはようございます」
「ええ、ヴァイン。おはよう」
「兄さま、おはようございます」
続けて義母と歳の離れた弟に挨拶をする。
二人は向かいの席に並んで座っており、窓から差し込む朝日に照らされていた。まるで教会に飾られている聖母子像のようだと毎回思う。弟ルインに向ける義母の笑顔は本当に優しく穏やかで、ほんの少しでもいいからその顔を私にも向けて貰えないだろうかと願わぬ日はない。
だが、その願いは叶わないのだ。
私がシュタルク侯爵家の跡取りである限り。
私の母は私を産んですぐに亡くなった。出血が止まらず、王国で一番の医師にも助けられなかった。
だが、幼い頃の私は寂しい思いをした覚えがない。世話係としてそばにいてくれる女性がいたからだ。それがレネリアだった。彼女は没落した貴族の令嬢で、当時住む場所を失って困窮していた。不憫に思った父が住み込みで雇い、私の世話をさせたのだ。
没落したとはいえ貴族学院を卒業した令嬢である。遊び相手を務めるだけではなく、勉学や礼儀作法もイチから優しく教えてくれた。私はすっかりレネリアのことが好きになっていた。
恋心を自覚した頃、父とレネリアが結婚した。母を失った私の寂しさを埋めてくれたように、妻を失った父の寂しさも埋めていたらしい。最初から後妻に迎えるために住まわせていたのかもしれない。
父と結婚してからも、レネリアは優しかった。家族としてずっと一緒にいられるのなら構わない、と恋心を吹っ切った頃、腹違いの弟が生まれた。
これが分岐点となった。
優しかったレネリアはルインの世話にかかりきりになり、私には見向きもしなくなった。生まれたばかりの赤ん坊相手に嫉妬するほど幼くはなかったが、一抹の寂しさを感じた。
レネリアはルインが貴族学院に入学する年齢になっても溺愛し続け、ずっと私を避け続けている。義理とはいえ親子だというのに、ルインが生まれる前のように笑いかけてはくれない。笑顔が向けられる先はいつもルインだけ。
どうしたら再び笑顔を向けてもらえるのか。その方法をずっと考え続けている。
「ヴァイン。今日の予定は?」
「いつもと同じです。帰りは遅くなるかもしれませんが」
「そうか。殿下によろしく伝えてくれ」
「わかりました」
同じ王宮内だが、父は大臣の執務室、私はローガン様に同行するのでほとんど顔を合わせる機会がない。予定を聞かれるのもいつものことだ。
もしかしたら、王宮に行ったら兵士が待ち構えているかもしれない。私が捕まったら、父はどんな顔をするだろう。
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