【完結】断罪待ち悪役令息と絶対断罪しない王太子殿下

みやこ嬢

文字の大きさ
9 / 43

私は義理の母から疎まれているようです

しおりを挟む

 深夜に帰宅すると、屋敷は最低限の明かりだけが灯されて薄暗かった。夜番の使用人に出迎えられるが、食事も入浴も王宮で済ませている。特に頼むこともないので、そのまま自室へと向かった。

 階段を登り、二階の廊下を歩いていると、自室の扉の前に小さな人影があった。人影は私の姿を見るなり、小走りで駆け寄ってくる。

「兄さま、おかえりなさいませ!」
「ルイン」

 人影は異母弟のルインだった。就寝時間はとっくに過ぎているので、白い寝間着を身につけている。ふわふわした明るい栗色の髪は母親譲りで、薄暗い場所でもよく映える。年の離れた可愛い弟だ。

「こんな時間にどうした」
「なんだか眠れなくて。そしたら馬車の音が聞こえたので、部屋から抜け出してきました」
「そうか。うるさくしてしまったな」
「いいえ! 遅くまでお仕事お疲れ様です」

 廊下は声が響く。とりあえず、ルインを私の自室に招いてソファに座らせた。寒い時期ではないが夜は冷える。膝掛けを渡してやると、ルインはパァッと笑顔になった。

「明日も授業があるのだろう。早く寝ないと起きられなくなるぞ」
「はい。……でも」
「でも?」

 話しながら、だんだん声が小さくなった。膝掛けを握りしめて俯いている。続きを促すと、ルインはためらいながら口を開いた。

「ここのところ朝食の時にしか兄さまにお会いしていないではないですか。食事中はお喋りしてはいけないし、食べ終わったらすぐお仕事に行ってしまわれるし。ぼく、もっと兄さまとお話したくて」

 私との時間を作るため、わざわざ夜中に部屋を抜け出してきたということだ。いじらしく可愛らしい言動に思わず表情がゆるんでしまう。

 同時に帰宅が遅くなった理由を思い出し、激しい自己嫌悪に陥る。父を避け、私に笑顔を向けてくれない義母を避け、義母の愛情を一身に受ける弟を避けていた。ルインが私の帰宅を待ち侘びている頃、私はローガン様に己の欲をぶつけていたのだ。

 こんなひどい男だと知ったら、ルインはきっと私を今のように慕ってくれないだろう。

「近いうちに時間を作ろう。だから、今夜はもう部屋に戻るんだ。いいね?」
「ほんとうですか? うれしいです」

 ルインは素直に頷き、ソファから降りた。もう悲しい顔はしていない。いつもの明るく人懐こい笑顔を浮かべている。

「さあ、部屋まで送ろう」
「はいっ」

 同じ階にあるとはいえ、ルインと私の部屋は距離がある。夜中に一人で歩かせるわけにはいかない。

 並んで歩いていると、廊下の向こうに明かりが見えた。誰かが手燭を持って立っている。

「ルイン」
「母さま!」

 明かりを持っていたのは義母だった。いつも高い位置で綺麗に結われている髪は下のほうで一つにくくられ、寝間着の上にガウンを羽織っている。手燭の揺らめく明かりに照らされた姿は妖しいほどに美しい。

「物音がしたと思ったら、部屋から出ていたのね」
「兄さまとお話したくて」
「……そう。お兄様はお疲れなのよ。あまり我が儘を言って困らせてはいけません」
「はい。ごめんなさい」

 軽くたしなめられ、うなだれるルイン。義母は私を見ることなく、自分の腰に抱きついている我が子ルインの背を優しく撫でている。

「私は迷惑だと思っておりませんよ」

 否定すると、ルインは嬉しそうに「ほんと?」と笑顔を向けてきた。だが、義母は相変わらず私を見ようともしない。

「ルイン。お兄様におやすみの挨拶をして」
「はいっ! 兄さま、おやすみなさいませ」
「ああ。おやすみ、ルイン」

 そのまま義母は私に背を向け、ルインの部屋の扉に手をかけた。今夜はルインに添い寝してやるのだろうか。幼い頃、私にしてくれたように。もうあんな風に同じ寝台で眠ることはできないとわかっているのに、それが許されているルインが羨ましくてたまらなかった。

「……おやすみなさい、義母上ははうえ

 二人が部屋の中に消え、扉が音を立てて閉まる。薄暗い廊下に一人残された私は義母への挨拶を呟いてから自分の部屋へと戻った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い

おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。 家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。 でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい! 二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……? 真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ 独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。 基本明るい受け視点。中~長編になります。

何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。 ――それでも、心はまだ、生きたがっていた。 ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。 自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。 貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。 「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」 そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。 ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。 互いに死に場所を探していたふたり。 その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。 しかし、運命は安穏を許さない。 過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。 異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。 だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。 傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。 ――これは、「終わり」が定められた者が、 「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...