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往復一週間の視察旅行が始まりました
しおりを挟む「視察に行くぞ。ついてこい、ヴァイン」
「了解致しました、ローガン様」
今回の視察は数日間の予定で組まれている。場所は国境に建つ王国軍管轄の砦で、老朽化の件で陳情書が届いていた。軍務長官からは補強工事で十分だと言われている。だが、内務大臣である父が「長い目で見た場合、平和な時期に建て替えておいたほうがよいのではないか」と言い出し、意見が割れてしまった。
ローガン様の報告次第で補強工事か建て替え工事にするかを決定するらしい。前回の護岸工事の視察といい、かなり重要な仕事である。
王都から国境までは馬車で三日ほど。砦の視察に一日かかると考えれば、往復で一週間留守にすることになる。
異母弟のルインに「近いうちに時間を作る」と約束したばかりだというのに、ささやかな願いすら叶えてやれない自分を不甲斐なく思う。せめて出先で土産を買ってやろう。そんなことを思いながら、馬車の窓から外の景色を眺めている時だった。隣に座るローガン様が話しかけてきた。
「どうした。考え事か」
「ええ、ルインのことを」
「おまえの弟はミレーナと同い年だったな」
ミレーナ様はローガン様の妹で、ルインとは貴族学院で同じクラスに所属している。ローガン様と同じ赤く鮮やかな髪と金の瞳を持つ、とても可愛らしい王女殿下である。
「時間を作ると約束した矢先に一週間留守にしてしまうので、土産を買って機嫌を取らねばと考えておりました」
「なるほど」
私の話に相槌を打つローガン様。他愛のない雑談でもキチンと聞く姿勢を見せてくださる。
「俺もミレーナから土産を頼まれているが、行き先は国境だろう? 喜びそうなものがあるだろうか」
「確かに」
国境には王国軍の砦ぐらいしかない。近くにあるのは農村ばかりで、気の利いた土産を扱う店はない。当然のことだが、王都の雑貨屋のほうが品揃えや品質が良い。
「帰りに寄る町でなにか見繕うとしよう。その時は一緒に選んでくれ」
「もちろんですとも」
途中何度か休憩を挟みつつ、日が暮れる前に大きな町で宿を取った。
今回の視察の供は私だけではない。私たちが乗っている馬車の他に荷馬車が一台、更に護衛の兵士が馬で並走している。町で一番良い宿を貸し切り、上階にローガン様と私、下の階に兵士や御者などが泊まることになっている。
「では、ローガン様。おやすみなさいませ」
食堂で食事を済ませ、上階にある貴賓客用の部屋へとローガン様を案内する。私は隣の部屋に泊まるため、廊下で就寝前の挨拶をしたのだが。
「えっ……」
なぜかローガン様が目を丸くしていた。きょとんとした顔で扉に手をかけたまま立ち尽くしている。どうしたのだろうと首を傾げると、ローガン様はハッと我に返った。
「すまん、一緒に過ごすものだと勝手に考えていた」
どうやら私が同じ部屋に泊まるものだと勘違いしていたらしい。思い込みを恥じているのか顔を真っ赤にしている。
「行きの馬車でもずうっと一緒でしたのに、まだ私と過ごしたいのですか?」
赤面した顔をもっと見たくて、わざと意地の悪い質問をしてみた。
「あ、いや。おまえの時間を奪いたいわけではないのだが、王宮以外で過ごすなんて滅多にないし、明日も馬車での移動だけだから、多少夜更かししても問題ないと思ってだな」
慌てて弁解する姿も可愛らしい。部屋の扉を開け、ローガン様の手を引いて中へと入る。後ろ手に内鍵を閉めてから、再度尋ねてみた。
「さあ、どう過ごしましょうか」
先ほどまでの赤面はどこへやら。私が一緒に過ごすとわかった途端、ローガン様はパァッと表情を明るくした。
「風呂に入ってから晩酌しよう! 部屋に用意してあると宿の者が言っていた!」
「晩酌、ですか」
確かに、テーブルにはワインのボトルが数本とグラスが二つ、つまみのチーズやナッツ等が用意されている。時間を気にせず飲み明かそうというわけか。夜の誘いかと勘違いした私が一番の愚か者だった。
その夜は二人で酒を飲み、日付が変わる頃に解散してそれぞれの部屋で眠った。
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