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王太子は私の昔馴染みに嫉妬したようです
しおりを挟む私は貴族学院在学中、長期休みのたびに王国軍で修行していた。亡き母の友人だったアミル様が誘ってくれたことがきっかけだった。
当時の私は荒れていて、小さないたずらから笑えない悪事まで、一人でやれることは大体やったと思う。ほとんどローガン様に発見、妨害されて大ごとになる前に揉み消されてしまったのだが。
そんな私を更生させるべく、アミル様は一般兵士と変わらぬ鍛錬や任務を命じてきた。貴族のボンボンだと馬鹿にされたくない一心で耐え、乗り越えてきた。おかげで貴族学院卒業時には並の兵士より腕っぷしが強くなった。
王国軍で修行していた頃に知り合ったのがステイン先輩だ。私より幾つか年上の彼は飄々とした性格で、生意気な新入りが他の兵士から不当に扱われないようにさりげなく守ってくれていた。きっとアミル様からそう命じられていたのだろう。でなければ、行く先々に彼がいるわけがないのだから。
ステイン先輩は裕福な商家の出で、家柄は私のほうが上ではあるのだが、王国軍という組織の中では関係ない。在籍期間の長さと実力がものを言う世界である。故に、今でもステイン先輩には頭が上がらない。
「泣き虫だったオマエが王太子殿下の側近か」
「昔のことは忘れてください」
「つれない態度だなあ、オレとオマエの仲なのに」
先ほどローガン様の前で見せた丁寧な物腰や言葉遣いはどこへやら。ステイン先輩はすっかりいつもの調子で軽口を叩いている。
「無駄話するために呼び出したんですか?」
「数年ぶりなんだ。少しは話したいじゃねえか」
確かに久しぶりだが、廊下では積もる話もできない。そもそも今回は視察のために訪れている。旧交を温めに来たわけではないのだ。
「懐かしい話はまたいずれ。それより、浴室を貸し切りにするのでは?」
「あ、そうだった。また後で呼びにくるから」
「はあ」
階下へと降りてゆくステイン先輩の背中を眺めながら、私はつい大きなため息をもらした。悪い人ではないのだが、口数が多いので相手をすると疲れてしまう。
ステイン先輩の姿が見えなくなるまで見送ってから部屋へと向き直ると、扉がわずかに開いていた。建て付けが悪いせいで閉まらなかったのだろうか。
「戻りました、ローガン様」
部屋の中に入ると、ローガン様は窓際の椅子に腰掛けて外の景色を眺めていた。日が暮れて暗くなっているが、等間隔にかがり火が焚かれているため辺りは明るく照らされていた。宿舎の隣には砦がそびえており、見張り当番の兵士が交代している様子が見えた。
「外を見ておられたのですか」
「ああ。こういう場所に泊まるのは初めてだからな。なにもかもが興味深い」
「明日は砦の内部が見れますよ」
「楽しみだ」
ローガン様は窓の外に視線を向けたまま、私のほうを見ようとしない。話しかければ返事はするが、いつもならちゃんと目を見て話してくれるというのに。
「ローガン様、どうしてこちらを見ないのですか」
「いや、今は外を見ていたい気分なんだ」
「かがり火が照らす場所以外は真っ暗ですよ。もう兵士の交代も終わりましたし、見ていてもつまらないでしょう」
「そんなことはない」
これだけ言っても、ローガン様は頑なに窓の外を見続けている。まるで私から目をそらしているかのように。
「……廊下での話を聞いていました?」
「うっ」
カマをかけてみれば、ローガン様はぎくりと体を強張らせた。やっていないと言えばいいのに、嘘がつけない性格だからバレバレだ。
「盗み聞きなんて行儀が悪いですね」
「そういうつもりではなかったんだが、つい」
先ほど扉が半開きだった理由は閉め忘れや建て付けの悪さのせいではない。ローガン様が様子を窺うために開けたのだ。
「ベリーニ隊長に言い忘れたことでも?」
「違う」
「では、どうして?」
「……」
深く追及すると、ローガン様は黙り込んでしまった。言いたくないというより、どう表現したらいいかわからないといった感じだ。眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
ならば、私が言い当ててしまえばいい。
「ベリーニ隊長と私が親しげにしているから気になったんですか」
「えっ? いや」
「なにを話しているか聞きたかったのでしょう?」
「まあ、それは確かに」
「もしかして、妬いてくださったんですか?」
「ううむ、そうなのかも……?」
チョロ過ぎる。
ローガン様がまだ整理しきれていない感情に方向性を示すことで、私の良いように操作できてしまう。普段はしっかり自分の意見を持っている御方だというのに個人的な感情には疎い。こういうところが憎めないところでもある。
「ベリーニ隊長とは以前同じ班でお世話になったんですよ。数年ぶりに会ったので挨拶をしていただけです」
「そ、そうか」
私の言葉に、ローガン様がようやくこちらを向いた。あからさまにホッとしたような顔をするものだから、勝手に体が動いた。
「ヴァイン……?」
ローガン様の体を抱き寄せ、首筋に顔を埋める。
「どうした。疲れたか」
「そうですね。……少しだけ」
いきなりの抱擁に驚きながらも、ローガン様は拒絶することなく私の背中を撫でてくれた。服越しに感じる体温と手のひらの感触が心地良くて、つい先を求めてしまう。
少しだけ体を離し、間近で見つめる。きょとんとした目で私を見つめ返すローガン様の顎に指先を伸ばし、引き寄せようとした時、客室の扉がノックされた。
「どうぞ」
咄嗟にローガン様から体を離して返事をすると、ステイン先輩が扉を開けて入ってきた。
「殿下、大浴場の人払いが済みました」
「わかった」
「案内は必要ですか?」
「いや、ヴァインがいるから問題ない」
「わかりました」
そんなやりとりを経て、私たちは宿舎の大浴場へと向かった。
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