20 / 43
王太子はまたしても嫉妬しているようです
しおりを挟むステイン先輩の名前を出した途端、ローガン様の表情が強張った。どうしたのかと思い、歩み寄って顔を覗き込む。
「おまえはベリーニ隊長と仲が良いのだな」
「はあ、それなりには」
肯定すると、ローガン様は眉間にシワを寄せた。怒っているわけではなく、機嫌を損ねているようだ。
「どうかされましたか。気に障るようなことでも?」
私の言動によって不快感を与えたのなら改善せねばならない。不機嫌の理由を尋ねると、ローガン様はプイと顔をそらした。
「ちゃんと教えてください。このままではどう対処するべきかわかりません。私はなにか失礼をしましたか?」
ローガン様の両肩に手を置き、冷静さを心掛けながら再び尋ねる。先ほどまで普段通りだったというのに、急に態度が変わると不安になってしまう。問題があるならさっさと解決して、いつもの笑顔を見せてほしかった。
「教えてくださるまで離しませんよ」
「……っ」
肩を掴まれたまま、ローガン様はバツが悪そうに小さく舌打ちした。同時に、私の宣言が嘘ではないと理解しているようで、渋々だが口を開いた。
「ベリーニ隊長は、俺の知らないおまえを知っているんだろう。それが悔しいだけだ」
貴族学院の長期休みに入るたび、私はアミル様の計らいで王国軍での鍛錬に勤しんでいた。その間、王都の屋敷には戻らず、家族とも手紙のやり取りはなし。もちろん学友であるローガン様とも一度も連絡を取らなかった。ステイン先輩と共に過ごしていたのは確かなのだが。
「まさか、また妬いてくださったのですか」
「またって言うな!」
私の言葉に憤慨するローガン様。言い当てられて悔しかったのか、眉を吊り上げて怒っている。私が満面の笑みを浮かべている姿を見て更に機嫌を損ねるかと思いきや、意外にも素直に胸の内を吐露し始めた。
「以前おまえが言っていただろう。軍の知り合いに男が好きな奴がいる、と。もしやベリーニ隊長がその人物なのではないかと思ったら落ち着かなくてだな……」
確かに言ったな、と記憶を掘り起こしてみる。わざと怒らせようとして言葉責めをした時の話だ。あれを覚えていたらしい。
「昨夜だって、許可したらすぐにベリーニ隊長の部屋に行ったではないか」
「行ってほしくなかったんですか?」
「違う。ヴァインの交友関係に口出しするつもりはない。でも……」
そこでローガン様は言葉を詰まらせ、視線を伏せる。急かすことなく黙って続きを待つと、しばらくして再び語り始めた。
「……おまえが男の抱きかたをここで学んだのかと思ったら複雑な気持ちになっただけだ」
なるほど。かつて私とベリーニ隊長がそういう関係だったのではないかと疑っているということか。
「ローガン様、誤解です。私とベリーニ隊長はそんな仲ではありません」
「では別の者と関係を持っていたのか? 男好きの兵士がいたのだろう?」
どうも軍で男色を覚えたと思われている。まずはその勘違いから正していかねばならない。
「良いですか、ローガン様。王国軍は実力主義ではありますが、私は正規兵ではなくあくまで期間限定で修行にきた貴族の子息です。アミル様の庇護下にありましたし、誰も私に手出しなんてできません」
「そ、そうなのか……?」
一気に捲し立てると、ローガン様は目を瞬かせた。
「男色趣味の兵士もいましたが、発散する時はそういう店を利用するそうです。素人を相手にすると面倒だとかなんとか言ってましたよ。くだんの兵士は既に除隊しております」
ちなみに、男色趣味の兵士とはフィガロ先輩のことである。彼は自分好みの新入り兵士を庇って負傷したらしい。良いところを見せて惚れさせるつもりが予想以上に傷がひどくて引退したという。昨夜ステイン先輩から詳しい経緯を聞いた後で後悔したくらいだ。
「そうか、良かった」
ホッと安堵の息をはくローガン様。ここが壁の薄い宿舎じゃなければ抱き潰していたところだ。
「……口を塞げばイケるか……?」
「ヴァイン、なにをぶつぶつ言ってるんだ」
31
あなたにおすすめの小説
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い
おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。
家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。
でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい!
二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……?
真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ
独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。
基本明るい受け視点。中~長編になります。
何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について
桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。
――それでも、心はまだ、生きたがっていた。
ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。
自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。
貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。
「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」
そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。
ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。
互いに死に場所を探していたふたり。
その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。
しかし、運命は安穏を許さない。
過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。
異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。
だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。
傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。
――これは、「終わり」が定められた者が、
「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
【完結】異世界はなんでも美味しい!
鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ
異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。
頭は良くない。
完結しました!ありがとうございますーーーーー!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる