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因縁の相手に遭遇したので速攻で逃げました
しおりを挟む急遽予定を変更して立ち寄った町で、最も会いたくない人物に遭遇してしまった。
「ローガン様ぁ! まさか、あたくしに会いにきてくださったのですか? 嬉しい!」
「な、なぜここにディアナ嬢が」
長く艶やかな金髪をゆるく巻き、豪奢なドレスに身を包んだ令嬢が満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。対するローガン様は真っ青な顔で固まり、立ち尽くしている。
「失礼。これ以上近付かないでください」
咄嗟に間に割り込み、ローガン様を背にかばう。妨害された令嬢は美しい顔を不快そうに歪め、取り出した扇で口元を隠した。
「……あら、あなた。どこかで見た顔ね」
「一応私も貴族学院で同じクラスに在籍しておりましたよ。もっとも、あなたは途中で姿を見掛けなくなりましたが」
睨み合う私と令嬢。彼女は小さく舌打ちをしてから、改めてローガン様へと声をかけた。
「ローガン様ぁ、ひさしぶりに凛々しいお顔が見られて、ディアナは嬉しゅうございます。次は邪魔が入らない場所でお会いしましょうね♡」
「……」
ローガン様は黙ったまま答えない。返事がなくても令嬢はまったく気にすることなく「ごきげんよう!」と立ち去っていった。その姿が見えなくなるまで見送ってから、私は後ろを振り返った。
「もう大丈夫ですよ、ローガン様」
「あ、ああ。すまん」
私の上衣の裾を掴み、ガタガタと震えているローガン様。真っ青な顔には脂汗をかいている。明らかに尋常ではない様子だ。
「どうやらこの町はアヴェリシア侯爵家の領地のようですね。確認不足でした。すぐに出ましょう」
馬車へと戻り、出立するよう指示を出したのだが。
「車輪が破損?」
「はい。少し目を離している間に前輪が壊れておりまして。部品を調達して修理をしているところです」
「そうか。なるべく早く頼む」
「はっ」
同行の使用人と馭者が大慌てで馬車の修理に取り掛かっている。護衛の兵士も自分たちの馬を繋ぐために馬車から離れており、ちょうど誰も見ていない間に壊れていたという。そんなことが有り得るのだろうか。
馬車の中で待つことはできない。近くの宿で部屋を借りるよう使用人に指示を出したが、なぜかどの宿も満室だと断られてしまった。明らかに客がいなさそうな店も「修繕中でして」などと苦しい言い訳をされた。
宿屋の前でどうしたものかと思案していると、何者かが私たちのほうへと歩み寄ってきた。きっちりした格好をした壮年の紳士の顔を見て、私とローガン様は同時にビクッと体をこわばらせた。
「お困りのようですな」
「アヴェリシア侯爵……!」
私たちの前に現れた人物は元内務大臣のアヴェリシア侯爵だった。ちなみに、先ほどの令嬢はアヴェリシア侯爵の一人娘である。
「なんとまあ、運が悪い。馬車が壊れただけではなく宿屋にも空きがないとは。これでは居場所がありませんねェ、王太子殿下」
ニヤニヤと笑う侯爵を、ローガン様が睨みつける。
「あなたの差し金か、侯爵」
「まさか」
関与を疑われても、侯爵はまったく動じていない。
「出先で行き場を失うなど王太子殿下は運がない。ですが、偶然にもこの町にはわたしの屋敷がございます。ぜひお立ち寄りください」
やはりそうだ。侯爵はローガン様を自分の屋敷に招くためにわざと馬車を壊し、宿屋にも部屋を貸すことを禁じたのだ。
アヴェリシア侯爵の屋敷にはディアナ嬢がいる。絶対にローガン様を行かせるわけにはいかない。
「申し訳ありませんが、私たちは先を急ぎますので失礼いたします」
前に出て招待を辞退すると、侯爵の顔が不快そうに歪んだ。機嫌を損ねた時の表情は娘と瓜二つだ。
「貴様はシュタルク侯爵の、わたしを陥れた男の息子か。なんと生意気な! わたしは王太子殿下と話をしておるのだぞ、邪魔をするな!」
なにやら文句を言っているが、無視して馬車を停めている場所へと戻った。まだ修理は始まっておらず、斜めに傾いた車体を前に馭者が困り果てていた。
「護衛兵、馬を用意せよ」
近くにいた兵士に命じると、すぐに馬が連れてこられた。一番毛並みの良い馬だ。
「ローガン様」
「ああ」
まず先に私が跨り、前にローガン様を乗せた。一人掛け用の鞍だが腰を浮かせていれば問題ない。
「済まないが私たちは先に行く。護衛兵の半数は私たちに続け。残りは馬車が直り次第、共に王都方面へ迎え。途中で落ち合おう」
「はっ」
この町にいる限り安心できない。急遽馬で移動することにした。街道を半日ほど進めばアヴェリシア侯爵家管轄の領地から抜け出せるはずだ。
「ローガン様、馬の首から手を離さないでください」
「わかった」
ローガン様の脇に腕を通して手綱を握り、馬の腹を蹴る。後から護衛たちの馬も追ってくる様子を確認してから町を飛び出した。
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