【完結】断罪待ち悪役令息と絶対断罪しない王太子殿下

みやこ嬢

文字の大きさ
23 / 43

王太子にトラウマを植え付けたアタオカ令嬢

しおりを挟む

 アヴェリシア侯爵家の一人娘、ディアナ嬢はかつてローガン様の婚約者候補として名前が上がっていた。家柄も良く容姿端麗だが、一つだけ問題があった。思い込みが激し過ぎるのである。

 周囲から「王太子の婚約者」「未来の王妃」と言われて育ったからか、本人がすっかりその気になってしまったのだ。実際は数多あまたいる候補のうちの一人に過ぎないというのに、自分こそがローガン様の婚約者であると思い込んでいた。

 他の婚約者候補の令嬢たちを蹴散らし、時には卑劣な手段を用いて身を引かせた。ローガン様に恋人気取りで付きまとい、近付く者は男女問わず追い払ってきた。大抵の者は彼女に逆らわなかった。私も在学中にかなりの嫌がらせを受けた。父親の爵位や家柄が同格だったので気にせず無視をしてきたが。

 ディアナ嬢のせいで、ローガン様の周りから友人知人がいなくなった時期もある。特に私が貴族学院の長期休暇中王国軍で修行している間が一番酷かったと後から聞いた。

 当時内務大臣だったアヴェリシア侯爵が手引きし、本来なら招かれた者しか入れないはずの王族の居住区にまで入り込んだのである。ローガン様はそれ以来、年頃の女性に対して恐怖を抱くようになってしまった。

 アヴェリシア侯爵は爵位剥奪こそ免れたものの大臣職を追われ、ディアナ嬢は貴族学院の学籍抹消、生涯領地の外へ出ることを禁じられた。

 事件から数年経った今もローガン様の心の傷は癒えておらず、婚約者も決まっていない。国王陛下や重臣たちも事情を知っているため無理に縁談を持ってこない。

 そういう経緯もあり、旅程には気を配っていた。突然のアクシデント発生により経路変更を余儀無くされ、アヴェリシア侯爵領に入ってしまった……という流れである。

 町に訪れてすぐにディアナ嬢が現れたことから、最初の土砂崩れに侯爵が関与していたと考えられる。ローガン様の公務の予定を調べ、自分の領地を通らざるを得ない状況を作り上げたのだ。既成事実を作り、ローガン様を籠絡すれば婚約者の立場を得られると期待して。

 すべては愛娘であるディアナ嬢のため、そして再び国政に携わる大臣職に返り咲くために。

「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。問題ない」

 馬で街道を駆けながら、腕の中に収まっているローガン様に声をかける。お互い前を向いているから顔は見えないが、体はこわばったままだ。馬の首に伸ばされた手は小刻みに震えていて、指先に力が入っていない。まったく大丈夫ではなさそうな状態だ。

「ローガン様、どこかで休みましょう」

 体調を気遣って提案したのだが。

「嫌だ、一刻も早く離れたい。頼む」

 切羽詰まった声に、私はそれ以上言えなくなった。どちらにせよしばらくはアヴェリシア侯爵家の領内だ。安心して休める場所ではない。

 半刻ほど駆けた辺りで馬に疲れが見え始めた。もうすぐ日が暮れる。さすがに夜通し移動するわけにはいかない。この辺りでカタをつけると決めた。

「ローガン様。お願いがあるのですが」

 私はローガン様にとある頼みごとをしてから、次の町へと立ち寄った。町で一番立派な宿屋を王太子名義で貸し切りにし、二階の部屋へと入る。護衛の兵士には宿屋から離れた別の宿を取って休ませた。

 日が落ち、辺りが完全に暗くなった頃、町に一台の馬車が到着した。豪奢な車体の側面には侯爵家の紋章が刻まれている。

「うふふ、ローガン様ったら。いつまで経っても照れ屋さんなんだから♡」

 馬車から降りてきたのはディアナ嬢だ。侯爵家お抱えの私兵を二人引き連れ、彼女は宿屋へと足を踏み入れてきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?

七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。 その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー? 十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。 転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。 どんでん返しからの甘々ハピエンです。

嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い

おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。 家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。 でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい! 二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……? 真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ 独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。 基本明るい受け視点。中~長編になります。

何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について

桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。 ――それでも、心はまだ、生きたがっていた。 ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。 自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。 貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。 「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」 そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。 ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。 互いに死に場所を探していたふたり。 その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。 しかし、運命は安穏を許さない。 過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。 異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。 だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。 傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。 ――これは、「終わり」が定められた者が、 「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...