34 / 43
王太子の妹君に贈り物をしました
しおりを挟む道中トラブルはあったが、予定通りの日程をこなして王都へと帰還した。ローガン様と二人で国境の砦の視察報告をしに行った。
「建て直しか否かは決まりませんでしたか」
「イリスティーン卿があまり乗り気ではないようでな」
「ふむ。彼女は国家予算の不足を気にしていますからね。財務大臣も必要な場所には回すと言ってはいるのですが」
内務大臣のシュタルク侯爵は私の父である。大臣の執務室にて、ローガン様は内務大臣とテーブルを挟んで腰を下ろし、私が書き上げた報告書を見ながら話をしている。私はローガン様の後ろに立って控えている。
「しかし、予算に関しては先日ローガン様が治水工事の予算横領の件を対応してくださったおかげでなんとかなる見込みです」
「うん? そうなのか」
「男爵の財産を根こそぎ没収しましたので。作業員への未払い分の賃金の分配を終えれば、残りはすべて国庫に戻ります。砦の建て直しも可能になりますよ」
以前視察した王都郊外の治水工事の件だ。責任者の男爵を油断させるため、ローガン様と私の二人だけで視察に行ったのである。男爵はかなり私腹を肥やしていた。財産没収ともなれば、かなりの額になるだろう。
「俺としては建て直しをしたほうがいいと思う。予算の心配さえなければイリスティーン卿も反対はしないだろう」
「では、次の議会で話をしておきましょう」
報告も終わり、執務室を辞そうとした時に父から呼び止められた。
「ヴァイン、久々に家族揃って食事をしないか」
「父上。仕事中に家の話などしなくても」
「ルインが寂しがっていたぞ」
「……」
普段から朝食時にしか顔を合わせていなかったというのに一週間も家を空けていたのだ。悲しげなルインの顔を思い浮かべると胸が痛む。
「レネリアも気にかけていた。早く帰って顔を見せてやれ」
「……はい」
義母上が私を気にかけるはずなどない。彼女は前妻の子である私のことなど嫌っているに決まっている。ローガン様の前で嫌な部分を見せたくなくて、私は渋々頷いた。
「おまえの荷物もまとめて俺の部屋に運ばれてしまったようだ。取りに来い」
「は、わかりました」
内務大臣の執務室を出て、王宮奥にある王族の居住区へと向かう。廊下を行き交う侍女たちは立ち止まって恭しく頭を下げ、ローガン様を出迎えている。
「ローガン様、ミレーナ様が午後のお茶をご一緒したいとのことです。殿下のお部屋でよろしいですか?」
「構わん、用意を頼む」
「かしこまりました」
ローガン様の妹君、ミレーナ殿下は貴族学院に通っている。今日の授業を終え、もう王宮に帰ってきているようだ。
ローガン様の部屋で荷解きをしていると、程なくして侍女たちがカートを押して現れた。手際良くテーブルに真新しいクロスを敷き、茶器を並べ、何種類もの菓子が乗ったケーキスタンドを置いていく。すべての支度が整った頃、ミレーナ殿下がやってきた。
「お兄様、ヴァイン様、おかえりなさいませ!」
「ただいま、ミレーナ」
「ミレーナ様、お久しぶりです」
ドレスのすそを摘んで挨拶するミレーナ殿下はとても可愛らしい。ローガン様と同じ鮮やかな赤い髪はゆるく巻かれ、綺麗に結われている。大きな瞳は力強く、強い意思が宿っているとわかる。
「国境って、とても遠いのでしょう? わたし行ったことがないから興味あるわ」
「面白いものなどないぞ。なあ? ヴァイン」
「は。古びた砦と宿舎しかありません」
「んもう! そういうのがいいんじゃないの!」
年若い令嬢が好むものなどなにもない場所だ。嘘ではない。実際、土産を購入した場所は国境ではなく途中に寄った町なのだから。
「そうだ。ミレーナに土産がある」
ローガン様が銀細工の髪飾りが入った小箱を渡すと、ミレーナ殿下は「まあ!」と感嘆の声を上げた。
「お兄様ありがとうございます、大事にします!」
「気に入ってくれて良かった」
妹君の喜ぶ姿に、ローガン様も嬉しそうに笑っている。ふと思い立ち、私も小箱をミレーナ殿下へと差し出した。
「ミレーナ様。これは私からです」
「まあ、ヴァイン様がわたしに?」
驚きながらも、ミレーナ殿下は受け取った小箱を開けた。中には小さな銀細工のブローチが入っている。
「ローガン様が贈られた髪飾りと似た意匠の品です。胸元のリボンやタイを留めるのに丁度良いかと思いまして。揃いで着けていただければ嬉しいのですが」
「本当ね、とっても素敵! ヴァイン様ありがとう!」
喜びを隠しもしないミレーナ殿下に私の表情もついゆるんでしまった。
31
あなたにおすすめの小説
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い
おもちDX
BL
オメガ系貴族のシェリールは、貧乏貴族でアルファのルイと結婚した。
家のため、いい噂のないシェリールに婿入りしたルイはいつも不機嫌そうだ。
でもシェリールは、長年の推しであるルイにどれだけ冷たくされようと、同じ屋根の下にいるだけで幸せいっぱい!
二人の関係は発情期を機に変わっていく。シェリールの仕事ぶりや意外な一面を目にするたび、ルイの態度は軟化していくが、オメガを狙った盗賊団の活動が二人の住む領に迫ってきて……?
真面目で無愛想な騎士アルファ✕推しが夫になって幸せすぎる敏腕領主オメガ
独自設定の異世界オメガバースです。ハッピーエンド。
基本明るい受け視点。中~長編になります。
何もかも全て諦めてしまったラスボス予定の悪役令息は、死に場所を探していた傭兵に居場所を与えてしまった件について
桜塚あお華
BL
何もかも諦めた。愛も、希望も、命すらも。
――それでも、心はまだ、生きたがっていた。
ハイデン・ヴァルメルシュタインは、前世の記憶を持つ【転生者】だ。
自分が生まれた世界が、乙女ゲーム『月下の誓い』の舞台であることを知り、やがて「破滅する悪役令息」という運命を受け入れていた。
貴族社会からは距離を置き、屋敷の一室で引きこもるように生きる日々。そんな彼の前にある日、ひとりの傭兵が現れる。
「ここで死んでも、誰にも見つからねぇかと思ってな」
そう言って離れに住みついたその男――名も知らぬ傭兵は、毎日、無言で食事を置いていく。
ハイデンはその素朴な味に、いつしか心と身体が反応していることに気づく。
互いに死に場所を探していたふたり。
その静かな日常の中で、少しずつ言葉が、温もりが、感情が芽生えていく。
しかし、運命は安穏を許さない。
過去のゲームシナリオ通り、王都ではハイデンにとっては【破滅】としての物語が動き始める。
異母兄アゼルは政略のためにハイデンを再び駒にしようと動き、本来の【ヒロイン】であるリリアは、理想の正義をかざして彼を排除しようとする。
だがハイデンはもう、ただの【登場人物】ではいられない。
傍にいてくれた名も知らぬ男と共に、自らの意思でこの世界を歩むと決めたのだから。
――これは、「終わり」が定められた者が、
「生きたい」と願ったときに始まる、運命の書き換えの物語。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
【完結】異世界はなんでも美味しい!
鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ
異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。
頭は良くない。
完結しました!ありがとうございますーーーーー!
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる