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しおりを挟む警備兵に捕縛され、アヴェリシア侯爵は会議室から引き摺られるようにして退出させられていった。最後まで見苦しく喚き散らす姿を見送りながら、ローガン様がホッと安堵の息をつく。
よほど恐怖を感じていたのだろう。アヴェリシア侯爵が登場してからローガン様は一度も口を開かなかったし、座ったまま固まっていた。下手に刺激すればなにをしでかすかわからない相手には無視や無反応が一番最適な対処法とも言える。
「はあ、昔はおかしな言動はしなかったんだがのう。彼奴はなぜあのような人間になってしまったのだ」
ずっと沈黙を貫いていた国王陛下がぽつりとこぼした。
アヴェリシア侯爵は前内務大臣として数年前まで国政に携わっていた人物だ。就任当初は優秀だったが、一人娘のディアナ嬢が貴族学院に入学した辺りから狂い始めたらしい。娘を王太子と結婚させて王妃にするという野望を抱き、おかしな行動を取り始めた。結果としてディアナ嬢は貴族学院卒業間近に除籍、アヴェリシア侯爵は大臣職を罷免され、親子ともども遠方の領地に戻されたのである。
アヴェリシア侯爵家は由緒ある高位貴族で、ディアナ嬢も黙っていれば美しい令嬢。他の令嬢を蹴落とし、無理やりローガン様に近付こうとさえしなければ望み通りに婚約話がまとまった可能性が非常に高い。だが、この親子は愚かだった。早く婚約者の立場を盤石のものにしたいと焦ったばかりに全てを失ってしまったのだ。
「長年の功に免じて処罰を甘くしたのが良くなかったのだろう。アヴェリシア侯爵は爵位剥奪の上、一族を国外追放。二度と我が国の土を踏むことは罷りならんと伝えておけ」
「は、かしこまりました」
国王陛下の命令により処分が決定。宰相が了承し、もちろん同席の大臣たちも賛成した。ローガン様を脅やかす存在が消え、私もホッとして思わず口元を緩めた。
予定していた議題も片付き、ついでにアヴェリシア侯爵の問題も片付いたところで御前会議は終了となった。砕けた雰囲気の中、参加者同士の雑談が始まる。
「閣下、ご協力いただき誠にありがとうございました」
「なぁに、アタシは大したことはしてないよ。実際に調査しに行ったのはステインだしね」
真っ先に感謝の言葉を述べると、アミル様は笑いながらステイン先輩を引っ張り出してきた。
街道の通行止めによりアヴェリシア侯爵領に行かざるを得ない状況に陥った際、国境の砦に兵士を一人行かせておいたのだ。アミル様に調査を依頼した結果、私の予想通りアヴェリシア侯爵が関わっていた、ということだ。
「ステイン先輩もありがとうございました。いずれ御礼をさせてください」
「また酒に付き合ってくれりゃいいよ。それに、調査しに行った村にたまたまフィガロがいたんだ。アイツが代わりに聞き込みしてくれたおかげで順調に情報が集まったんだよ」
「フィガロ先輩が?」
フィガロ先輩とは以前私が世話になった先輩の一人だ。怪我が原因で退役し、現在は田舎で家業を継いでいると聞いている。見知らぬ兵士からいきなり聞き込みをされれば警戒されるが、フィガロ先輩なら自然な形で情報収集ができる。御礼をする名目で一度顔を出そうと心に決めた。
私たちが話をしている最中、国王陛下や宰相を中心に別の話題で盛り上がっていた。
「こうしてアヴェリシア侯爵の処分が決まったことですし、そろそろローガン様の婚約者探しを再開してもよろしいのでは?」
「ふむ、それもそうじゃのう」
過去に婚約者候補だった令嬢たちはディアナ嬢の過度な嫌がらせのせいでみな辞退してしまった。遠方の領地に引っ込んでからも情報を集め、ローガン様に近付く令嬢に対してアヴェリシア侯爵が圧力をかけていたという。故にしばらくの間は国王陛下も承知の上で、敢えて婚約者を定めていなかった。
しかし、問題の原因がいなくなれば話は別だ。国内の令嬢が駄目なら近隣諸国から、などと外務大臣が言い出した辺りでローガン様が「やめてくれ」と呟いた。弱々しい声だが、会議室内にいる全員を黙らせるくらいの迫力がある。
「ローガン様」
私はすぐさまアミル様とステイン先輩から離れ、ローガン様へと駆け寄った。椅子に座ったまま俯く彼の肩は震えている。先ほどまでの恐怖や緊張からくる震えではない。怒りや憤りといった感情があふれていると感じた。
「俺に婚約者を決める必要などない。だから、そんな話はやめてくれ」
「で、ですが、次期国王なのですから、そろそろ」
しどろもどろになりながらも正論で返す宰相。だが、ローガン様は更に言葉を続けた。
「俺には国王になる資格なんかない。現に、アヴェリシア侯爵を前にした時になにも言えなかった。ずっと苦しめられてきたのに、反論どころか体が竦んで動けなかった。……こんな弱い男が国王になんてなれるはずがない」
会議室内がしんと静まり返った。
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