【完結】断罪待ち悪役令息と絶対断罪しない王太子殿下

みやこ嬢

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義理の母の事情と私たち二人の想いの果てに

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 義母上は私を嫌っていたわけではないと言った。この場から逃れるための言い訳ではないらしい。

「ちょっといいかい?」

 国王陛下の乱心を止めていたアミル様が事情を察して説明を始めた。

「貴族ってのは裏で根も葉もない噂を流されるものなんだよ。恋愛結婚関連は特に。シュタルク侯爵とレネリアさんは再婚だから当時社交界の夫人がたの間では根拠のない憶測や醜聞が飛び交っていたんだ。……そうだろう? レネリアさん」
「は、はい。その通りです、イリスティーン様」

 そうなのか、と固まる父をはじめとした男性陣。

「わたしの実家はご存知の通り没落し、爵位も領地も残ってはおりません。幼い頃から決まっていた縁談も没落後に相手側から断られてしまい、行き場を失っていたわたしを救ってくださったのがシュタルク侯爵様でした。住み込みで雇われ、ヴァインの世話係をするうちに侯爵様と恋仲となりましたが、聞くに耐えないような噂を流されてしまい……」

 ぽつぽつと過去の話をする義母上。再婚の経緯は知っていたが、酷い噂云々は初耳だった。

「わたしが妻を亡くした父と母を亡くした息子をたぶらかしてシュタルク侯爵家を乗っ取り、家を再興させるつもりなのでは、と。陰で噂されるだけなら耐えられましたが、中には直接苦言を言ってくるようなご夫人もいらっしゃって」
「あたしも聞いたことがあるよ。噂話に尾ひれがついて、とんでもない悪女みたいな言われようだった。噂を流していた奴らは叱っておいたけどね」

 予想より酷い内容に、私は思わず顔をしかめた。私や父が知らぬところで、義母上は謂れのない誹謗中傷を受けて苦しんでいたのだ。

「ヴァインはとても懐いてくれていたけれど、血が繋がっていない上に悪評が立てられているわたしなんかが母親のような顔をしてそばにいたら害にしかならないのではと考えるようになりました。ちょうどその頃ルインを授かり、育児を理由にヴァインと距離を置くようにしたのです」

 申し訳なさそうに避けていた理由を語る義母上の姿を見て、私の目から涙がこぼれ落ちた。

「私はてっきり義母上から疎まれているとばかり……私がいなければ、ルインが侯爵家の跡取りになれるから、と」
「そんなこと考えたことすらありません。もしあなたを差し置いてルインが後を継いだら酷い噂が事実になってしまう。先ほども申し上げた通り、わたしはなにも望んでおりません」

 私の思い込みは義母上へに対する侮辱でしかなかった。自分の寂しさと辛さばかりを重視して、義母上の気持ちを一切考えていなかった。根も葉もない醜聞を流す奴らと同じ最低な人間だ。

「一番反省せねばならないのは私だな。妻が苦しんでいることも、息子が思い悩んでいることも知らずにいたのだから」

 父が溜め息をこぼした。

 義母上は愚痴もこぼさずに家を守っていた。父の仕事に支障が出ないよう、余計なことを言わずに隠し通していた。良き妻、良き母として振る舞い、前妻の子と適切な距離を保つことで悪い噂を払拭しようと努力していたのだろう。

「──シュタルク侯爵家の話は終わったか?」

 ぞわりと背筋に悪寒が走る。振り返ると、怒りの形相をした国王陛下がこちらを睨みつけていた。

「義理の親子間で不幸な行き違いがあったというのは理解した。だが、その結果ローガンを傷モノにしたという事実はどうしてくれるのじゃ」

 そうだ。まだなにも解決していない。私の愚かな思い込みが原因で取り返しのつかない事態になってしまっているのだ。私はどうなっても構わないが、義母上の話を聞いた後では話が変わってしまう。経緯がどうであれルインが私の代わりに後を継ぐとなれば、義母上の立場が危うくなるのである。

「陛下、覚悟はできております。国外追放でも極刑でも文句はありません。ただ、義母上の名誉が守られるよう配慮をお願いいたします」
「父上。ヴァインを処するなら俺にも同じ罰を」

 私は深々と頭を下げた。すると、隣にいたローガン様までもが頭を下げた。

「ローガン様、なりません。罰を受けるべきは私だけで、あなたはなにも悪いことはしていないのですから」

 私が諭すと、ローガン様は笑った。

「悪いことならしている」
「えっ」

 驚いて頭を上げ、ローガン様のほうを見る。いつもは凛々しい顔なのに困ったように眉が下がり、口元は無理に笑おうとしたのか微妙に歪んでいた。

「王太子という立場でありながら、側近のおまえに惹かれてしまった。なにをされても拒否しなかった理由は、おまえに触れられて嬉しかったからだ。もしそれが極刑に値する大罪だとするのなら、おまえを止めなかった俺こそが大罪人だ」
「ローガン様……ッ!」

 視界がぼやけ、ぐにゃりと歪む。大粒の涙が私の目からボタボタと床にこぼれ、絨毯にしみを作っていく。

「断罪されたいなんて、ただの口実でしかありません。理由をつけてあなたに触れたかっただけなのだと、今になってようやくわかりました。あなたの優しさに甘え、酷いことばかりして。私のほうが大罪人に決まっております」

 私たちは初めて心の内をすべて曝け出した。いつしか互いに手を取り合い、周りを気にせずローガン様の体をかき抱いていた。二度と会えなくなるかもしれないと思ったら、家族や恩師、先輩がいても気にしてはいられなかった。

「お父様はこーんなに想い合っている二人を引き離すなんてヒドい真似しないわよね?」
「陛下、王女殿下の仰る通りですよ」
「器の大きいところを見せるべきじゃないかねぇ?」

 ミレーナ殿下と宰相、アミル様が国王陛下を囲んで圧をかけている。

 怒りのままに私を処刑すれば優秀な王太子を失うどころか、愛娘から嫌われ、重臣である宰相やイリスティーン卿から見限られる。そして、内務大臣であるシュタルク侯爵家とも微妙な関係になることは確実。

 あらゆる事柄を天秤にかけた結果、国王陛下は怒りを収めてくださり、私たちは無罪放免となった。


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