『嘘憑き探偵・逆宮くんの失言』

蚊か何か/カカナンカ

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【過去編】「ひずみという名の少年」

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昔、僕は語原ひずみという名前だった。

 ――と言われたことがある。
 誰に? 逆宮くんに。
 信じるか? 無理だ。だって、彼は嘘つきだから。
 でも、不思議なことに――記憶の断片が、確かにそう言っている。

 たとえば、幼い日の夢の中に出てくる景色。
 図書室の奥の小部屋。誰もいない放課後の理科準備室。埃の香りと、消毒液の混じった匂い。
 そこに、白い服の少女がいた。

「ひずみくんは、嘘が嫌いなんだよね?」

 その少女――名前は、たしか剣城あめ。
 今の剣城さんとは、顔が似てる。でも、違う。違うようで、同じな気もする。
 思い出すたび、**顔のディテールが変わる。**恐ろしい現象だ。

「嘘が嫌いな人が、どうして嘘をつくの?」

 あの日。あのとき。
 僕は、なにかを隠していた。
 彼女にだけは知られたくないと思っていたのに――

「ねえ、“ひずみ”。この記憶、私にくれる?」

 そう言って、あめはビー玉を差し出した。
 そのビー玉は、僕の目の色に似ていた。
 青くて、透明で、どこか悲しげだった。

「それを持っていけば、君の嘘は本当になる」

 その言葉の意味を、あのときの僕は分からなかった。
 でも、今の僕は分かる。
 記憶は、誰かと共有したとき、現実になる。
 逆に言えば――

「渡さなければ、君だけの嘘のままでいられたのに」



 そう、逆宮くんが笑ったのは、たぶん、
 このことを知っていたからだ。



【モノローグ:逆宮くん】

「語原ひずみ――ああ、懐かしい名前だ」
「でも、あのとき“彼”が何をしたかは、僕が一番よく知っている」
「だってあれは、“僕が仕組んだ”んだから」
「探偵が、事件を作るなんて、あるまじきこと?」
「――違うよ。“嘘憑き”には、それが仕事なんだ」
「だって真実だけじゃ、物語は足りないからね?」
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