『嘘憑き探偵・逆宮くんの失言』

蚊か何か/カカナンカ

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「君が忘れたのは、僕の嘘か、それとも僕そのものか」

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 午前0時。僕は、学校にいた。正確には、「気がついたら」いた。

 なぜか。どうしてか。何のためか。すべて分からない。そんなに不自然じゃない。なぜなら、僕には――

「記憶がないからね」

 暗闇の中、しれっと声をかけてくるのは、当然のように逆宮くんだ。彼は光の届かない天井に逆さ吊りでぶら下がっていた。どうやってそこにいるのかは聞かない。なぜなら――

「それも嘘だからね」

 自分から言ってくれる親切設計。ほんと助かる。いや、助かってないけど。

「語原くん、君は今、“記憶喪失”を演じている」

「演じてる?」

「そう。つまりこれは――君が選んだ自傷行為だ。忘れることでしか、現実を受け止められなかったんだよ」

 ぞっとした。なぜなら、逆宮くんの言葉は、嘘ではない気がしたからだ。

「で、何を忘れたんだ、僕は」

「うーん……たとえば、彼女を殺したこととか?」

「は?」

「うそうそ♡」

 笑顔で嘘をつくのは簡単だけど、笑顔で真実を言うのは難しい。だから彼は、その逆をやる。嘘を真実みたいに語るから、真実が嘘に見える。

 ――と、そこで。

「語原くん」

 後ろから、やけに優しい声がした。振り返ると、剣城さんが立っていた。手には青いビー玉が三つ。いや、四つ。いや、無数に見えたのは、たぶん気のせい。

「返すね。あなたが捨てたもの。私が拾ったもの。私の中で腐ったもの」

 彼女は、僕の手にビー玉を押し付ける。

 その瞬間、脳裏に焼きつく光景があった。

 ――雨の日。びしょ濡れの彼女。泣きながら僕に何かを叫んでいる。
 ――階段の上。突き飛ばされた僕。落ちる彼女。空中で伸ばされた手。届かない。
 ――僕の手の中のビー玉。赤く染まっていた。

「……思い出した?」

「ううん。思い出してない。でも」

 僕は答えた。はっきりと。

「思い出した“気がする”だけで、充分怖いよ」

 逆宮くんは、にこりともせずに言った。

「それが、記憶の真価ってやつだ。嘘よりずっと厄介で、真実よりずっと不確か」

 だからこそ。

 僕は、まだ何も知らない方が幸せなんだろうか?

 そんな問いすら、もう意味を持たなくなる。



「ねぇ語原くん。君ってほんとは誰だったっけ?」
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