『嘘憑き探偵・逆宮くんの失言』

蚊か何か/カカナンカ

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『さよなら、あめ。僕の罪と罰と、たった一粒の救い』

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 剣城あめは、いなくなった。

 どこに? 

 それは分からない。

 なぜなら、彼女の存在そのものが

**“語られない限り存在しない”**からだ。

 僕が、彼女の名前を呼ばなければ。
 僕が、彼女との記憶を語らなければ。
 彼女は、世界から滑り落ちていく。

 ――でも。

> 「語原くん。“あめ”はまだ君の中にいる。だって、嘘は消せても、罪は消えないからね」



 逆宮くんは、今日も教室の窓にぶら下がりながら笑う。
 その笑顔は、いつも通りのくせに、どこか寂しげだった。

「君は彼女を作り、彼女を愛し、そして、彼女を壊した。まるで神様ごっこ」

「違う……!」

 僕は叫ぶ。声が震える。過去が、脳の中で泡立っている。

「僕は、あめを――守りたかっただけだ!」

「じゃあ、思い出してみせなよ。彼女が、最後に君に言った言葉」

 そう言って、逆宮はビー玉を取り出す。
 今までのものとは違う。
 黒い。
 吸い込まれそうな漆黒の球体。その中心で、雨音が鳴っていた。


---

【記憶の中】

「ひずみくん。もし、私がいなくなったら、君はどうする?」

「……忘れようとすると思う。でも、無理だよ。君は、忘れられない」

「ううん。忘れていいよ。
 ただ、“忘れたことを覚えていて”。
 私がいたって、嘘でもいいから、思い出して。
 たった一回、誰かにそう話してくれたら、それで――私は、生きてるから」


---

 記憶から戻った僕の手には、黒いビー玉が握られていた。
 そしてその中に、確かに――あめがいた。笑っていた。

「彼女は、君の罪を背負って消えたんだ」

 逆宮くんの声は、もういつもの調子じゃなかった。

「そして僕は――その“嘘の神様”を君の代わりにやってた。
 君のために、彼女をこの世界に“語り続けて”たんだよ」

「……え?」

「でも、もう限界。僕が彼女を語る限り、君は前に進めない。
 だから、“今度こそ”君がやるんだ。
 あめを語って、あめを手放して。」

 逆宮くんの笑顔が、雨に滲んだ。
 この日、初めて知った。彼もまた――誰かを失っていたのだということを。


---

【教室の窓から】

 ビー玉を手放す。
 黒い粒が、空へ吸い込まれていく。

「剣城あめは、僕の嘘で生まれた。でも――本当のことを言うよ」

 僕は世界に向かって、呟いた。

「彼女は、僕を救ってくれた。
 だから今、君の中にも“あめ”がいるなら――
 それはもう、嘘じゃない。
 嘘でも、作り物でも、虚構でも、君が信じたなら、それが“存在”だ。」

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