ローズマリーと犬

無名

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後章

Side T 14

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「入った…」と苦しそうな、けれども聞いたことないくらい熱い声で囁かれて、おれは無意識に止めていた息をようやく吐いて、打ち上げられた魚みたいにはくはくと酸素を求める。
酸欠で飛んでたのかもしれない。けど、その間に入ったらしい。
おもちゃやらなんやらいろいろと突っ込んだことがあるけれど、こんなに広がってるのは初めてかもと引きつる痛みを不安に思ったが顔を上げたら、いつきが心配そうにのぞき込んで汗でびっしゃびしゃの髪をすきながら大丈夫?と優しい声で尋ねてくるものだから、負の気持ちはすべてとけてどこかに行ってしまう。

「は、はあ…あつ、い…」
「ね…あついね…」

そうしてしばらくなじむまで待っていたようだが、やがて動いてもいいか聞かれてうんと頷く。
挿れるのはすごく困難だったのに、出て行くのは一瞬だ。
おれの体液でぬるぬると滑りながらすごい質量のそれがぞりりりと肉壁のあちらこちらを擦りながら出て行くのに全身に鳥肌を立てながらのけぞってしまう。

「はううううッ……!!っくう、うあっ…!!あっ…あああ…!!」

全て出て行く直前でゆるく抽出され、そしてまたゆっくりとおれのなかに戻っていく。
ここ一週間の苦しみがなんだったんだってくらい、たった一度の抽出で身体の中すべてが満たされる心地がした。
いつきの腰の動きが早くなっていく。

「あっ!!ああ!!ああああっ!!ひうっ!!!うああああ…ッ、やあぁッッ!!」
「は、あ…あっつ……」
「うっうう!! っく!!うううっ…あっああん!!ふかいぃ…!!!ああ、あああ…!!!」

信じられないくらい身体を深く折り曲げられてるせいで、内臓が変な方向に突かれるのがわかる。
前立腺がそぎ落とされてしまうんじゃないかってくらい強くこすられて、目を開いているはずなのに何も見えなくなった。
気持ちいいんだかなんだかわからない。苦しいのかもしれない。
けど怖さはなくて、何も言えない口のかわりにつないだ手にぎゅうと力を込める。
これ、奥まで届いてないか?
こないだ初めてつながったときよりずっと深い。
暴かれたことのない場所を突かれるたびに喜びと興奮で中がぐねぐねとうねってしまう。

「い、いつきっ…!!いつきぃ…!!!あっ!!奥、おくやだぁ…!!へんに、なるぅっああ!!」
「なか、すごい…っく…透さん…透さん…ッ」
「ううう…!!あっああっ!!」

ぱちゅぱちゅというかわいい音が次第にパンパンと激しく打ち付ける音に変わって、おれから出たなんだかわからない汁があちこちに飛び散るのが見えた。
全部わからなくなったおれの耳元で熱っぽい声で「気持ちい…」と呟く声がして、それだけで薄くなった精液がとろりとこぼれてぞくぞくした。

首に回していた腕はいつのまにかぽとりと落ちてシーツの上で跳ねるだけになっている。
すごい力で揺さぶられるからただでさえ神経がぶつ切りにされてるような身体の感覚のなかから腕の感覚を拾い上げるのも一苦労で、だけどなんとかたぐりよせると、いつきのふさふさの髪をかきあげてやる。
きもちいいか、よかった、と思いながら撫でてやる。
熱っぽい目がまあるく見開かれ、それからたまらないというふうにくしゃと歪んで、深く口づけられた。
ばか、そんなことされたらただでさえいっぱいいっぱいなのに息できないって。
そんな批難の声すら呑み込まされて、おれはただただ大きく深く揺さぶられる。

「は、はあっ…!!あああ…い、いくっいく…!!うっうあん…!!」
「俺、も…ッ!」
「あっ…ああっ…あああああああ!!!」
「っ…!!」

足先がぴんと伸びて背中がのけぞった。
長い長い絶頂から降りてこられない。
けれども体のなかに広がる生温かさだけがやたらとリアルに感じられて、ドクドクと脈打つそれが愛おしくて、一生懸命絞りあげた。

「かっ…はあ…!!あっ…ああぁ…」

硬くなっていた背筋が弛緩してシーツにべしゃりと落ちた。
すかさずいつきがおれの頭をでかい手でつかんで舌をむさぼる。
あまりにも気持ちがよくて、ぞくぞくと身体を震わせながら、射精するかわりにとろとろの液体を何度かに分けてこぼした。
いつきが腰を引くと、ぐぱっとすごい音がしてそれが抜かれ、開き切った穴に空気が触れてまた全身に鳥肌が立った。

「…は、はあ…っは……けほっ……」
「はあ…はあ…。すご…ほんとに入った…。透さん大丈夫…?苦しくない…?」

賢者タイムという言葉がある。
射精したのち一気に気持ちが冷めるというあの。
嘘みたいに突然収まった熱の奔流から解放されてクリアになった頭で最初に思ったのはやっぱりおれたちの身体も精神もホルモンバランスに左右されているのではないかという、…とてつもない悲しさだった。

「っく…」
「…透さん?」

生理的な涙や苦しさから来る涙ではないものがぼろりとこぼれた。
しゃくりあげるような声が止まらない。
今の今まで全身が痙攣していたが、今度は喉の奥だか胸の奥だかわからないところが震えて止まらない。
おれは体を丸めて横を向きいつきから目を反らす。顔を見られたくなかった。

「透さん、大丈夫?怖かった?もしかして嫌だった…?ごめんね、俺…」

とても心配そうにおろおろとした声。
触れていいのかどうかもわからずにただ身体を近づけて手をさまよわせているのが目を反らしていても蛍光灯でつくられた手の影が揺れることでわかる。
ああ、だめだ。眠い。へとへとだ。
ずっと苦しくて、熱くて、疲れた。
さっきまで白飛びしていた意識が、今度は眠気と共にブラックアウトしていく。
泣きながら眠りにつくなんて子どもみたいだ、と意識を手放す前にぼんやりと思った。

「…昨日、どこ行ってたの…」
「え?」

ぽつり、と尋ねた。
聞くつもりなんてなかったから口をついて出たそれにびっくりした。
それからすぐに怖くなって、返事から逃げるように、眠りについた。
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