コレは誰の姫ですか?

月那

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 大晦日。
 いつメン四人で朝から仲良くデートである。
 大会を終えて帰って来た土岐と響と、久々に四人で遊べるということで。
 朝からゲーセン、カラオケからの一旦瑞浪家で年越しそばを食べてからの、二年参り。そして仮眠を取って元旦初日の出を見る、という予定。

「やっぱ恵那歌上手いよね」髭男を熱唱している恵那を見て、目をハートマークにしながら涼が言う。
「音楽関係、強いねんあいつ。中学ん時はでも、合唱祭は毎年伴奏しよったけどな」
 響がポッキーを齧りながら言った。

「ピアノ弾けて、歌上手くて、楽器もいろいろ演奏できて。も、完璧超人じゃん」
 カッコイイ、と涼が言うと「おいおい、もっと褒めていいぞ。俺はおまえの自慢のカレシだからな」と、いつものようにふんぞり返る。

「こーゆートコがウザいねん、こいつは。まじでいっぺん鼻っぱしらへし折ってやりたい」
「響なんかに折られるようなやわな鼻、してねーし」
 へろへろーんと舌を出して。
 すとん、と涼の隣に座る。
「涼、何歌う?」
「ええー。僕、いいよお。あんまり歌、知らないし」
 手を振ってマイクを押し返すと、響に「どおぞ」と促す。

「土岐も上手いねんで? 遠征ん時、バスん中で三代目うとーとったけど、あれ良かった」
「やめろ。アカペラで歌わされるのは死ぬほどキツい」
 度胸試しだかなんだかで、バスの中で一年生全員にマイクが回って来る。しかもカラオケどころかアカペラで歌わされるというバスケ部恒例の鬼カラ。
 土岐は当然そんなの苦手で苦手でどうしようもないのだけれど、響がフォローして「二人でR.Y.U.S.E.I.行きまーす」と一緒に歌ってくれて、おかげで先輩方もノリノリで踊ってくれたからなんとか乗り切れたけれど、その時だけはこのバスケ部に入ったことを後悔していた。

「あ、じゃあ土岐それ、歌えよ。俺もあんまり土岐の歌は聴かねーからなー」
「やだよ。俺の分までおまえが歌ってろ」
「おいおい、俺のリサイタルか? 金取るぞ?」
「出たな、ジャイアン。カラオケボックス壊すなや?」
「ぼえぼえ歌うジャイアンじゃねえ。俺の美声に酔っておまえらぶっ倒れるぞ」

 相変わらず、響と恵那が二人して下らないやり取りをするから、涼はくすくす笑っていて。
 土岐はそれを遠目に見ているしかできない。

 四人でいても、ふとした瞬間涼が恵那と手を繋いでいたり、目を合わせて微笑んでいたりする空気感が、完全に甘々で、それに対して響が触れずにいるから土岐も黙っているけれど。
 でも、気にはなる。
 クリスマスイブを二人で過ごしていたということは、聞いた。
 涼が、響と土岐にもまた改めてお礼、するからと言っていたけれど。そんなことより何より、二人が完全に“デキ上がった”のかと思うと。
 胸の奥が、苦しくなる。

 わかっていたことだ。涼が恵那のモノだということは。
 自分が横恋慕したところで、この二人の間に入っていけるわけなんてなくて。
 だから、見守るしかないし、涼が幸せなのだからそれは喜ぶべきで。

 家で恵那が涼にこっそりキスをする瞬間を、ついこの間うっかり見てしまった時。
 漸く自分の気持ちに明確な“嫉妬”を覚えた。
 そして、自分が涼を好きだということに、気付いた。

 初めて逢った時から可愛いとは思っていた。
 でもその時から涼はずっと恵那のモノで。
 友達として一緒にいる分には楽しいだけで、四人で下らない話をしているだけで良かった。他にそれ以上の何も感じなかった。
 けれど、はっきりと涼が恵那と付き合うことになり、更にこうしてその仲を見せつけられるようになってから。

 自分の中の、涼への恋心に気付いた。
 というか、コレが“恋”なのか、と初めて思った。……つまり、初恋。
 そして気付いたと同時に失恋、というわけで。

 ぐわっと燃え上がれるならまだ良かったのだろうが、何しろ基本的な感情が平坦な土岐である。
 可愛いと思う、イコール好き、なんて単純な話があってたまるか、と冷静に冷静を重ねて自分の感情を押し殺していただけに、自分の兄がその相手とラブラブな様子を見てやっと膨れ上がった想いに気付いたのだ。
 今更どうしようもない。
 且つ、どうするつもりも、ない。

 邪魔をするつもりもないし、当然だが伝えるつもりもない。
 ただこうして、遠くから見ている。
 幸せそうに恵那の横で微笑んで、まさに王子様キャラな恵那がそれを優しく護ってやっているのだから。
 敢えてそれに横槍を入れるなんて野暮なこと、する必要がない。

 失恋上等。
 どうせ実らない恋。
 初恋なんてそんなものだ、と思うわけで。
 だからこそ。この二人がずっと仲良くしてくれればそれでいい。

 土岐は誰にも見られないように、そっとため息を吐いた。
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