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【8】the Deep End

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 ある程度の技量を持った人間をリーダーに据えて、そこでチームを育てる。そのまま、ずっと同じメンバーで延々と業務を続けるチームが大半ではあるが、中にはリーダーではなく別の頭角を現したメンバーが独立して別チームを編成することもあるし、堀さんのようにリーダーが会社から独立してくことも、ない話じゃない。
 そして、堀さんがリーダーになった時からもう、うちの会社は――というより社長は――こうなることがわかっていたようで。
 ま、それに俺が付いてくってのは、ただただ俺と堀さんだけの都合なんだけど。
 一応、俺の件については社長とひと悶着あったってのは、事実。社長にしてみれば、うちのチームは俺が引き継ぐことを前提にしてたみたいで。俺まで抜けるのはちょっと納得いかないって。
 でも、そこは堀さんだから。あの人が俺を必要だと、そう主張してくれたから。
「チームの、仕事は?」
 暫く黙って、俺の言葉を咀嚼していた田村が、なんとか自分を取り戻したようで。
「堀さんの名前が付いてる仕事は、新しい会社に持ってく。それに関しては、今の会社と話がついてるし、当然クライアントにも話は通ってる。けど、他のは全部、律に引き継ぐ」
「でも」
「俺のは未定。クライアントとの話し合いを、これからやってく」
「じゃなくて!」
「チームの仕事に関しては、基本的におまえら三人が基幹になるように、堀さんが動いてるから、もう」
「…………」
 不安な、表情。
 わかるよ、それは。
 でも、理解しろ。
「まだ、あと何か月かは七人体勢でやるから、そんな焦る必要はないし、俺たちもちゃんとそれまでフォローするつもりだ」
 突然のことだから、不安なのは、わかる。
 でも堀さんも俺も、田村と鹿倉がもう自立できたと踏んだからこの話を進めているんだ。
 この二人を育てたいから、堀さんが作ったチームで。
 律のこともきっかけの一つ。律の経験値がこの二人を育てると思ったし、育てたことで律がよりその地位を押し上げるだろうことは、堀さんには最初からわかってたことで。
 いや、まああの人のことだから全然無意識なんだろうけど。
 きっと、機が熟した、ということで。
 そして、那須と戸波が、入る。
 それはこの二人を育てることで、今度は三人がどこまでも走っていけることになるだろうから。
 堀さんが田村を、鹿倉を、律を。とにかく大好きで。大事で。可愛くて仕方なくて。
「……そしたら志麻さん、いなくなるの?」
 不安な声。で、問う。
「うん。いなくなるよ」
「何で?」
 拗ねてる、声。
「俺、志麻さんがいないと何も、できないのに」
「んなこと、ねーだろ。も、おまえとかぐで十分やってけてんじゃん。既におまえ名指しで来る案件だってあるし、営業がおまえの名前で取ってくる仕事だってある」
「そんなのまだ、ちょっとじゃん。俺、まだ志麻さんに教えて貰いたいこと、いっぱいあんのに」
「いつまでも甘えたこと、言ってんじゃねーよ」
「甘えてなんか、ねーもん」
 いや、その口調がそもそも、甘えてんじゃねーか。
 まあ、それが可愛いんだけどさ、俺にとっては。
「田村はさ、堀さん、開放してあげたいと、思わん?」
「解放?」
「あの人、もっと自由に遊ばせてやりたいんだよ、俺は」
 今でも大概自由にやってっけどね。でも、なんてゆーか、多分あの人なりに現状、気を遣ってるトコ、あんだろうし。
 そーゆーシガラミ、みたいなもん、全部取っ払って好きにさせてやりたいんだよ。俺が、ね。
「でも……堀さん、出てくのはいいけど、志麻さんまで行くこと、ないじゃん」
 完全に拗ねてんなー、こいつ。
「それはね、田村。堀さんには俺が必要で、俺にも堀さんが必要だから、だよ」
 おもしれーから、そう、言い切ってやる。かぐちゃんのマネして、くふくふ笑いながら。
 なんか、かぐちゃんの気持ち、わかるかも。
 田村の可愛さが、ものごっつ、感じられるんだわ、コレ。
 だって、ほんとに泣きそうな顔して、下唇噛んじゃってる田村が、とにかくやたらと可愛い。
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